M29と呼ばれた男 第6話
それから三日間。仕事が無い日が続いた。
404部隊の面々は相変わらずの日常を過ごしていたが、俺はあの襲撃してきた軍用車両の事が気にかかっていた。
わざわざI.O.P社の敷地にまで乗り込んできて、アサルトライフルで撃ってきた奴ら。
すぐに解決すべき案件だと思うのだが、I.O.Pが送ってくる情報は『調査中』の三文字だけだ。
気晴らしに外に出る。外の空気を吸うと頭がすっきりするのは、人形の身体でも変わりない。
辺りを見回せば鬱蒼とした植生林に囲まれている。コンビニなんて文明的なものは望めそうにない。
宿舎の前に置かれた配給車のジープで出かけたくなるが、俺たちは『待機中』であり『休暇中』ではないと45が言っていた。
つまり、非常事態や緊急召集に備えるために、宿舎から離れることはできないわけだ。
週末までには、街に出かけるくらいの自由が欲しくなる。適度な労働と、適度な休暇が人生にハリを与えてくれる。気楽な人生万歳だ。
「M29!やっと見つけた」
我流の人生論について思いを巡らしていると、G11に声をかけられた。
だらしない服装だ。ぼさぼさの髪に、着崩したダウンジャケット、スニーカーに至っては靴紐すら結ばずに履いている。今に、紐を踏んずけて転びそうだ。
24時間ベッドで寝ている睡眠欲の権化みたいなこの自律人形が、二足歩行するのは極めて珍しいことで、厄介事の気配に身構えてしまう。
「なにかあったのか?」
「45がみんなを呼んでる。緊急召集だってさ」
「緊急召集か。お前、眠そうな顔してるが、大丈夫か?」
「まだ眠いよ。そしたら45が眠気覚ましにM29を呼んで来いって。部屋に居なかったから宿舎中を探したよ」
「手間を取らせたな。今行くよ」
俺は、眠たげに頭を揺らすG11に続いて宿舎に入る。
ブリーフィングルーム、別名・いつもの溜まり場には404部隊の面々が集合していた。
いつもと違うのは、テレビにゲーム機器が繋がれている代わりに、通信機器が繋がれていることだ。
「みんなそろった?それじゃブリーフィングを始めよっか」
UMP45が通信機器のスイッチを入れると、テレビにスーツ姿の男の姿が映し出される。
サングラスで隠された目に、オールバックに流れた黒い長髪、年齢不詳。うさんくさい要素の塊だ。
どうやらこのうさんくさい男が、今回のクライアントのようだ。
「やあ、404部隊の諸君。元気そうで何より。私はI.O.P情報部所属のテルミドールだ。ブリーフィングを始めていいかな?」
「大丈夫よ。それで、今回の仕事(ビズ)は?」
テルミドールは俺の方に顔を向けた。
「先日、M29君が輸送中に襲撃を受けてね。その犯人がようやく判明したんだよ」
「襲撃?何かあったの?」
UMP9が俺に問いかけた。
「トラックでここまで来る途中、軍用車両に乗った二人組に、アサルトライフルで撃たれたんだよ」
疑問に答えてやると、UMP9はさらに聞いてきた。
「そいつらはどうなったの?」
「今ごろ、地獄でドライブしてるだろうな」
「やるじゃん」
UMP9は笑顔で言った。
「いや、地獄には行ってないだろうね」
テルミドールが言った。そんなはずはない。
「俺が撃ち殺したはずだ」
「二人とも自律人形だったんだ」
「自律人形…?どこの所属だ?」
「それが、情報タグの所属情報がきれいに破壊されていて、所属が分からなかった」
自律人形は民間用から軍事用に至るまで、様々なタイプが製造されている。
だが、それらの自律人形には必ず所属情報が刻まれており、情報タグをスキャンすれば、どこの誰の自律人形かが分かるようになっている。
「それはありえないわ」
416が言った。
「情報タグの書き換えは、製造メーカーしかできない。それ以外の所でやろうとすれば、自律人形自体のデータが吹っ飛ぶようになっているわ。仮に書きかえたとしても、所属情報だけを消去するなんてできるはずが…」
「その自立人形が、旧式のものだとしたら?」
テルミドールが含みのあるような言い方をした。俺は思わず聞いた。
「どういうことだ?」
「その自立人形は、第三次世界大戦で使われたものだったんだよ」
第三次世界大戦の自立人形。確かにあの頃の自律人形はデータセキュリティが緩く、やろうと思えば情報タグの書き換えぐらいはできるだろう。
「だが、なんでそんな骨董品共が俺を撃ってきたんだ?第三次世界大戦の亡霊が蘇ったとでも?最悪なジョークだな」
「その通りだよ。第三次世界大戦の亡霊が蘇った。I.O.P情報部内でも、この事実はかなり深刻に捉えられている」
テルミドールはそこで言葉を切ると、改めて話し始めた。
「ミッションの説明をしよう」
【第7話に続く】
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