M29と呼ばれた男 第4話
つい先ほど修羅場を潜った身としては、早くベッドに横になりたかった。
404部隊が俺を歓迎してくれたかと言うとそうではなかった。宿舎の一室に入った俺を出迎えたのは、アサルトライフルの銃口だ。
「動かないで」
H&K社のHK416を構えた、紫色のジャケットの戦術人形が言った。
俺は荷物を置いて、両手を上げる。
「おいおい、何も聞いてないのか?」
「壁に手をついて。少しでも変な動きをしたら撃つわ」
戦術人形の肩越しに部屋を眺める。コンクリートで囲まれた簡素な部屋だった。
奥で旧式のテレビゲームをしている戦術人形が二人、ベッドで熟睡している戦術人形が一人。
どいつも俺たちの状況には興味がないようだ。
パシュ!とサプレッサー特有の破裂音がして、顔の横を銃弾がかすめる。
「これが最後よ。壁に手をつきなさい」
戦術人形は、銃口を押し付ける勢いで俺に近づいてきた。
手を伸ばせば、サプレッサーを掴めそうなくらいだ。
「おい、それ以上近づくな」
「なんですって?」
「それ以上近づくな。これは警告だ」
「立場が分かってないの?銃を向けてるのは私、向けられているのは…」
言い終わらないうちに、俺はサプレッサーを左手で掴んで銃口をそらした。
壁に三点バーストの銃痕が刻まれる。不意を突かれてひるんだ戦術人形に隙を与えず、右手でM29マグナムを抜いて突き付けた。
「向けられているのは、お前だ」
「あなた、人間じゃないの!?」
戦術人形は、俺が生身だと思って油断していたようだった。
「そんなことより、本部でも何でも、俺の配属先について問い合わせろ」
「うっ…」
「早く!」
引き金を引いてやろうと思ったその時、テレビゲームをしていた戦術人形の一人が、パンパンと手を叩きながらこちらに歩いてきた。
俺はその姿に見覚えがあった。黄色い線の入った黒いジャケットに、くすんだ茶髪の戦術人形。研究施設で少し話した、UMP45を持っていた戦術人形だ。
「はいはい!そこまでにして!416もあんたも、銃を下ろして」
「…手を離して。下ろせないから」
俺がサプレッサーから手を離すと、416と呼ばれた戦術人形は銃を下した。
俺も拳銃をホルスターに収める。
「ごめんね、書類が今朝届いたばかりでさ。伝達が遅れちゃった」
「伝達というより」
俺はブラウン管テレビの前で悔しそうにコントローラーを握る戦術人形を見た。どういうわけか、UMP45と同じジャケットを着た戦術人形だ。
「熱中の間違いじゃないか?」
「フフ、そうとも言うかも」
「ちょっと45!」
416が口を挟んだ。
「なに?」
「あなたがさっさと書類を見せてくれないから、恥をかいたじゃない!よりによってこんなやつに不覚を取るなんて」
「まあまあ、そんなに怒らないで。新入りの紹介をするからG11を起こしてきて」
「…わかったわ」
去り際に、416は俺の肩を殴りつけた。鈍い痛みが走る。
「油断してなきゃ、あんたなんか…」
呟くように言うと、416はG11と呼ばれた戦術人形が寝ているベッドへと歩いていった。
「悪い子じゃないんだけどね。面倒見はいいし」
UMP45が弁護するように言った。
「わかってる、性根がねじ曲がってるだけだ。IOPの戦術人形はあんな感じなのか?有名なAR部隊とか」
「AR部隊の名前は416の前で出さないで。色々気にしてるみたいだから。後ろから撃たれても文句は言えないよ」
「コンプレックスってやつか?」
「そんなところ」
「人間以上に人間性があるんだな」
「気に入らない?」
「いや、全然。むしろ気に入った」
「よかった。みんなに紹介するから、ついてきて」
人間以上に人間性のある戦術人形。
俺はUMP45についていきながら、この404部隊で自分の立ち位置を作るのは思った以上に大変そうだ、と思った。
(第5話に続く)
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