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ねえ岡田さん、一人の人間が誰かを憎むとき、どんな憎しみがいちばん強いとあなたは思いますか?それはね、自分が激しく渇望しながら手に入れられないているものを、苦もなくひょいと手にいれている人間を目にするときですよ。自分が足を踏み入れることのできない世界に、顔パスですいすい入っていく人間を指をくわえて見ているときです。それも相手が身近にいればいるほど、その憎しみは募ります。

『ねじまき鳥クロニクル 第3部 鳥刺し男編』村上春樹

これまで生きてきた三十数年で、だれかを憎くて仕方ないと思ったことはあるか、考えてみた。たぶんない。少なからず人をうらやむことはあっても、歯ぎしりして夜も眠れない、とかはなかったように思う。僕には強い思想がない。責任感、規範がない。大きな欲望も特にない。基本的に中身がない人間だと思う。なるべく嫌なことをしたくない、という逃避の感情だけが強い。

バブル崩壊の年に生まれこのかたずっと日本は不景気で、幼稚園通い始めに阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件、小学校の時TVで貿易センタービルに飛行機が突っ込む映像を見、リーマンショック、東日本大震災、社会人になるとゆとり世代と見下げられ、みたいな。あんま時代的に明るいと感じることはなかった気がする。もちろん個人的に楽しい思い出はあるけど、全体の雰囲気として。

別にこんな人間になってしまったのは社会のせいだと自己憐憫に浸るつもりは毛頭ない。同じ年代で高い志や野心をもって意欲的に生きているすごい人も大勢いる。ただそういう時代に生まれて生きていると多少厭世的というかというか、「私は私でやってくので各々で幸せになりましょ」っていう自己完結の志向性が高くなる傾向はあるのかもしれないなーと思っただけ。

「しくじり先生」での令和ロマンくるまの発言を見てとても共感した。

しくじり先生 俺みたいになるな!!【公式】 令和ロマンは生意気!?テレビに出ない噂のある令和ロマンが真実を暴露!大学お笑いディスへのアンサー授業開講!

令和ロマンも漫才で日本一になったので、僕側の人間ではないのかもしれないけれど、世代に通底するものはあるのかもしれない。

だれかを憎いほどうらやむという経験がないのは、幸せなことでもある。ある程度現状に満足した環境を与えれてきたということなのだから。
ただ、この先の人生でなにかを猛烈に希求する(逃げるではなく)素地がなく、最後まで飽きずに正気を保って生きていけるのか、多少の不安がある。

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