古書アオバ

福岡で古本屋をやっております。 23/10/28実店舗開業しました。

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最近の記事

月見バーガー

こんな文章を書けるように、仮に、なれたとき、僕はもう少し世の中に起きるものごとの輪郭が今よりもくっきり認識できるようになっているのかもしれない、と思う。 なんてことのない出来事の描写、聴こえなくてもいい、覚えてなくてもいいラジオと妻のハミング、その歌の突き放した説明、部屋とワイシャツと私。 こんな風に、華美な装飾なく、極端に質素でもなく、少しの外連味を混ぜたようなさらっと乾いた文章を書けるようになれるならどんなに良い気分だろうと夢想する。村上春樹には村上春樹の悩みがあるの

    • 宮沢賢治

      宮沢賢治ほど、美しく、儚い童話を書いた人はいない、と思ってる。 昨今のAIの進化で、ほんの近い将来(来年か再来年)には、賢治の著書をすべて読み込んだ賢治ロボが似たような話を無限に作り出す世界が来るだろう。あるいはもうできるのかもしれない。 ただ、それらには全く、全く意味がない。むしろ有害なものだと思う。 賢治の著作は、裕福な家庭で生まれたことに負い目を感じ、父の商売と宗教を忌避し、愛する妹を早くなくし、同性の友人にかなわぬ恋をし、家業の資産をあてに商売をしようと試み、反対さ

      • 進歩と調和

        この著書が発表されたのは1988年、岡本太郎の代表作である「太陽の塔」が現れた1970年、大阪万博のスローガンは「人類の進歩と調和」だった。 引用部分で「進歩」という言葉が否定的、限定的な文脈で用いられているのは、かなり意識的なものだと思う。 この岡本太郎が、大阪万博のスローガンをまっすぐ受け止めたような作品を作るはずがない。 調べていくうちにそれに言及するいくつかの面白い記事もあった。 太陽の塔は、無目的、盲目的に「進歩」を追い求める当時エコノミックアニマルと軽蔑されな

        • これまで生きてきた三十数年で、だれかを憎くて仕方ないと思ったことはあるか、考えてみた。たぶんない。少なからず人をうらやむことはあっても、歯ぎしりして夜も眠れない、とかはなかったように思う。僕には強い思想がない。責任感、規範がない。大きな欲望も特にない。基本的に中身がない人間だと思う。なるべく嫌なことをしたくない、という逃避の感情だけが強い。 バブル崩壊の年に生まれこのかたずっと日本は不景気で、幼稚園通い始めに阪神淡路大震災と地下鉄サリン事件、小学校の時TVで貿易センタービル

          薄皮

          『パーティーが終わって、中年が始まる』(pha)を読んだ。 今年で33歳になり、10代~20代前半に夢見た「何者か」にはなれないことはとうの昔に受け入れたが、心身共に健やかな中年ライフを過ごすために、先人たちから学ばないといけない。 著者は1978年生まれ、今年で46歳とのことでちょうど一回り上だ。生活の拠点を福岡県から移したことがなく、カルチャー的な動向にそこまで敏感ではなかった僕は著者の名前をSNSで聞いたことがあった程度で、これまでの活動をほぼ知らない。この年齢でここ

          値引きシール

          「それで、お店の調子はどうですか?」と彼は「50%OFF」の赤と黄色のシールが貼られた笑みをたたえながら、僕におだやかにたずねる。数mm真皮の裏に少し嘲りと同情が見え隠れするが、それはそもそも僕の生来の卑屈さが生み出したまったくの幻想で、すべて被害妄想だという可能性もある。人となりを見抜くのは苦手だ。昔から『名探偵コナン』の犯人を当たられたことがない。 「いやあ、全然ですよ。趣味の延長ですね」と僕は頼まれてもないのに卑屈に答える。 「そうですか。好きなことを仕事にするのは

          値引きシール

          キンチョーの夏

          エアコンがない部屋でただ一人で黙々と、暇を持て余した犬がおもちゃの骨をかじり続けるように、本の検品と出品を行っていく。犬と違うのは、この作業が今まさに作業している部屋の賃貸費だったり日々の生活費につながることで、犬と同じなのは特に作業に感情が入ってないということだ。 本の買い取りを依頼いただいた方からご実家の使わないエアコンの譲りますよとお申し出いただいた。あつかましくも、お申し出をありがたくお受けさせていただく。今は冷風機(扇風機の進化版1万円)で東南アジアなみになったこ

          キンチョーの夏

          地下の煙たい喫茶店にて

          「 いやー調子が悪いですよ、すこぶる。 平均すると残り80年くらい生きるわけでしょう。めんどくさいですよ。 どうしてだろう。 子どものころはいつかたぶん私よりも先に祖父母も両親も死ぬんだと考えると夜眠れなくなって泣いたりしてたんですけどね。 とにかく今は早く死にたい。 いや、死にたいは少しニュアンスが違いますね。 そんな積極的ではないです。 生きるのが面倒なので切り上げたい、ですかね、近い感情は。 朝起きたら思うんですよ『ああ、今日も起きちゃったな』って。 なんかあったでし

          地下の煙たい喫茶店にて

          35 冬

          雪は積もる様子もなく、風にさらされ砂のように道路を走る。 大人になっても雪が降るのはうれしいねと言う人もいるが、あまりわからない。ものごとを楽しむ気持ちが減ってしまったのだろうか。悲しい。 前職であれば大雪で会社休みという制度もあったので(実際には7年勤めて一回もなかったが)、そういう点で雪に期待することもあったが、今は完全在宅勤務なのでその恩恵はない。 毎日のお店通いと、一緒に住んでいる愛犬ずの散歩が少し辛くなるだけだ。悲しい。 今月は2回読書会で使っていただいた。嬉しい

          34 ジャズ

          小学校中学校と音楽の成績は3か4だった。 実技はあまりできず、記述ではそこそこの点を取っての総合成績。 小学生の時6年間もピアノを習わせてもらったのに、今は少し譜面が読めるだけ、とかなりもったいないことをした。 (公務員の父と非常勤の母の下で育てられた典型的な中流家庭だったが、今思えばかなり贅沢をさせてもらっていた。大人にならないとそのありがたみはわからない) 昨日は会社の社長と忘年会があり、福岡の赤坂で飲んでいた。 2軒目行ったことがないところに入ってみようと、その界隈を

          33 余白

          土曜。朝。雨。 コーヒーを淹れ、カウンターから目の前を通る明治通りを見下ろす。 天気のせいもありまだあたりは薄暗く、通りを走る車はヘッドライトを明々と点け忙しそうにしている。 お店をしている以上誰かに来てほしいが、一人静かに音楽を聴きながら本を読むこの時間も好きだ。 スマホを意識して手放さないとという危機感を最近猶更感じる。 2~3分あけばSNSやニュースサイトを開く。 YoutubeやSpotifyのせいで(おかげで)作業をしながら耳を使えるようになってしまい、情報を遮断

          32 幽霊

          最近読んでいる本。 古くは『竹取物語』から、直近で安部公房、北杜夫などまで、日本文学史上で幽霊がどのように描かれてきたか、その系譜を辿る。 1972年に発行された。 沖縄が返還され、田中角栄内閣が発足し、札幌オリンピックが開催された、華やかな年だ。 固い人文学系の本かと思いきやパンチの強い著者の言葉で始まる。 この文章の前で、上記の姉が衰弱し容姿が崩れていく様を容赦なく書き記している。 1931年生まれの著者は少年時代を戦中に過ごし、思春期で戦後手のひらをひっくり返す大

          31 最近の毎日

          朝6:00に起床し、身支度を整え6:25に自宅を出、自転車を10分こいで店に到着。6:45に開店。 8:45まで営業しそのまま店内で9:00から在宅の仕事。 12:00に一回家に帰って昼食を食べ昼寝。 13:00から18:00まで在宅仕事を自宅で。 犬の散歩を30分してから18:40に自宅を出て、再度店舗へ、19:00開店そのまま21:00まで。 21:15に帰宅して晩御飯を食べ犬と遊んで、家事をいくつか済まし、23:00寝る。 冒頭へ戻る。 景色が変わらな過ぎさがえぐい。

          31 最近の毎日

          30 ホットレモン

          眠い。頭が重く、奥の方が鈍く痛む。 AM7:17、セブンイレブンで買ったホットレモンをちびちびと飲む。早朝にかったため温めきれてないのかぬるい。口内炎に沁みる。 昨日はだいぶ久しぶりに遅くまで飲んだ。 福岡エリアでの高校の同窓会があった。50歳上の方が参加するような、私が最年少にあたるタイプのものだ。 幹事の方が気を利かせてくれて私と同世代の数人が自己紹介させてもらうタイミングがあった。 昨年まで野球の職員してまして、古本屋やりたくて転職しまして、今もダブルワークしてまし

          30 ホットレモン

          29 叱られる機会

          今朝も6:45からもくもくと一人で検品、出品作業を行っていたが、前職の先輩が仕事終わりに立ち寄ってくれて久々に朝人と話せた。 出品作業自体も大事な売上が上がる工程だが、やはり実店舗をやっている以上人と話したい。 お互いのお店の状況や前職の方々の近況など聞けて朝から楽しい時間だった。 とてもありがたい。 今勤めはさせてもらっているが、この古本屋に関しては自分ひとりで運営している。 100%ワンオペだ。コロナ、インフルにかかったら終わる。 一人でやることのリスクのもう一つは「誰

          29 叱られる機会

          28 永沢さん

          ポッドキャスト番組「夜ふかしの読み明かし」を毎週楽しみにSpotifyで聞いている。 今回の読書会は『ノルウェイの森』が課題図書。 かなり盛り上がっており4回目に突入している。 パーソナリティ達と同じ時代を過ごした身として、村上春樹の冷笑的な見方が定着しつつあるタイミングで読んだ、思春期のため性描写に過剰に反応してしまい本筋をとらえ損ねていた、といった考察や感想に膝を打ち打ち聞いていた。 その中で永沢の言葉が紹介されていた。 一言一句同じではないが、このニュアンスはずっ

          28 永沢さん