〔小説〕朝起きたらアザラシになっていた その9 メリーさんの来襲
※この話はフィクションです。実在する人物・団体名とは何ら関係ございません。100%作者の脳内妄想のみで構成されています。
(・ω・っ)З(アザラシ)に転生して初めて風邪を引いた。
頭が熱っぽいので氷載せて冷やしているのだが体温計で測ると36度8分。俺が風邪をひくと、いつも熱っぽい感覚があるのに体温はそれほど高くないのが人間の時からお約束だった。
とにかくインフルエンザではないので安心したが喉の痛みと鼻水がひどい。
これでも人間だった時にドラッグストアで勤務しながら登録販売者の資格を取ってるので解熱鎮痛成分より鼻水を抑える抗ヒスタミン成分と抗コリン成分にのどの痛みを抑える抗炎症成分を含んだ医薬品でも服用して寝ることにした。
飲んでからふと思っただが、(・ω・っ)Зでも風邪薬は効くのだろうか?
想定外の副作用が起きたら大変なことになるかもしれない、しかし風邪でヘロヘロな俺は天に運を任せて寝る。
スマートフォンから呼び出し音がなるからヒレで取ると。
都市伝説のメリーさんがどうでもいいこと抜かすので。
「風邪の見舞いにおでん買ってこい」
せき込みながら吐き捨て通話終了。
風邪で寝込んでいる俺には構っていられない、風邪薬は対症療法であって体の自然治癒力で何とかするしかない。
そのために安静して寝るのが一番。
無視を決め込むが何度もマナーモードのスマートフォンが着信してブルブル震わすから仕方なくヒレで掴み取る。
「わたしメリーさん、ソーシャルディスタンス取ってるの」
「知るかぁぁぁ!」
お化けもコロナを気にするご時世なのかと呆れながら一計を案じた俺は
「しゃーねえな。外は寒いだろ?俺はベランダで煙草吸ってるからその間に部屋で暖まってな」
通話終了してから布団を出て壁の四隅にちょこんと座りぬいぐるみのフリをして待ち伏せを試みる。
気持ち戦争映画のワンシーンに出てくる兵士たちのような感覚でずっと待ち伏せしているのだが、なかなか現れない。メリーさんはオチとして背後に現れるから壁を背にして待ち伏せをしたのだが帰ったかな?
耳を澄ますとドアの開く音がする。それから台所のシンクに水を流す音がした。ハンドソープを出す音もする。
手洗いはじめやがった。俺のイソジンを拝借してうがいする音も聞こえる。どんだけコロナ警戒してんだよ。
やっと現れたメリーさん。律儀にマスク着用したまま暗がりで俺を探す。
なので俺は大好きな映画のワンシーンみたく隙間から顔を出して。
「俺はここだよ!」
映画『シャイニング』でも隙間からそう言ってたので真似してみたらメリーさんが悲鳴をあげるかと思いきや。
「濃厚接触すんだろが!!」
逆ギレしたので温厚な俺も。
「ゴルァァァァァァ!!不法侵入してんのに何様じゃぁぁぁぁ!!」
「肉食獣なめんなぁぁぁぁぁ!!」
半沢直樹みたいに叫んだけど咳止めの鎮咳(ちんがい)作用でせきこまずに済んだ。でも、のどが痛いのは仕方ない。
風邪で寝込んでる俺の家に不法侵入したケジメとしてミントチョコアイスとおでんを買いにいかせた。
メリーさんは買いもの置いて帰っていった。しかし、会計はメリーさんに建て替えたままだった。返す方法もないのでそっくり頂戴する。
こうしてメリーさんに味を占めた俺は怪しい都市伝説サイトから「ブラックさん」なる「こっくりさん」の変形バージョンからメリーさんを呼べるとあったので。お化けを呼び寄せてまたミントチョコアイスとおでんをゴチになろうと企てる。
儀式を終えてブラックさんを待つとスマートフォンから入れてないのに半沢直樹のBGMが流れるので嫌な予感がする。
「わたし黒崎。査察なの、いまドアの前にいるわ」
「ブラックさん」は半沢直樹に登場するオカマ声だけど男性の急所にアイアンクローかけたりと、俺の中では「ケンカしたくない人トップ5」にランクインする黒崎検査官だった。
声を殺して居留守しながら俺は黒崎が何しに来たのか考える。
毎年、国税局に年度末の青色申告で還付金を受け取っている側だ。脱税する金も無ければ金融庁に監査されるものも無い。
見られたくないもの…18禁コンテンツはサブスクリプションこと「サブスク」の動画配信サービスから見てるので保存データは無い。
そうなるとアレか!!
実家が改築したときに俺の部屋にあったものを段ボールに詰めて送られてきたのだが、学生時代の教科書の間に中二病ノートが紛れ込んでいた。
あれだけは絶対に見られたくない!!慌ててアザラシな俺はシュレッダーにかける。その間も黒崎がドアを殴りつける。
「居留守使ってないで開けなさい!このオットセイ!!」
「アザラシじゃー!!」
黒崎の挑発に引っかかり俺はドアをけ破られ突入されてしまう。
ワンルームのボロアパートに手下たちがゾロゾロ入ってきては俺の荷物を段ボールに箱詰め、それから押収物として車へ詰め込んでゆく。
シュレッダーで裁断した紙片も黒崎が押収。復元ソフトで俺の黒歴史が暴かれてゆく。
「後生だから!」
黒崎に土下座して頼み込むが。
「つ・ぶ・す・わ・よ」
無慈悲にも黒崎は急所の代わりに俺の頭へアイアンクローかけてきた。
男の急所へ仕掛けないだけまだ慈悲があるのかも知れないが頭が割れるように痛む。
黒崎にアイアンクローかけられたまま「頭痛薬どこにやったかな?」思いながら意識が遠のく。
気が付いたら汗だくで目を覚ます。海から日が昇っている。黒崎はいない部屋もいつも通りだ。
と、思ったらシュレッダーにやたら紙片が詰まっている。中二病ノートが裁断されていた。
悪夢だけどもネタにできる夢を見たので中二病ノートをスキャンしてデータ保存すればよかったと思うも後の祭り。
俺は夢遊病でおでんを買いに行ったりする体質なので寝てる間に裁断した俺が恨めしい。夢に出てきた黒崎と俺に「倍返しだ!!」と意気込みたいが叶うわけもない、酒でも飲んでふて寝して逃避しようとコンビニへ向かう。
もちろん医薬品との併用で副作用が起こるといけないから今日は服用なし。
氷結ストロングとつまみにスルメ、そして百円ライターをかごに入れる。タバコは吸わないがスルメに醤油を1滴、2滴垂らしてからライターの直火で炙って食べるのに使う。
ガスコンロで炙れば?そんな意見もあるだろうが(・ω・っ)Зなので脚立に昇ってまでするのが面倒くさい。
それと(・ω・っ)Зのヒレではかごは持てない。台車に乗せてレジへ向かうと親切な店員が俺も台車に積んで運んでくれた。
しかし障害がたちはだかる。
お酒を買うにはタッチパネルに触れて二十歳以上であることを示さないといけない。
(・ω・っ)Зな俺はタッチパネルに届かない。脚立に昇って触れてもヒレでは認識してくれず。酒は買えなかった。
ツマミに買ったスルメを100円ライターで炙ってからやけ食いののち、酒に逃避できない虚しさ枕を涙で濡らすのだった。
あっ!アザラシだから枕いらないや。来年もよろしくね。
つづく。
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