SF創作怪談三作
雪女郎
青森の山岳地を移動中の出来事だった。
ここから北東に「死の行軍」で有名な八甲田山が聳え立つ。
ここは標高も低く地元民が日にニ度、三度通る山林の国道だ。知名度も低く、遭難事故も滅多に起こらない。
車で移動すると道の両脇に太陽光パネルと風力発電、川には小規模のタービンを沈めた小水力発電が点在している。
トンネルを抜けると雪国だった。
道路の真ん中に小泉八雲にも書かれた雪女郎がいる。
彼女を覆うように大量の雪が降り注ぐ。
降雪機と送風機で雪女郎が絶滅しないよう雪を送り冷やしてあげている。
祖母の実家があるこの自治体では、絶滅危惧種の雪女郎とその生態系を守るために、各地からクラウドファンディングを募っている。
雪女郎はご当地キャラクターとして人気が高い。
あらゆる商品に可愛くデフォルメされた雪女郎がプリントされている。
聞いた話では欧米の観光業が雪女郎をテーマに大規模な宿泊施設とアスペンを模倣したスキー場を建設予定だという。
自治体の税収確保のためにも絶滅させるわけにはいかない。
いつの世も、恐ろしいのは金の亡者。
船幽霊
船幽霊をご存知だろうか?
霧の向こうから現れた見すぼらしい船から「柄杓をくれ〜」と呼びかけられる。
ここで底を抜いた柄杓を渡さないと汲み上げた海水をこちらの船に注いで沈めようとする。
発掘作業で私はこの船幽霊に出会った。
柄杓を渡すと大量の腕がどんどん汲み上げる。
砂が次から次へと。
底を抜いてあるから大量に落ちてゆく。
もうここは海ではない。
20世紀末から地球の温度が上昇した。
21世紀末までに干上がってしまい、海の面影はない。
船幽霊は海が消えた今も彷徨う。
日が沈むころ
建物ごと移設された神社の敷地でおぞましい化け物と遭遇した。
姿は死に装束を纏った女性だった。この化け物は「日が沈むころ、おまえの命絶える」と死の宣告をした。
日が沈む前に行動を起こさねばと遠出の支度を行った。
1週間後、まだ健康体で生きている。
なお、この金星の自転周期は地球時間で243日である。何か月も経たないと日が沈まない。
いま、1400光年先にあるケプラー1649cに降り立った。
この星の太陽たる赤色矮星の影響により、自転と公転の同期現象が起こり、自転しない。なので、永遠に昼の地域と夜の地域が存在する。
よって日が沈むことはない。
さて、ここで問題が発生した。
化け物の言う通りならば、日が沈まないと命絶えないのだ。
尊厳死を望みたくなったら、この星の裏側まで自ら移動して、自らの視界に日没を起こさないといけない。
最初は天文知識と機転で、古代の化け物から受けた死の宣告を制したかに思えた。
しかし、死ねないという問題をかかえたいま。あの化け物はこの展開も想定していたのでは?と思えてきた。だとしたら酷い呪いだ。
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