昆虫たちのチキンレース ┃#完成された物語
「一文字でヒトを程々に怒らせたやつが勝ちだ」
ページを捲ると所々虫食いがあった。
古い本の宿命なのかもしれない。
でも、私だって伊達に文学少女をしていない。
『二郎、人を○弄するにも程があるぞ』
弄の字だけでも意味が通るな
「熟語を歯抜けにすれば困ると思ったのに」
『三郎の胸元で○翠のペンダントが揺れた』
この字、翡翠くらいでしか見ないわね
「複雑な字でも駄目か」
『ホテルのロビ○に一郎が到着すると』
棒引きなら何の問題も無く読めるわ
「安易な逆張りは良くないな」
「休憩しないか」
「一文字では全く腹の足しにならない」
「じゃあ後の勝負に影響がないように、これまでで一番反応の薄かった“―”を食べることにしよう」
バリバリ
『先程○郎さんがロビ○に到着した時○郎さんと○郎さんは○緒だと言いました。証言が○転○転しています』
『つまり、○郎さん、あなたが犯人です』
何がつまりだ!
私は本を勢いよく閉じた。
「勝負終了!勝者無し!」
紙魚は染みになった。
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「しゃべるピアノ|#完成された物語」「おじいちゃん部|#完成された物語」に引き続き。
固定の冒頭分も無くなって縛り自体は緩和されているはずなのに、どれよりも難しく感じました。
昆虫という文字を見たときに、真っ先に思い浮かんだのが紙魚でした。
自分でもどうしてと思いつつ、これも縁だなと思い。