しゃべるピアノ|#完成された物語
その男は毎日のように路上でピアノ演奏のパフォーマンスをしていた。
彼の演奏はそれは素晴らしく、観客たちから毎回のように多くの投げ銭による収入を得ていた。
しかし、ある日のこと急に演奏が止まってしまった。
演奏中しているのは間違いなく自分だ。
にもかかわらず自分以外の存在を日毎に強く感じるようになり、その違和感に耐えられなくなってしまったのだ。
少しの静寂の後、指が勝手に調和も何も無い旋律を繰り返し奏で始めた。
男は自分の演奏をレコーダーで録音し、家でその日の出来栄えを確認する習慣があった。
しかし最後の旋律は首をひねるばかりだった。
にゃおん。
おうおう、慰めてくれるのかい。
流行りの猫語翻訳アプリを起動すると、
・お腹が空いた
とあった。現金なやつだ。
そして、男も猫も音なんて立てていないのに
・喋りたくない
・静かにして
・嫌い
という言葉が繰り返し表示され続けた。
レコーダーを止めると表示も止まった。
男はその日からピアノをやめた。
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面白そうな企画だったので参加しました。
果たしてこれはお題にそぐっているのだろうか……。
お題目に合わせるというのがとても難しかったです。