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01 本当の好きな「人」とは、こんな人です。



コセイコです。


好きな人がいる方、恋をしたい方へ


あなたはその人のことを、本当に「好き」でしょうか? 


私が思う本当の「好き」とは、



「その人の好きなところがなくなっても、好きでいられるか」

「苦しい地獄から、幸せな天国に、一緒に登って行けるか」




であると思います。



どういうことか、彼氏を探しているさぐ子と一緒に、考えてみましょう。



前回さぐ子は、林で出会った白ウサギ・ラビ子と会話した後、気を落としてしまったようです。














朝、目を覚ますとまず靴下をはき、髪の毛をとかす。

その後はリビングへ向かい、朝食をとる。

身支度を済ませ、車で仕事へと向かう。





いつも通り過ごしているが、今日もラビ子と名乗るあのウサギが忘れられない。



あの後、気が付いたら自分の部屋にいて、

それから数日が立つが、

変わらぬ日々をたんたんと過ごしている。




ご飯を食べ、

仕事に行き、

疲れて帰って、

スマホをいじり眠りにつく、そんな毎日。


変化がない毎日。



このまま、何も変わらなくていいのだろうかと不安になるが、何をしたらいいのかわからない。


今日は何か行動しよう!と思っても、結局なにも変わらない。


その、繰り返し。









そう、繰り返し。

今日もとりあえず外を歩こう、そう思い、仕事帰りの今、ショッピングモールを訪れた。


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平日の夕方、学生や主婦が多くみられるが、数えるほどであるが、20代らしき男性が通る。



店内を歩いていると、いつも、思う。


(こんなに人がいるのになぁ.......。)


歩いている若い男の人を片っ端から声をかければ、何かが起きるのだろうか。



でも、そんな勇気、私には.................。



くよくよ悩む私に、林姫を再起動させる魔法の道具が、目についた。


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化粧品売り場に並んでいる、かわいいコンパクトの、ファンデーションケース。



その魔法のコンパクトが、私にテレパシーを発して、呼びかける。





そして、思い起こさせる。




林姫を。






(何を迷っているの......私は。

恥なら、あの林に捨ててきたはずだわ。

ここで何も起こさなかったら、またいつもの私よ。たまにでいい、勇気を出そう。




そしてその勇気はいつだすの?   今でしょ。

全員一期一会!何も恥ずかしくなんてないわ。

それいけ!さぐパンマン!!




前方にいる、20代くらいの男に目をつける。




(今からこれを落とす.....、拾ってよね!)





自分を奮い立たせ、バッグの中にあるハンカチを手にとった。




そして、前から歩いてきた身長約170センチ、短髪好青年の前に、ハンカチを、えいやと落とした。






「あっ。」





そういうと、好青年は私と落ちたハンカチに気が付き、落ちた仕掛け布を拾ってくれた。



「これ、落としましたよ。」



「あっ、すみません.....。」

青年の瞳に、私の顔がうつる。









瞳の中でガムのCMが流れているのだろうか......。さわやかな、パッチリあいた目。



(この二重の極み....素晴らしい破壊力だわ。)

「ありがとうございます、あっ。」





私はわざとよろけ、青年がよろけた私を支えた。





彼の手が、私の肩に添えられる。




「ごめんなさい。私、今日ちょっと調子が悪くて.....。」







それを聞いた彼は、ミントの幻影が見えそうな笑顔で、ニコッとほほ笑んだ。


「そうでしたか。それは大変ですね。よろしければ、僕が目的地までご案内しますので、どうぞこのまま手を握っていてください。」




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






「はい♡」







私は、ミントの王子様の手を、しっかりと握った。





あぁ......勇気を出してよかった。

神様は私の存在をきちんと知っていて、見捨ててなどいなかった!



頑張れば、できた!

勇気を出せば、出会えた!


私にも、できた!


男の人と出会うきっかけ、つくれた!!


バンザーイ!!!!



目をハートにして、心を躍らせた。



(私、もしかして今日、ツイてるのかも。

こんな素敵な人と、手、握っちゃって.......、うふふ、どうしよう~!)


ルンルンで彼の手を握り、隣を歩く。



(やったぁ~~~~ラッキー!!!!)





そして、彼の案内がおわる。


その途端、彼の手がするっとほどけた。



二人のつながりが切れた場所は、お店の出口だった。








「・・・・・・・は?」







「では、僕はこの辺で失礼します。お体、お大事ににしてくださいね。」



笑顔の青年は、そのまま店内に去ってしまった。



(はぁ~~~~~~~~~?????!!!!)


案内先が出口になることを、私は予想していなかった。



(なに..........そういうこと???????)



あなたとはサヨウナラってこと????




去った彼の背中を、キッと睨みつける。






(あの男!なに人をそんなバカにしちゃってるの?!ムカツク!!!!なにさ!・・・・・・私、あんなに勇気出したのに!私の勇気、かえしてよ!)




むかつく!

むかつく!!





私は、顔が熱くなるのがわかった。


腹が立った。それと同時に、悔しさが、こみ上げてきた。




(私・・・・やっぱりだめなのかな。)


自分が精いっぱい頑張ろうと思っても、結局ダメなのかもしれない。


(自分を変えようと思っても、何をしても、変化がない。

いつも気持ちだけ、変わろう、やれる、頑張ろうと思ってても、その気持ちに見合う結果にならない・・・・・・)


怒りが悔しさにかわり、悔しさが落ち込みへとかわる。






「ぷっ...........うくく................。」

すると横から突然、笑い声が聞こえる。

私はその声の方を向いた。






本日、2名目。



別れた男とは別の、男がいた。






「...........くくく」







ワイシャツにジャケットを羽織り、私よりも少し年上そうな男が、顔を下げ、手に口をあて、笑いをこらえていた。





その男の垂れ下がった目じりは、なんとこちらを向いている。







(私を見て、笑っている..........???というか、笑い隠せてないっつーの!)




(また腹立たせやがってこんちきしょー!!!!どんな男かみてやる!!!!!!)






私は上がった体温をぶつけるかのように、彼に詰め寄った。



ズンズンズンズン!






「ちょっとあなた!誰か知らないけど、人が落ち込んでいるのを楽しむのは、よくないと思うんだけど!」


男はそれを聞くと、隠れていた顔を私に向ける。







「ごめん、ごめん。でもちょっとおかしくて.......。俺、君がわざとハンカチ落としたところから、みてたんだよね、ずっと。

行先もここだし......。俺、仕事帰りにたまたまここにきて、........ぷっ。」



・・・・・・・・・・・。



ごくり。





その男は、俳優のような端正な顔立ちで、酷く整っていた。

私は顔の美しさに、今までの怒りや悔しさも、スッと消えてしまった。






「笑ったのは、あやまるよ。ごめんね。

君、おもしろいんだね。連絡先教えてほしいな。

俺のはこれだから。あ、今LINE IDもかくね。」



私に、手書きでLINEのIDがかかれた名刺を渡した。



それを受け取り、私はしばらく気が抜け、ポカンとしていた。

「でも、積極的に話せて、すごいね。家に帰ったら、ゆっくりしてね。」

私と男はその短いやりとりをし、お互い別れた。










(賢人さん.......かっこよかったなぁ........。実家、私の家から結構近いんだぁ)

家に着くと、彼のことをよく知ることができた。

なぜならば、さっそくその日のうちにSNSでやりとりをしたためだ。



白川賢人さん。

私より、2つ年上で、あの〇〇大学卒の公務員。

学歴もよく、実家は駅近の一軒家、お店を3つもつ自営業をしていて、兄は大学病院のお医者さん。

賢人さんは現在はアパートでひとり暮らしをしているらしい。


(なんか......家も、本人も、金持ちそう。頭はいいし、顔もスタイルもいい。こんな人ともし良いご縁があって、付き合えて、結婚しちゃったりしたら....。)


「ふふふふふふふ」


(私、浮気されても許せちゃう!)


「素敵な出会いにカンパーイ! 眉目秀麗、バンザーイ!」




そんなこんなで、LINEのやり取りは何ヶ月か続いた。

話の内容は、仕事の相談であったり、好きなもの、どんな過ごし方をしているか、..........何気ない日常会話が続いた。



会話のテンポや雰囲気もよく、そしてとうとう、デートをするまでの仲にまでなった。











そして今、2回目のデートで、飲みに来ているとのろである。

時間も遅くなり、二人ともお店を出るところだった。




細やかな気配りに、話す内容は知性にあふれ、(そのため話の内容が少しわからないが)、誰もが振り返るような容姿にもかかわらず、謙虚でかつさわやかなノリでおもしろい。




まさに私の理想の人であった。





(今日のデートも、楽しかったな。飲むの、久しぶりだったし。仕事に毎日疲れて......、久しぶりに充実した休みを過ごせたな)





「賢人さん、ごちそうさま。今回も、どうもありがとう。」

「いいえ。お酒、大丈夫?ちょっと酔ってるように見えるよ。」

「あ、うん.....、実はあんまり強くなくて。おかしいな、いつもはお店を出るくらいには、酔いはさめているんだけど.....。」


確かに今日は、あまり足取りが軽くなかった。



「そういえばさぐ子さん、前も、よろけてたね。」

「あっ、あれは....!っていうか、今はわざとよろけてるわけじゃないからね!」


私は自分の失敗を思い出され、恥ずかしくなった。


賢人さんは口角を上げながら「わかってるよ。」とつぶやき、来ていた上着を私の肩にかけた。


 ふわっと漂う、賢人さんの穏やかな香り。


「お酒に弱い人って、体が冷えることがあるんだって。」

「......そ、そうなんだ。気を使ってくれてありがとう。」





たしかにさっきまで少し肌寒いと感じていたが、今は一気に体温が上がった。


「さぐ子さん、最寄りまで送るよ。」

「あ、ありがとう。」

私は頬を赤く染め、賢人さんに歩幅を合わせてもらいながら、駅の方へ歩き出す。





二人で、夜の道を歩く。街灯が少ないせいか、今夜の大きな月の光が、私たちを照らすスポットライトのように、キラキラと輝いているように感じた。


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その容姿から間違いなく主役が務まるであろう賢人さんが、白い息とともに言葉を吐く。



「............初めてさぐ子さんを見たとき、おもしろいなって思ったんだ。顔はきれいなんだけど、どこかさみしそうで、かと思いきや何を考えたのか一人でおどおどした後、ハンカチ投げて.....。それで最後に落ち込むし。」



「そりゃあ、あんなことされたら、誰だって傷つくでしょ!」




「うん、まぁね。でもその後、全然知らない俺にむかって、久しぶりに会う同級生みたいな距離感でせめよってきて.....。何ていうか、素直で一所懸命なんだね。」








どきん。






私の体温が、賢人さんに吸われる。

吸われた分を補うかのように、体はどんどん熱を作り出す。







「さぐ子さん、メッセージのやり取りをしてても、すごくいい子だって、わかるよ。.......今、飲んだ後だし、夜だけど、そんないい人のさぐ子さんに俺、遊びって思われたくないんだ。」





賢人さんが、私の左手をとり、少し強めの力で握る。




「さぐ子さん、もしよろしければ、僕とお付き合いしませんか?」




向けられた目は熱く、どこか光が多く差し込んでいるように感じた。



その、まっすぐな線に私はすっかりとらわれていた。







相変わらず顔の造形はきれいすぎている。

背も平均よりも高く、まじめで、相手を思いやれる心。

話の内容は豊富で、職業も安定の公務員。











・・・・・・誰が手放すでしょうか。こんな男性。








私は顔が熱いことを自覚し、少し照ればながら、賢人さんの目を見つめる。彼の手を少し握り返し、気持ちを伝える。


「........はい。よろしくお願いします。」


そして、二人ともそれぞれの家へ向かった。










(くぅ~~~~~~~~~っ!!!!!!)


その夜、私の心の熱は下がらなかった。




自分があんな絵にかいたような人の彼女になれるなんて。


(.........これから、楽しい毎日が待っているんだろうな。)






おしゃれな服を着て、きれいな景色を見て、おいしいご飯を食べて、快適な旅館に泊まり、..........結婚したら多少の我慢はつきものだが、それなりの生活ができて、人並みに暮らせるのかな............






「うふふ~~~~~!!!楽しみ~~~!!!!」

ベットの上で、足をバタバタさせ、これからの生活にわくわくしていた。

私の心は寝る直前まで燃えていた。









そして翌日。私は実際に、

炎をこの目でみることになる。








私はベットで眠っている最中、スマホの音で目が覚めた。

ピロン ピロン ピロン


「............う~~ん................................................何?」

まだ完全に起きていない頭と体を使い、スマホを手に取る。






【白川賢人】が表示されたLINEの通知や、着信履歴がたくさん届いていた。



「ちょっと........これ、何?」

LINEの内容を確かめていると、賢人さんから電話がかかってきた。



〜♪たらたたらたたらたたん、たらたたらたらたたん、






「はい、もしもし?......賢人さん?」

「もしもし.....?!さぐ子さん?」






賢人さんの声は荒い息と混じっており、何やら慌てている様子であった。

そして、周りの音であろう、消防車のサイレンがやたら強く聞こえた。







「ごめんね。朝からうるさくて.....。でも今、緊急事態で、ちょっと、......ここにきて、手伝ってほしい。」


「え.......??どうしたの、急に......」


「..........ごめんね。」




賢人さんの、心からの申し訳なさそうな声。



(きっと、相当困ってるんだな.......)




「わかった、いまから支度して向かうね。」




私は賢人さんのいる場所は向かうことを決めた。





その後、賢人さんから地図が送られ、指定された場所に向かった。




目的地は私の家から車で20分ほどで到着した。















「・・・・・何・・・、これ・・・・・・。燃えてる。」




私の目を染めたのは、真っ赤な、大きな炎。




その炎は、大きな敷地なある大きな建物にまとわりついており、


消防隊が懸命に火を消している。







炎を眺めていると、賢人さんが勢いよく走ってきた。

「さぐ子さん!!!」

「け、賢人さん・・・これはどういこと?」



賢人さんは真っ白な顔に大量の汗を流していた。



「ごめんね。驚いたよね。........これ、俺の実家なんだ。」


(え?実家??)



「今朝、従業員の不注意で、火がついちゃって。それで・・・。」

(嘘でしょ・・・・・・。そんなこと、ある?)






私は目の前の炎に、現実感がわかなかった。


燃えている家の少し離れた場所で、50代くらいの夫婦が泣いている。



「どうしてっ.......、私たち、こんなに苦労して、頑張ってきたのに...........。

まだまだ、したいことがたくさんあったのに。

借金もなく.....息子たちの未来のためにも、資産を残そうと、考えて、残して、頑張ってきたのに..................それが、全部..........」






(・・・・それってまさか)


「全部!!なくなってしまった・・・・・・・」





(なくなっ.....た...................???!!!)




私は、自分事のようにショックを受けた。

いや、本当に自分事にしていたのかもしれない。








(だって、私......賢人さんと、賢人さんと一緒にいれば、困ることなんてなかったのに...........。これからの私の幸せは、賢人さんと一緒にいることで..........)



泣いている両親を慰めるため、再び走る賢人さん。



「父さん。母さん。大丈夫だよ。俺も少ないかもしれないけど、貯金はあるし、これからも働くしさ。」






「賢人・・・・、ありがとうな。父さん、嬉しいや。

でもよ、この火事で、関わってきたお客さんやほかの会社さんのことも、あるんだよ。いくら兄ちゃんが医者だからといっても、これからかかるお金も、苦労も・・・・・・・どんなものか。」






この言葉に、隣にいた賢人さんのお母さんが、わっと涙を流す。


「父さん、母さん、心配しないで。俺、なんとか頑張るから。」


「ありがとう、賢人・・・・・・・ありがとう。」





賢人さんは両親を励ました後、私の方へ向かってくる。









「さぐ子さん......................、この通りなんだ。今、俺はとても大変な事態になっちゃって.......。


無理に、支えろとは言わない。けど、心のきれいなさぐ子さんなら、この状況を見ても、..................なんとも思わないわけないよね?」







そういって、私の両手をぎゅっとつかんだ。







迫りよる、強い思いが感じられる。



表面では静かであるが、心の奥では、




逃がすものか。


と、主張している。








「あ....あの、えっと。」


私は戸惑いを隠せなかった。

目があちらこちらに泳ぐ。



その場から逃げたくて、

しかし手を掴まれていて、

動けなくて、

自分の心と向き合うしかなかった。







「..............................さぐ子さん?」



私はその一言でさらに余裕がなくなる。

賢人さんに、再びぎゅっと強く手を握られたその時







「はい、おわり。」


あの林を思わせる声が、私の横から聞こえてきた。

「?!」


声の方を向くと、身長150センチほどの、小柄で、くわえたばこをした愛くるしい顔面の女性が立っていた。


そして頭には、白いウサギの耳がぴょこんとはえている。




「まさか.....ラビ子さん?!」

彼女はたばこの煙を、ふーっとはく。





「ケン、もういいぞ。」

「・・・・・はい、ラビ子さん。」


賢人さんはさっきまでの気迫がスッと消え、燃えている家に手を向け、腕を、上に上げた。


するとさっきまで燃えていた家も、泣き崩れていた夫婦も、集まっていた消防車も、一瞬にして消えた。






「えっ.......??どういうこと?」

頭が追い付かない私にラビ子さんは問いかけた。






「さぐ子、さっきは何て答えようとしたんだ?」


ドキリ。


この質問で再び現実に戻される。

(うっ.....それは)







「あ.......その、私はですね、.....まあ、これからどうしようかと........。」

醜い考えをごまかすかのように、言葉が濁っているのが、自分でもわかる。





「「・・・・・・・・・・・・。」」





ラビ子さんと、賢人さんの、色の見えない視線。





(こわい.................。)


自分の汚い考えを直視すること、

そして相手は私に対してどう思っているのか、

知るのが、怖かった。






・・・・・・・・・・。

しばらく3人の沈黙が続く。




ラビ子さんの吐くたばこの煙をもう一度見た後、次は彼女の吐く言葉を耳から吸った。





「別に、せめてねぇよ。誰だって、自分に苦労が訪れるのは、怖い。それはみんな同じだ。



ただよ、ケンと付き合ってたんじゃねーのかよ。

さぐ子、お前はこいつのどこが好きなんだよ?」



(................どこが?)

私は頭の中を走り回った。


走って、好きなところを一つずつ思い浮かべた。

「好きなところ、あるんだよな?」

ラビ子さんの質問に、今度はしっかり首を縦に振ることができた。



「じゃあ、その好きなところが、全部なくなっても、そいつと居られるか?


そいつと一緒に、不幸から幸せへ、向かっていけるか?」









........................この質問に、首をどの方向にも動かすことができなかった。



「生きていれば、いろんなことが起こる。好きだったヤツの顔が、事故で変わってしまうこと。

安定した職についたと思えば、病気になって働けなくなること。

相手のもともとの体質で、子供が望めなくなること。

予想できないこと、誰のせいでもないことが、いろいろあるんだよ。

それでもずっと一緒にいられる、

理屈抜きで惚れた相手じゃないと、お互い何かあった時、みじめな気持ちになる。」










..................ラビ子さんのいうことは、確かだった。

私は賢人さんといれば、自分の将来も安心できると思った。

裕福な実家に、安定した職業。

性格も顔も、すべてよかった。

けど、生きているうちに、その好きだったところが、一瞬でなくなってしまうことがあるんだ。

どんなに素晴らしい家柄や職についていても、

絶対の安定はないんだ。



「さぐ子。相手の選び方をよく考えろ。他人は、自分の価値や生活を上げるためにいるわけではない。

自分勝手な欲のために、相手を振り回すことは、あたしはよくないと思う。




自分が一緒にいて心から楽しくて、お互いに思いやっていける人といた方がいいと思う。あたしは。」







「............あたしは?」


「当たり前だ。さぐ子の人生だ。何がよいとするかは、自分で決めろ。

あたしはアドバイスしかしないからな。」



そういうと、ラビ子さんは携帯灰皿でたばこの火を消した。



「さぐ子さん、アイスがお好きでしたよね?」


賢人さんが、何事もなかったかのような顔で、私とラビ子さんの空気に入る。



「え・・・あ、はい。」



「でしたら、そのような方といるのはどうでしょうか。


アイスを食べたら太るかもしれない。 

いやだな。  でも、食べたい。

アイスがないと楽しくない。

アイスのせいで太ってもいいからずっと付き合いたい。

太っても必ず痩せてまた楽しく食べてみせる。

という感じです。」


賢人さんは、なぜかいつもよりニコニコしている。

(.......あれ、賢人さんってこんな話し方だっけ......。ていうかラビ子さんが来てから雰囲気変わったような.....???)



「ケン、もういいだろ。隠さなくても。」


「はい、ラビ子さん。」



そういうと、賢人さんのまわりにボンッと白い空気でいっぱいになった。






(........何?!前がみえない........)




 







視界が晴れると、そこにいたのは、一匹の犬だった。




茶色の長毛、大型犬。

その犬はにこりと笑い

「すみません、さぐ子さん。賢人です。」







(...............えぇ~~~~?!!)

賢人さんも、林の住人だったの?!




私...............犬にときめいていたの?????




「こいつのやったこと、全部仕組まれてたんだよ。」

ラビ子さんが、にやっと、いたずらをしたような笑みで、並びのいい歯をみせた。


「だから、今回の火事のことで、落ち込んだり、気にしたりするなよ、さぐ子。」






「・・・・・ラビ子さん・・・・・・・。」



彼女の優しい気遣いに、私は心が緩んだ。


「じゃあ、ちょっとこい。」



「え?????」



ラビ子さんが歩き出す。

そしてその後を、犬の姿になったケントさんがゆっくりついていく。


(えっ?次から次へと、なんなの・・・・??

今度は、どこに行くの?????)



「さぐ子。今日仕事は?」


「あ、休みです。明日も休みです。」



「そうか。なら、よかった。

さぐ子、さぐ子がどんな奴だったら一緒にいられそうか、ちょっと考えるよ。」


「えっ!」


この言葉に私もラビ子さんの後に迷わず続く



「それって、私の運命の相手を紹介してくれるってこと.....?!」


「それは自分で考えろ。」


「まぁ、さぐ子さん。焦ることないですよ。ゆっくり、頑張りましょう。」


こうして私は、ラビ子さんとケントさんの後についていった。



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                 おわり
















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