原子核の椅子取りゲームと、生物濃縮の話
唐突だけど、大学を化学で受験する人たちを想定して、練習問題を作ってみる。
結構いい問題だと思うのだけど。
『放射線を出す原子(放射性同位体)には、生物の身体の中で濃縮するものと、濃縮しないものとがある。この違いが起きる理由を説明しなさい』
唐突に何を、と言わせそうですが、
福島第一原発のトリチウム排水について、工学部出身のはずの共産党志位氏までもが、こんなことをを言ったので、危機感を持ったのです。
『薄めて放出、というのは誤魔化しでしかない』なんて……。
トリチウムの場合、仮に生体内に蓄積するとしたら、水に含まれるトリチウムの濃度が、ほぼ上限になるのに。
(生体の中での化学反応の前後で、水素の同位体の構成比が保たれるため、そうなる)。
あれほど頭のいい人でも、勘違いしてしまうのだな、とがっかり。
化学反応の前後で、水素の同位体の構成比が保たれる
この性質、ちょっと意外なことにも役立っています。
古墳時代やそれより前の遺跡で、遺物が何年前のものかを測るのに役立っているのです。
そう、炭素14による年代測定(放射性炭素年代測定)の技術の、前提なのです。
炭素にも、重さ(質量)の異なる原子核が、主に2種類あります。炭素14は、その2種類のうち、天然には少数派の方ですが、多数派の原子核(炭素12)との間で、原子数の比が一定になっています。
この数の比(同位体組成比)は、化学反応の前後で変わりません。
ですが、1000年のオーダで時間が経つと、炭素14の原子が他のものへ変化していきます(一定時間の間には、その時ある炭素14のうちの一定の割合で間引きが起きるような振る舞い。椅子取りゲームが延々続くようなイメージを持ってください)。そうすると、炭素14と炭素12の数の比が、だんだんと小さくなる……しかも時間に対して規則正しい小さくなっていく、この現象を時計として使うわけです。
この時、たとえば木材の種類の違い(例 マツとクリとで)、炭素14をクリがより沢山取り入れるなんてことがあったら、最初の同位体組成比がバラバラになって、計算のしようがなくなりますよね?
実際には、そうした差が(少なくとも動植物の間では)起きないことも確かめた上でこの技術ご使われるようになっています。