リアルタイムなエッセイ vol.58「さよなら、ぼくの、ななめひだりの、しんけい」
いつもより長いな、と思っていた。もう20分くらい経つのではないだろうか。
ぎゅいーん、ぎゅいーん、がりがりがり。
麻酔を何箇所も刺されているので何も感じない。ただひたすら口を開け続けている。ただ、口の周りには開いたまま固定するための器具の感触がある。早く終わらないかな。それだけを考えた。
5年ぶりの歯医者に通い始めて3回目。
いよいよ、今日は本命の左奥の上の染みる部分に着手すると言う。「お湯でも染みる場合は結構大変だよ」と最初の回に言われていた。結局改善せず、今日はハードに削ることになる。麻酔を多分5箇所くらい刺され、何も感じなくなってそれは始まった。
痛む箇所には銀の詰め物をしている。それを剥がした。「レントゲンではわからなかったけど、下に結構虫歯が広がってるね」
ふーん、そうですか。麻酔を打たれたいい大人は、もううなずくしかできない。
で、ぎゅいーん、がりがりがり、が始まった。
今日は本当に長かった。でも終わった。
先生が言う。
「神経抜きましたから」
ふーん。へっ?
あ、いや、、、そうですか。
もう、失った神経は帰ってこない。
さよなら、ぼくの左上の神経。
しばらく、左で噛まないようにしてくださいね。助手のお姉さんが言う。
ボクは頷き、次の予約を決める。まだ何も感じない。ついさっきまであった神経に思いを巡らせても、具体的な映像は何も浮かばない。ぼやっとしたままだ。
もうこれで、染みることはないだろう。でも何か大切なものを失った気もする。
でもボクに何ができただろうか?
ボクにやれることは一つしかない。
それはこう言うことだ。
「歯医者は定期的に通おうね」
今夜は右だけで柔らかい食べ物を食べよう。
この後、1週間前の月報検討会にこっそり載せたエッセイのうち、フリーエッセイをアップするよ。
じゃあね、バイバイ
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