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個展 『Time, Life, etc.』 に寄せて

『Time, Life, etc.』

2008年のある日、久しぶりに帰った実家で、子どもの頃にあった古びたブリキのお菓子の缶を見つけました。懐かしく思い手に取りそれを開けた瞬間、中に入っていた色とりどりの刺繍糸たちが溢れんばかりの勢いで私に迫ってきました。私が刺繍を見つけた瞬間でした。
「私は今、人生の宝箱を開けた!」一点の曇りなく、その確信がありました。
私の刺繍人生の始まりです。

 動物たちに出会ったのはそれから約10年後でした。何気なく、でも少しリアルに刺した私の小さなウサギ、コロ。自分で刺した彼がこんなにも愛おしいとは!
コロからたくさんの犬や猫へと繋がっていきます。

 1匹作り上げるために費やす時間はおおよそ1か月。ひと針ひと針積み重ねていくことでしか、決して解決できない道のりです。
不安の中で、時々訪れる喜びの一瞬。それを間断なく繰り返していく・・・。

 糸は真っ直ぐにしか進みません。針で刺す点から、次に針で刺す点の間を真っ直ぐに進みます。その点と点が線となり、形になります。一瞬一瞬を重ね、人生を形作っていくこととまるで同じようです。過去に何を選択するか迷った瞬間があったとしても、振り返ればその点は真っ直ぐ今に続いています。先の分からない不安な点を積み重ねていくことが線となり私の形になっていくんだということを何度も経験しました。それが私の刺繍なのだと。

 また、糸は糸同士、滲み合うことはありません。もし滲んだり、濃淡や陰影があるように、混じり合ったように見えたのなら、それは何か目では確認できない不思議な化学反応が起きたからかもしれません。それは単なる錯覚なのでしょう。まるで、身体的にも精神的にも混じり合い得ることのない孤独な存在の人間と人間の間に起こる出会いと似ています。違う色同士の糸が出会い、混じり合ったように見えること。人間同士の出会い、そこから広がる愛も悲しみも含んだ様々な感情や出来事に似ています。

動物たちの刺繍は、私にそういうことを教えてくれました。

この時代の中で、ひと針ひと針積み重ね、時間をかけてでしか作りあげられることのない刺繍が、その自由な表現を通して皆さまに何か働きかけていくことができれば幸いです。
私はここから、自分の時間を次に進めてゆきます。


会期
2023年3月11日-4月2日  ※土日のみ開催
12:00-19:00

会場
KYODO HOUSE Gallery
東京都世田谷区経堂 (小田急線経堂駅)
※個人宅併設により住所はメール(下記)にお問い合わせください。
※予約制ではございませんので、会期中はいつでもお越しいただけます。


会期中は全日在廊しております。直接お目にかかれますと幸いです。

連絡先  koroniembroidery@gmail.com (たかぎともこ)

インスタグラム(@koroniembroidery)にて作品を発表しています。こちらもぜひ!


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