見出し画像

犬の目

犬、かわいいですよね。
子供のころから犬を飼いたい人生です。

タイトルバックの黒柴さんは、三重県四日市の蓮生寺で暮す、幸せワンコのくうさんです。この子、とっても気立てが良くて、明るい性格なんですよ。誰にでも懐いてしまうそうで、飼い主さんによると「番犬としてはダメやな」とのことです。(飼い主さんの許可を頂いて掲載しています。)
噛まれているのは私の右手ですが、甘噛みなのでご心配なく。犬の甘噛みは会話の一つなんだと思うんです。
犬の顎は強力で、人間の手の骨など簡単に噛み砕けるけど、犬はそれをしません。アグアグしながらお喋りしているんですよね、きっと。
それにしては、ちょっと会話が強かったけどね。
またおしゃべりしましょうね、くうさん。

飼い主の本田さん(左)と私とくうさん
撮影/阿部さん

犬のかわいさって、豊かな表情にあると思うんです。そっぽ向いたり、おどけたり、笑顔だったり、怒ったり。顔の表情だけでもずっと見ていられます。

あぁ、飼いたいなぁ、犬。

小学生の頃、母に犬を飼いたいと言いましたが、母は子供の頃犬を飼っていて、飼い犬が死んでしまったとき、
「とっても悲しい思いをしたから、もう飼いたくないのよ」
そう言われたので小学生の僕は諦めていました。
ところがです。最近、母とそんな昔話をしたら
「そんな事言ったっけ?」
としらばっくれるではありませんか。

ショックです。

きっと、私のいい加減な性格を見越して、どうせすぐに飽きて自分が面倒をみるハメになる、と母親は思ったのでしょう。当時は6人家族で、家事に小学生2人の育児に祖父母の面倒と、一日中働きづめでしたから、その上犬の面倒なんてトンでもない!と思うのも無理ありません。
正解です、お母さん。

あれから50年近く過ぎた今の私がどんな状況かというと、
①ペット禁止の賃貸物件に一人暮らし。
②24時間拘束のお仕事なので、朝仕事に出かけたら帰って来るのは翌朝。
③朝帰ってきて、その日の夜から仕事の日もある。
うん、どれも犬を飼うのに不適切な条件ですね。
つまり、犬を飼うには転職と引っ越しが必要なんです。あ、犬好きのパートナーと暮らせれば引っ越しだけで済むか。そんな理由でパートナー探ししてもいいのかな? それに、今の働き方だと明らかにパートナーの方に懐くじゃないですか、それはイヤだなぁ。

もう、ずいぶんと前なので、番組のタイトルは忘れてしまいましたが、犬のドキュメント番組を観ていました。
テーマはペットをめぐる様々な問題。多頭飼いがエスカレートして劣悪な環境で飼育されている犬や猫たち。狭いカゴの中で1年に何度も交配される犬たち。飼ったはいいが引っ越し等で飼いきれなくなり、保健所に持ち込まれる犬や猫。

その中に、2頭のコーギーがいました。この2頭は室内の狭いケージに入れられたままで、散歩にも連れて行ってもらえず、糞尿処理の手間を省くため、最小限の餌しか与えられていませんでした。近所の人が見かねて保護施設に連絡したそうです。
保護施設に連れて来られた2頭のコーギーたちは、汚れて毛が絡まった全身をシャンプーしてもらっていました。スタッフたちはコーギーたちが不安に感じないよう、常に明るく笑いながら話しかけています。でも、
「みてよこの子、こんなに痩せちゃってる」
スタッフはそのとき涙を流していました。

優しいスタッフがいる施設で良かったね、と心から思いました。が、コーギーたちはうつろな目をしていました。
飼い主の家から連れ出され、車に乗せられた時も、この2頭はずっと家の玄関を見ていました。きっと飼い主が出てくるのを待っていたのでしょう。飼い主は玄関にすら出てきません。最後に頭のひとつでも撫でて「ごめんな、元気でな」くらい言ってもバチは当たらないと思うんですけどね。
車がゆっくり動き始めると、泣きそうな目で飼い主の姿を求めていました。あんなに酷い飼い主でも愛おしく思っているコーギーたちの目が、私の胸に深く刻み込まれています。

酷い飼い主だと思います。でも、この飼い主の気持ちが、私には手に取るようにわかるんです。
かわいいからと犬を飼ったが、最初のうちはかわいがって、ちゃんとお世話もしていたけど、そのうちに面倒くさくなってしまった。
コーギーたちのケージに背を向けて、こたつに入ってテレビを見ているボカシの入った背中しか映りませんでしたが、その背中は未来の私でした。今の状況で犬を飼ってしまった未来の自分の背中でした。

だから、私は今、犬を飼っていません。
引越しも転職も本気になればどうにかなるでしょう。
1番怖いのは、自分がこの飼い主みたいになってしまう事です。
犬は私を愛してくれると思います。しかし、私は犬を最後まで愛せるでしょうか。

小学生の頃、セキセイインコを飼っていました。毎朝、カゴを掃除して、餌と水をあげて、学校帰りにハコベをとってくると、勢いよく食べていました。放鳥すると肩に乗って耳をやさしくカジカジしてくれました。
しかし、野良猫に咥えて逃げられました。私の不注意です。開け放った窓辺に鳥かごをぶら下げたまま、友達と遊びに出かけてしまったのです。
帰ってくると祖母から「すごい音がしたから来てみたら、猫がピーコを咥えて逃げて行った」と聞かされた時には、悲しくて悲しくて、自分を責めました。

こんな自分に犬を飼えるのでしょうか。
その疑問から解放されるには、まずは環境を整える事ですね。引っ越しと転職と貯金です。
ですが、例えば今、公園の片隅に仔犬が捨てられていて、否応もなく飼い始めたら世界が変わるような気もしますが、それまでは、お散歩ワンコにご挨拶させてもらいながらワンコ成分をチャージしようと思います。
なるべく飼い主さんに怪しまれないように。

あぁ、飼いたいなぁ・・・

こちらもくうさんです

そうそう、2頭のコーギーたちのその後ですが、それぞれ優しい家族に引き取られて、幸せに暮らしているそうです。

いいなと思ったら応援しよう!