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強さってなんだろう~後藤洋央紀、IWGP戴冠
2025年2月11日 大阪府立体育会館
後藤さん、本当に獲りましたね。IWGP世界ヘビー。獲ってほしいと本当に思っていたけど9回目があるなら10回目も、みたいなことを考えられていたら酷だなとか思っていたんです。
99%見ないと思いますけど、後藤さん、本当におめでとうございます。同じ三重県出身の民としてマジで嬉しいです。
私のプロレス観戦歴って本当に中途半端で。
深夜まで受験勉強して、居間に戻ってくると、ソファで爆睡する父とつきっぱなしのテレビがあり。たまたまワープロが流れていたのが新日本との出会いです。
「これが噂に聞くプロレスか!!」という高揚はあれど、いつも勉強で搾りカスになっていたので、やっていたら見るといった程度で「棚橋」「中邑」「オカダ」の3人だけ覚えました。
そこから大阪に出て2014~2016ぐらいはワープロで追いながらたまーに府立で見るといったことをしていました。
新日本プロレスはちょうどプ女子ブームを産むことに成功したところで、真壁さんもめちゃくちゃ露出していたころです。YLは小松田中でした。
中邑から入ったはずの私は爆速で柴田勝頼にハマり、ギリ所属ではなかった彼のTHE WRESTLERシャツを手に入れて踊り狂ったり、KAMINOGE読んだり、リングソウルでのイベントに行ったりしていました。
そこから就職して、あまりにも激しい環境の変化のなか「プロレスを見る」という選択肢を思い浮かばなくなってしまいました。高校生の時に死ぬほど聞いていた深夜ラジオを大学でパタッと辞めてしまったときと同じです。
両国での柴田の大怪我を知ったときはめちゃくちゃ驚きましたが、その頃にはもう、どうやってオカダとのIWGP戦にたどり着いたのかすら知らないレベルでした。
その後も両国や武道館に単発で行くことはありましたが、コロナで外出自体が厳しくなりました。ネットのパーソナライズから消えたのかプロレスの情報が視界に入ることすらなくなり、久々にトップニュースとして飛び込んできたのがオカダの退団発表で、ぜひとも見届けねば、と初めて後楽園に行ったのが昨年の話です。
観戦を機に久々にじっくり追いかけるとなんか色々と変わっていました。腹筋と跳躍力を失い、既にそれすらキャラになった棚橋(社長!)、すっごいダサいデザインになったIWGP(世界ヘビー)、いわゆる新世代、消えた鈴木軍、増えたベルト、Jr戦線の盛り上がり、自分で喋るオカダ、泣くオカダ、めっちゃ泣くオカダ、初めて見るオレンジと緑の外国人ユニット、バレクラ名乗るやつ多すぎ、本隊と同化したCHAOS⋯
話を今日の主役に戻すと、後藤さんも少し変わっていました。
私にとって後藤さんといえば基本はシングル戦線でした。久々に見た後藤さんは白のコスチュームを着て、YOSHI-HASHIをよっちゃんと呼び、せ~のッ!と太鼓を叩いていました。
府立で見ていたとき、内藤さんはスターダストとトランキーロの過渡期でしたので、めちゃくちゃブーイングされていましたし私もそこそこブーイングしました。内藤と高橋裕二郎が嫌いでした。
オカダの存在は言うまでもありませんが、当時タッグを組んでいた飯伏の台頭も激しく、飯伏のときは声援が飛ぶけど内藤に変わると大ブーイング、といった調子でした。AJやYBのバレクラよりもブーイングを食らっていたかもしれません。
その1年後くらいに謎のユニットの日本版を名乗り始め、コアな逆張りファンを熱狂させ、大半の客はまだ困惑していたものの何かが変わった、兆しが見えた、そのような確信が広がったという時期でした。だから2024年、当たり前のようにスターダストに乗せて沸き起こる大大大内藤コールにはものすごく心を動かされましたし、彼のキャリア・身体的な全盛期を見逃したことに気づいた時は深く悔やみました。
ただ、後藤さんは内藤さんとも違ったのです。内藤は当時ベビーフェイスとして成り上がろうとしていました。ただ試合がスイングせず、お前にエース路線は無理だ、合っていない、買い被るな、といった空気がありました。(海野に近いかと言われると厳密にはそれも違う気がするのですが一旦置いときます)
後藤さんはそういった「合っていないものを無理にやっている」感じはありませんでした。武将顔に本多忠勝っぽいコスチュームはめちゃくちゃ似合っていましたし、入場曲も一度聞いたら忘れられないインパクトがあり、技もダイナミックで説得力がある。どう見ても表裏がないのでヒールにも向いていない。
周りとの差別化も十分できていましたし、オリジナリティもあり、既に本人の魅力は十分引き出せている、カスタマイズしてもこれ以上本人に似合うものは出てこない、完成形みたいなところがありました。既に中邑は滾り、田口さんは緑タイツでヒップアタックを繰り出していたのでキャリア的にもおかしなことではありません。
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そのうえ棚橋とも中邑とも柴田とも因縁がある。でもなんかピンとこない、というのが後藤さんの立ち位置でした。ラフファイトもしないからブーイングも起きない。強いて言えば、いいところでもたつく、抜けているみたいなイメージはありました。
キンプロが結局なんだったのかわからないけどこの動画面白くて何度も見た
8回目の挑戦であった府立の試合は生では見ていませんが、何故か急に白装束、お経をめっちゃ書いた謎の出で立ちで負けたのをワープロで見たときに「終わったな…」と思ったのを覚えています。歴が浅いから新崎人生というワードも出てこず、「なぜ耳なし芳一のようなことを…」と困惑した記憶もあります。でも試合前になんか変わってほしかった、変われという期待もちょっとあって(修行に行ったという前段もあったはず)その結果が耳なし芳一だったことにものすごくガッカリして。「混沌の荒武者」というのは本当文字通りで、あのときの後藤さんは、中邑が抜けてもなお安定していたCHAOSよりずっと混沌を体現した存在でした。
棚橋始めキャラが立ちまくっているトップレスラーたち、更に鈴木みのる、石井智宏、柴田勝頼とシングル戦線に無骨なファイトスタイルのレスラーが何人もいたということも大きかったのかもしれません。
2024年、後藤さんは「少し」変わったけど、あんまり変わっていませんでした。多くの選手が加齢や古傷、体型の変化によって10年前と同じパフォーマンスができなくなっている…と書くと微妙か。当然老獪さであったり経験値による奥深さもでてくるのですが
「重くなったな」「細くなったな」「ちょっとキレないな」「ヒットが軽いな」とか「今のは膝大丈夫かな」「無理してないかな」みたいな、普通に試合を見ていて感じる「今の角度エグかった!!大丈夫?!!!」とは違う、ベースちょっと心配しながら見る、みたいなことがどうしても出てきます。
後藤さんはそれがない。当然10年経っているから年齢も重ねているはずなのに。
なんなら私の加齢が始まっていますからね。去年ぐらいから1kg増えたときに今までは代謝で勝手に減っていたのが減らなくなって降り積もったりとか、ストレスの有無関係なく白髪ちょいちょい見つかるなとか。10年間で酒もだいぶ飲むようになったし。自分で挙げると悲しいな。
でも本当、昔と同じスタンスで見て、応援できてるなって、最近気づきました。35~45歳ならねえ、という考えもあるかもしれませんが、年間100前後興行があるレスラーの生活を10年ですからね。久しぶりにガッツリ見るなあというときに髪型も体型も技もキレも変わっていなかった(むしろ相手の技に対するリアクションは良くなった)というのは大きくて、9年ぶりのIWGP挑戦、そして戴冠によって後藤革命を成し遂げ…いや、始まりを迎えたのもひとえに後藤さんの変わらなさあってこそだと思います。
石井智宏選手は本当どうなってんのか意味不明です。誰かあのひとを研究したほうがいい。
その変わらない後藤さんが今この位置に来たということは。後藤以外の何かが変わったということなのではないか。そんなことも思うのです。第一線に立つ選手は間違いなく変わっています。めっちゃAEWに取られてるからね。新世代めっちゃ出てきてるからね。
そのあたりはずっと見てきた方にお任せして、本当自分の肌感の話、自分語りをするのですが、この10年で「強さ」とは何か、というのが変わってきたんじゃないかという。
昨年プロレス観戦復帰して10年ぶりに熱心に見に行ったり、試合結果を逐一チェックしていたのですが、プ女子ブーム時とも一味ちがう「推し活」が根付いた世界線で、プロレス垢とか作って2024年のプロレスオタクとしてスタンダードにどうにかキャッチアップしていこうと思っていたんですけど、すごい疲れてしまい。やめたんですよ。他にも去年はXでも画面の外でも色々起こり、すごい疲れた。とにかく疲れたんです。
このSNSの台頭と共に進んできた、そしてコロナ禍で加速した、なるべく自分に快適な空間を作ろう、不快なものを除こう、という無意識あるいは意識。スマホの中ならタイムラインを、フォローフォロワーを。現実なら働き方を、人間関係を。ノイキャンのいいイヤホンを買って電車の中でつけたり。
プロレス見ていない間に、クソみたいな思いをしたことは沢山あって、そのたびに怒ったり泣いたりして。そうやって反応する自分の繊細さ?を大事にしよう、今よりとにかくいい場所に行こう、一旦休もう、というのを優先してきました。そうした自分を大事にする気持ちはもちろん持ち続けているのですが、ここにきて「鈍い」って「強い」と思いはじめたんですよね。
本当に大事な、必要な、鋭い言葉が刺さって抜けないのは長期的に見ると悪いことじゃないなと思うんですけど、今、どうでもいいけど刺してくる、あるいは勝手に刺さることが沢山あるじゃないですか。必要最低限の共感性とかを超えて、なんか万事自分のことのようにダメージをためてしまうというか。あれはいらないな、と思うんです。
そういう意味で「鈍い」って実は強いんじゃないかと思い始めた今日このごろで。
後藤さんってやっぱちょっと抜けていて、気の利いたことをバシっといえるタイプではないじゃないですか。逆に相手からビシッと刺されていても多分ピンと来ていない、みたいな。10年前ならいわゆる天然キャラで抜けてる感じもかわいい、とか悪い人じゃないんだな、とかはあっても、強いとは結びつかなかったと思うんです。
IWGPって今までもこれからも、何よりも強さの象徴だと思っていて。棚橋さんは同じ「効いてない」系でも、抜けてはないですよね。空元気と言われかねないところをポジティブな方向に変換して相手に返すというタイプ。後藤さんは多分ピンと来てないから、相手に返すというより存在を忘れている感じ。そこが10年前だと物足りない、と思ったのかなと。
たまに後藤さんがクソリプに引用で返してるのを見るんですけど、やっぱ今だと強く見えますよね。相変わらずうまいことは言えてないんだけど、何にも動じてないのがわかるから。それがなんかいいなあって。
そういう鈍い強さ、ってどうしても注意散漫とか雑とか不真面目みたいな方向に行くイメージあるんですけど、そうじゃないことは後藤さんの身体とパフォーマンスを見たらわかるじゃないですか。だから本当このタイミングでめちゃくちゃ強いんですよね。2025年の後藤さん強いなって。逸れますけどお子さんの顔出ししてるのも強いですからね。最近日本人レスラーであんまいないですからね。ジプシー嬢ぐらいしかパッと思いつかないよ。
当然SNSとか抜きにしても、それこそ9年挑戦できていないとか、去年はNJCでの活躍がなければG1すら危うい立場で。中邑も柴田もアメリカでぴんぴんやってるし。周りから、会社から、お客さんからどう思われているかと考えたら、どこまでも考えられると思うんですよ。なるべく穴がないように、ミスがないように、よく見えるように、評価されるように、AIに決め台詞考えてもらうこともできるわけです。
でも後藤さんは「IWGPのGは後藤のGって、俺が考えたかった」と言った。言えちゃう。本人の言葉を借りるなら「俺はバカなんです」と自分を受け止めて、完璧ではないと認めて、そのうえで胸を張って生きている。自分の努力と費やした時間を卑下することなく背負える。それがすごく眩しいんですよね。だから、勝ってほしいと思った。2025年に後藤さんがIWGPという強さの象徴を手にしたのは、すごく勇気づけられることでした。色んな人に見てほしい。
間違いなく世界最先端のプロレスをしているザックに食らいつき、気を失いかけても粘り勝ちした姿を。
私もそうやって、自信を持って背負える努力、時間を送りたい。傍からピンとこなくても、いつか、あれは無駄じゃなかったぜ、と言えるような。そして無駄じゃなかったねと言ってもらえるような人にもなりたい。そんなことを思いました。強くなりたい。優しくなりたい。
後藤革命に、ついてこい。
おめでとうございました。