俺の音楽2「 Have You Ever Seen The Rain 」「VENUS」中学校の音楽室はなんだかよくわからないスタジオだった
1970年代、あの頃、テレビでは歌謡曲しか放映していない。ロックを聴くにはラジオしかなかった。しかもAMラジオだ。深夜放送で音楽をチェックする。そんな時代の中学生だった。
月曜の放課後だった。クラスのSくんが
「新しいレコード買ったんだ。最高だぜ。聴かせてやるよ」と言って近づいてきた。
俺は部活もあるし、別に聴かせてもらわなくってもいいと断る。
それでも「最高だから、聴けよ」としつこい。
少し苛ついたSくんは、隣で話を聞いていたNくんにいきなりヘッドロックをかけた。
「痛ぇー!」Nくんがうめく。
「行かないと、もっと絞めるぞ」Nくんが涙目で俺を見つめる。
意味がわらないが、どうせ音楽室は鍵がかかっているはずだ。それでSくんも諦めるだろう。
「わかった。行くよ」
Sくんと俺、ヘッドロックをかけられたNくんも一緒に音楽室へ向かった。Sくんが音楽室のドアに手をかけると、なんとドアは動いた。ついてない、これで確実に部活に遅刻する。
Sくんは音楽室に入るとNくんに、「オイ、さっさっとドア締めろよ」と言い、自分は備え付けのステレオのスイッチを入れた。真空管が暖まるとスピーカからノイズが聞こえてきた。
Sくんがターンテーブルにレコードを乗せた。針を落とすと、ブッチ、ブッチというノイズの後からギターのイントロが始まる。絞り出すような歌声が大音量で音楽室に響いた。
「おい、でかくないか」と俺。
「馬鹿、家では、でかい音で聴けねぇだろう」そう言うとSくんはさらにボリュームを上げた。そして、最近覚えたディスコのステップを踊り出す。スピーカからは哀愁を呼び起こす歌声が聞こえる。踊りとは合わない・・。
踊りはどうでもいいが、歌は素晴らしい。俺はレコードジャケットを手にとった。
雨をみたかい、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル
「おい、N、お前も踊れよ、最高だろう」Sくんはどうやら「雨をみたかい」をいたく気に入ったようだ。
いつの間にか、嬉しそうにNくんも、たこ踊りを始めた。その時、隣のクラスのAくんが廊下に見えた。Aくんは身体も態度もでかく、すでに髭が生えており、どんな中学にも必ずいるオヤジ中坊だった。
Aくんは、大音量に気づき、何時ものでかい態度で音楽室に入ってきた。
「なんだよ、もう一回かけろよ」態度はでかいが音楽は好きだ。
Sくんがまた針をレコードに落とした。
「お、CCRか、いいね」兄貴のいるAくんくん、その影響で洋楽には詳しい。
「CRS?」Nくんが馬鹿な事を言うと、Aくんは、「CRS連合じゃねぇよ」と言ってNくんに蹴りを入れた。ノリノリのSくん、今度は机の上で踊っていた。
*CRS(当時の暴走族連合)
レコードが終わると、Aくんは何故かNくんを睨んだ。蹴りにびびったNくんはすでに涙目だ。
「お前のLet it be 良かったぜ」と睨んだまま言うAくん。Nくんはまだ涙目だったが、嬉しそうに言った。
「ありがとう」
「じゃ、俺が一発やってやるよ」そう言うとAくんは楽器庫に入り、ガットギターを持ち出した。ギターを持って、机の上に腰掛けると、太い指で、いきなりギターをかき鳴らした。
「ジャラン ジャラン ジャーン!!」
「お、ショッキング・ブルーのビーナス」と俺が言うと、さらにビーナスのイントロを3回繰り返して弾き、あっさり終わった。
「これしか出来ない」Aくんはそう言って頭をかいた。
ギターなんて、学校でたまに誰かが、「禁じられた遊び」を弾いているぐらいしか見たことなかった。だから俺にとってAくんロックテイストのギターは結構衝撃的だった。ガットギターが凄く格好良く見えた。
「よーし、俺もギター買うぞ!」
その日、部活をサボった俺は、家に帰ってから、お年玉の残りの金を持って、近所の質屋に向かった。そして、鉄弦のちょっとレトロなギターを3000円で買った。
「まずはビーナスだな」
バッコバッコというこもった音が響く。ビーナスのギターの音からほど遠い。それでも気分はいい。
結局、このギターは3ヶ月後、ネックが折れた。ついでに俺も心が折れて、ギターは止め、そしてサッカー少年に戻っていた。
VENUS--- SHOCKING BLUE (1969)
Have You Ever Seen The Rain--CCR Creedence Clearwater Revival(1971)