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【研修報告】サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)研修

2月になりました。年明け早々に石川県能登半島での大きな地震、航空機の事故等があり、大変な一年になりそうだと心配された方も多いのではないでしょうか。私自身も、何かできないだろうかと考えながらも、何もできずにもどかしい思いで過ごしていました。

そんな時、合同会社メンタルヘルスケア・ネットワークさんがPsychological First Aid研修を企画してくださいました。2024/1/7に開催されたので、震災から一週間も経たずに企画、実施されたというスピード感に驚きました。代表の山蔦圭輔先生が、一人でも多くの支援者に役立ててもらいたいと考え奔走されたのだと思います。本当にありがとうございます。

講師は国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部災害等支援研究室室長の大沼麻実先生でした。東北出身ということで東日本大震災時のご経験も踏まえながら、わかりやすくお話してくださいました。

Psychological First Aid(以下PFA)とは、心理的応急処置と訳されます。災害や紛争、危機的な状況の中で人はどのような心的反応を起こすのか、そしてそういった方々にどう働きかければよいのか。2時間にわたって学びました。紛争やネットトラブル等が絶えない現代社会に必要な手法といえます。

個人的に印象に残った大きなトピックスは3つです。
①PFAは専門職でなくともできるということ
②P+3Lの考え方
③心のケアは押し付けるものではないということ

1つずつお話していきます。

①PFAは専門職でなくともできるということ
サイコロジカル・ファーストエイドと聞くと、心理の専門家が行う特別な行為と思われがちですが、実はそうではありません。WHOのPFAマニュアルには「PFAは専門家にしかできないものではない」※1との記述があります。実際に心理職だけでなく、消防士や警察官、キャビンアテンダントの方々も学ぶそうです。先生も「PFAの手法をポケットに忍ばせる」と表現されていました。技法というよりは、支援する側が身につけるべき態度なのかもしれません。

②P+3Lの考え方
PFAにはP+3Lという考え方があります。これは準備(Prepare)+見る(Look)、聞く(Listen)、つなぐ(Link)の頭文字から来ているものです。
準備で大切なのは、自助の邪魔をしないということです。人は危機的状況の中でも、まずは自分の力で何とかしようと考えます。また、地域のコミュニティや自治会、町内会が率先して援助行動を起こすかもしれません。外部から来た支援者は、事前にどういったコミュニティが存在しているのかを下調べし、自身の必要性について考える必要があります。
3Lについては、PFAに関わらず支援者にとって最も大切な技術といえるでしょう。最近読んだ『ステップアップカウンセリングスキル集』の著者で心理士の浜内先生も、援助者に最初に身につけてほしい技術として「観察技法」を挙げています。※2
本書では、観察技法においてはクライアント、カウンセラー自身、相互作用、環境の4つに着目して観察するよう書かれています。そうすることで「わかること」と「わからないこと」を想像することができ、何をすべきかという次の行動を見立てることができるのではないでしょうか。

③心のケアは押し付けるものではないということ
私が最もハッとしたのはこのお話でした。「こころのケアをむやみに押しつけない(do no harmの 原則)」※3が大切であるということです。
援助職である以上、大きな問題が起これば介入しようと動き出したいものです。でも、相手が「イマ」それを必要としているのか、本当のニーズは、あたたかい毛布、食料、被災者の安否といった事実情報なのかもしれません。本当のニーズは何かということを考え、冷静に動くことが大切なのだと感じました。また災害時の反応は人それぞれであり、さらに心理的反応は主観的なものであるため、支援者が客観的に評価できるものではありません。「この人は困っていそうだな」と見立てることは大切ですが「困っていますよね?」と近づくのはただの押し付けです。良かれと思っての支援が、時に被災者を傷つけてしまう可能性があることは、肝に銘じておきたいと思いました。また被災者には自ら復元しようとする力(レジリエンス)があります。レジリエンスを信じつつ、必要な支援があるのかを丁寧に探しながら、痒い所に手が届く存在でいることが大切なのではないかと考えました。
我々援助職は、助けたいという強い意志を持っています。それ自体悪いことではありませんが、それが時には害にもなりうる。そんなことを感じました。

私は就労移行支援事業所で就労支援をしています。利用希望の方と初めてお会いするインテーク面談は、利用希望者にとって非常に緊張する場面だと思います。この支援者は信用できるのだろうか、否定されないだろうか、何か自分の望まない支援を押し付けられないだろうか・・・。そうした方々を迎え入れる上で、PFAのエッセンスは、生かせる点が多いと感じています。「はじめまして」の人とどう関わり、ニーズを伺っていくか。害のない存在として、最善の支援を提供するにはどうすべきか、そうしたことに関するヒントを得ることができたように感じます。支援に熱心になればなるほど忘れがちな、謙虚かつ冷静な姿勢を再認識する貴重な機会でした。お忙しい中企画してくださった山蔦圭輔先生、講師の大沼麻実先生、本当にありがとうございました。


-参考文献-
※1 World Health Organization, War Trauma Foundation and World Vision International(2011). Psychological first aid: Guide for field workers. WHO: Geneva. (訳:(独)国立精神・神経医療研究センター、ケア・宮城、公益財団法人プラン・ジャパン(2012).心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)フィールド・ガイド,p13. (https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/images/upload/files/whopfa_jpn.pdf)

※2 浜内彩乃(2024)『ステップアップカウンセリングスキル集 今さら聞けない12の基礎技法』誠信書房.  https://amzn.to/48ZhP9z

※3大沼 麻実・篠崎 康子・金 吉晴 (2017)「災害時の不安対応と心理的応急処置 PFA(サイコロジカル・ファーストエイド)」『日本内科学会雑誌』106 (1), 130-132. (https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/106/1/106_130/_pdf)


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