シャトルバス実況中継(966文字)
先日、羽田空港第一ターミナルから第三ターミナル行きのシャトルバスに乗った。
前方の扉から二、三段のステップを登って車内に入る。運転席には大型バス運転するとは思えないような華奢なイメージの若い女性ドライバーが座っていた。
間もなくバスは発車した。混み合っている道路、ちょっと進んでは静かにブレーキ踏んだり、また進んだり。その度に優しく乗客に声をかけてくれる。
「動きます。お気をつけください。」
とても細やかな気遣い。色に例えればパステルピンクの可愛らしい声。
あっという間に第三ターミナルが見えてきた。ところが、ターミナルの建物のすぐ手前でバスは止まった。
「一般車両が駐車しており前に進めません。しばらくお待ちください。」
ドライバーの可愛らしい声で状況がアナウンスされた。
なんと!お迎えの車らしき車両が建物前にズラリと停車している。とは言え、よくある光景。すぐに進むだろうと思っていた。ところが一番後ろの車の停車位置がどうにも具合が悪く、どうしてもバスは進めないらしい。
実況中継は続く。
「運転手が車から降りてしまいました。しばらく出発できません。」
見ると、一番後ろの白い車から白髪の派手な衣装の女性が運転席から降りてドアを閉めたところだった。そのまま建物の方に歩いて行く。
え…
ドライバーが白髪の運転手に眼力を送り、手振りで車をどかすよう訴えた。バスは満員、夜遅い時間帯、目的地第三ターミナルを目前に早く降ろしてほしいと全員が心の中で願っているはずだ。乗客も皆、目で訴える。
気づいたと思われる白髪の運転手が車に戻った。移動してくれるものと期待して、皆、今か今かと待った。
しかし、車は動かない。そしてあろうことかまた出ていった。
「またまた運転手が出ていってしまいました。お待たせしており申し訳ありません。」
可愛らしく優しい声で続報が伝えられた。車内失笑。苛立つ人もおかしく状況を見守る人も運命共同体。とにかく待つしかない。
数分後、やっと戻ってきた白髪女性は、乗客が見守るなか車に乗り込むと、少し先まで移動した。
これでバスは動くことができ、所定のバス停まで進んで停止した。
ドライバーはパステルピンクの声で到着を告げる。そして、乗客が出口に向かって移動を始めたところで最後の実況中継。
「(先ほどの車は)〇〇ナンバーでした。」
最後までかわいい声だった。