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砂むし温泉@指宿(552文字)

11月末日、南九州とは言えもう風は冷たくて、浴衣一枚の身体は冷えていた。鹿児島県指宿市の砂むし温泉は3回目。こんなに身体が冷えてしまったのだから出来るだけゆっくりと温まろうと決めて、浴衣を着たまま砂の上に横たわった。

早速、スタッフのおじさんが大きなスコップでザクッ、ザクッと大胆に砂をかけてくれた。あっという間に首から下は砂に埋まった。

じわっと地中からの温もりが背中に伝わってきた。徐々に身体が温まり、ゆっくりと目を閉じて昼間の疲れを癒し、自分の世界に浸っていった。


もう今は亡き祖母に「鹿児島に行くんだよ」と話した時だった。祖母は右の人差し指で左手の指を指して言った。
「あそこ、何ていうところだったかな、何年か前に行ったよ。砂の温泉」
「いぶすき(指宿)だね」
「そうそう、指宿だった」


そんな会話を砂に埋もれながら思い出した。毎回、指宿に来ると祖母を思い出すのはあの時の会話が印象に残っているからだ。優しかった祖母の笑顔が脳裏に浮かぶ。

ザブーン、ザブーンと波の音が聞こえた。思い出の世界から現実にヒョイと戻る。単調に繰り返す波の音は心が落ち着く。しばし波の音に聞き入ってから目を開けた。時計が見える。目安の10分は過ぎていた。低温火傷をしてはいけないので、そろそろ出るとしよう。身体も心も充分に温まったから。

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