IB教育入門の講義を振り返ると
IB教育とは,国際バカロレア(International Baccalaureate)教育の略である。非営利教育財団である国際バカロレア機構(以下,IBO)が提供する教育プログラムで,世界各地で実践されている。IB教育を実践している学校は,IB認定校という。IB認定校になるためには,IBOの掲げる条件を全て満たす必要があり,厳しい道のりとなる。文部科学省は,2018年までに日本国内に200校までIB認定校を増やすことを目標として掲げていたが,2021年3月30日時点で167校という段階である。IB教育について全く知らなかった私が,教職大学院の「IB教育入門」という講義を通してIB教育とは何か?をどこまで知れたか振り返る。
1. IB教育の目指していることは?
IBOは,IB教育に関する様々な資料を提供している。最近では,日本語訳されているものがどんどんでてきており,個人的にとても助かっている。文部科学省IB教育推進コンソーシアムのホームページにもその資料が掲載されている。IB教育は一体何を目的としているのか。資料の一つである『MYP原則から実践へ』から抜粋する。
国際バカロレア(IB)は,多様な文化の理解と尊重の精神を通じて,より良い,より平和な世界を築くことに貢献する,探究心,知識,思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。
つまり,この目的を達成するために作られている教育プログラムということである。実のところ,私はIB教育とはこのようなものだという明確な答えをいまだに持っていない。上の文で述べられている目的を達成するために,様々な教育に関する理論を融合させて実践しているのがIB教育だと今では考えている。
2. IB教育プログラムの年齢別構成
IB教育プログラムは年齢によって,区分けされている。3〜12歳がPYP (Primary Years Programme),11〜16歳がMYP (Middle Years Programme),16〜19歳がDP (Diploma Programme)となっている。日本と比較して考える。日本では,6〜12歳が小学校,12〜15歳が中学校,15〜18歳が高等学校という分け方をされている。そのため,IB教育プログラムの年齢区分と少しズレがある。日本の学校(一条校)がIB認定校となり,IB教育を実践していくためには,この年齢区分のズレを配慮して学校のカリキュラムを作成しなければならない。例えば,とある中等教育学校(中高一貫校)では,中学1年〜高等学校1年までがMYP,高等学校2年〜高等学校3年がDPというカリキュラムになっている。
3.IB教育プログラム(MYP)のカリキュラム
私は現在,MYP認定校に関わりがある。そのため,カリキュラムに関しては,MYPのみを取り上げる。MYPのカリキュラムについても様々な規定があり,全体を把握できているとは言い切れない。さらに,PYPやDPについてはもっと把握できていない。
MYPでは,8教科が定められている。それぞれ「言語と文学」「個人と社会」「数学」「デザイン」「芸術」「理科」「保健体育」「言語の習得」である。日本の教科との対応を下の表に示す。
日本のIB認定校(一条校)では,このようにIB教育プログラムと日本の教育に関する法令の二つを見比べていかないといけない。そのため,IB教育に関する資料と学習指導要領の二つを精読していかなければならない。
教科の話に戻る。私がIB教育についてまったく知らなかったとき,これらの教科の授業を全て英語で行うと思っていたが,そんなことはなかった。これらの教科を日本語で学ぶ。もちろん,「言語の習得」は「外国語」の教科なので,英語で学ぶ。また,上記の教科以外に「コミュニティープロジェクト」と「パーソナルプロジェクト」というものがある。「コミュニティープロジェクト」とは,地域での奉仕活動を通した学習を行うものである。「パーソナルプロジェクト」は,生徒個人で探究を行い,作品や成果物を作り上げていく学習である。日本でいう「総合的な学習の時間」に対応する。
MYPのカリキュラムには,細かいルールがたくさんある。それについては触れないが(私は,多すぎて全てを把握していないし,頭にほとんど入っていない),『プログラムの基準と実践要綱』,『MYP:原則から実践へ』,各教科の『指導の手引き』,『プロジェクトガイド』などに記載されている。
4.IB教育プログラムの背景にある考え
IB教育プログラムの背景には,どのような教育理論や教育哲学があるのだろうか。これについては,『MYP:原則から実践へ』の巻末にある「参考文献と推奨される関連文献」が参考になる。文献については,その数合計183挙がっている。例えばどのような教育者の名前があるかを以下に述べる。『教育目標の分類学』のブルーム,『教育の過程』のブルーナー,アイデンティティ論のエリクソン,概念型カリキュラム理論のエリクソン,正統的周辺参加学習論のレイヴとウェンガー,『思考と言語』のヴィゴツキー,逆向き設計論のウィギンズとマクタイなどである。これらの研究者が全てではなく,他にもまだまだたくさんいる。
また,IB教育プログラムの背景にある考えとして重要なのは,構成主義である。IB教育に関する資料『一貫した国際教育に向けて』には以下のように述べられている。
構成主義とは,現在では広く用いられ受け入れられている認知に関する理論です。知識は受動的に学習されるものではなく能動的に築くものであるとされ,理解やパフォーマンスを向上させるためには,学習者がすでに持っている概念に関連づけ,働きかけることが重要であるとされています。
構成主義という言葉一つをとっても,教育で関わる人物を挙げると,経験主義のデューイ,発達段階論のピアジェ,ヴィゴツキーなどたくさんでてくる。
5.まとめ
IB教育とは何か?に対する答えは,さっと答えられるものではない。理由を述べる。まず,IB教育を考える際に,従来の日本の教育と比較しつつ,年齢区分やカリキュラムについて見てきた。これらについても,ここで述べていることはそのほんの一部のみであり,IB教育にはまだまだたくさんの特徴がある。また,IB教育プログラムの背景にある教育理論は,多種多様である。たくさんの理論が複雑に絡みあっており,どの理論についても,説明するのは一筋縄ではいかない。例えば,「単元をどのように設計するのか?」「概念学習とは?」「評価はどのように行うのか?」など分けて考えていくと少しずつ全貌が掴めるようになっていくのではないだろうか(これらについては今後まとめていきたい)。以上が,IB教育とは何か?という問いに対して,簡単な答えを返せない理由である。
ここで述べていることは,あくまで私の見解である。また,私はまだまだIB教育というものをほとんど理解していないということを自己認識している。今後,実践をしながら,勉強していかなければならない。
参考文献: 東京学芸大学国際バカロレア教育研究会 (2020). 『国際バカロレア教育と教員養成 未来をつくる教師教育』. 学文社