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にっぽんの知恵「おけいこ④『教える』ことより『育てる』ことが大事」

     写真:みずのき美術館(https://www.ameet.jp/feature/581/)

 子供たちの演奏にコメントを書き続ける鎮一さんの姿勢を思い出すたびに、鈴木さんは今の日本の教育が心配になるといいます。
 「知識や技術を『教える』ことに夢中で、『育てる』ことが忘れられているのではないでしょうか。おじも話していましたが、義務教育の9年間に、一つでもいい。しっかりした能力を育ててほしい。たとえば、人に親切にする心が育つのを助ける。そんなことが必要とされているように思います」

 「育てる」という意味では、熊倉さんが当時、館長を務めていた林原美術館も、障害者のアートを支援する活動で重要な役割を担っていました。
 その一環として、京都府亀岡市の知的障害者施設「みずのき」は40年以上も前から絵画教室を開いていたといいます。自由で個性あふれる絵画は評価が高く、1994年には32点の作品が、スイスのローザンヌ市立美術館に収蔵されました。

 「みずのきの魅力は、障害を持つ人たちの才能が開花するのを、期限を切らずに、じっと待つことにあるように思いますね」
 
 そんな言葉を発したところで、熊倉さんは「禅の悟り」に触れました。それには、修行の段階を経ずに一挙に開ける「頓悟」と、順序を追った修行で開ける「漸悟」があるのだそうです。

 「世の中には、何かが出来るまで、1年で済む人もいれば、10年かかる人もいます。おけいごとなら、これらが共に許される。そこに学校教育との違いがあるのでしょう。『育っていく』のを待つことも大切なのだと思いますね」

 それだけではありません。
 何かに「習熟して上手になる」こと以上に、その過程の面白さや楽しさを重視する面が、おけいこごとにはあります。
 ただ知識や情報を脳みそに貯め込むのではなくて、いわば、それらを血肉化し、腑に落ちるまで続け、やがて自分が「変わったなあ」と心から実感する――そこにおけいこごとの本当の値打ちがあるのではないでしょうか。

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