
4月③ レンゲの根つぶして顕微鏡で見た(田植え前のレンゲ畑)
写真:レンゲ畑(Wikipediaより)
子供のころから「レンゲはレンゲ」だと思い込んでいました。が、調べてみると「ゲンゲ」というのが標準和名のようですね。
漢字では「紫雲英」や「翹揺」と書くのだそうです。で、学名はAstragalus sinicus。マメ科ゲンゲ属に分類される越年草で、原産地は中国。「レンゲソウ(蓮華草)、レンゲとも呼ぶ」といいます。
結構いろんな役にも立つようで、そういえば「レンゲ蜂蜜」はおいしいものです。それに、茹でた若芽は、おひたしにしてもよろしいし、民間薬として利尿や解熱の効果も期待できるようです。
童謡の「春の小川」にも、
〽 岸のすみれやれんげの花に……
という一節がありました。
さらに江戸の俳人・滝野瓢水が詠んだ句に、
手に取るな やはり野に置け 蓮華草
というのがあります。
なんでも、遊女を身請けしようとした友人を諫めるために詠んだのだそうで、
「蓮華(遊女)は野に咲いている(自分のものではない)から美しいので、自分のものにしてしまうと美しさが失われてしまう」
という意味があるのだといいます。
それが転じて、
「ある人物が表舞台に立つべきではなかった」
と評する場合にも使われるようで、レンゲソウ、結構いろんな場面で重宝されるようです。
そんなことを思い出したり、新たに学んだりしながら、こんなエッセーを書いてみました。
レンゲソウの根には小さなこぶがある。それを根粒という。
小学校の理科の時間に、それをつぶして顕微鏡で見せてもらった。おびただしい数の根粒バクテリアが見えた。で、それが田んぼの土を肥やすのだと教えられた。
中学の社会科だったか。「いまわの振り米」という話を聞いたことがある。
普段めったに米など食べられなかった貧しい村でのことだそうだ。
そんな村の臨終まぢかな年寄りの耳もとで、「これが米の音だ」と言って白米入りの竹筒を振って音を聞かせてあげる。
すると、おだやかに「あの世に行ける」のだという。それほど米は、日本人にとってありがたいものであったのだ。
それだけではない。面積あたりの日本の降雨量は世界平均の2.5倍に及ぶ。
が、人口あたりなら6分の1に過ぎない。それに、河川の流れが急で、すぐ海に流れ出てしまう。
けっして日本は水に恵まれた土地ではない。それを稲作用の水田が蓄え、補ってきた。
その水田が確実に減っていく。
実際、ピーク時の1970年には350万ヘクタールに達していた水田の面積が2018年には3分の2以下の約225万ヘクタールに減少した。これで日本の食糧や国土は大丈夫なのか。
まだ空気に冬の寒さが残る田んぼには、前年に収穫された稲の藁塚だけが寂しく立っている。
が、春めく陽光にレンゲソウが芽吹き、いっせいに花を開く。と、あたり一面は紅紫色の絨毯になる。で、蜜を求めるミツバチの羽音によみがえる生命の力がみなぎる。
夏まだき、むせるほどではない。が、確かに大地から立ちのぼる土や草や花の匂いに、繰り返される「大自然の死と再生のドラマ」が彷彿する。
そんなレンゲソウの群落が日本の各地にある。
やがてそこで田植えが行なわれる。そんな風景に思いを馳せると、遙か昔、稲を育てる文化が渡来した時代への想像力が刺激される。
自然と人間の営みが織りなす、この風景が実在すればこそ、人は未来に思いを託すことができるのだろう。