禍話リライト:であいがある
平成の頃、山田君の中学のクラスでは[おまじないの本]が流行り、その本にやり方が載っていたこっくりさんが少しブームになったことがあった。
クラスの中でも特に明るくてわりと人気のあるAさんも、今日わたしも放課後こっくりさんやってみようかな!と言っている。山田君は(あんな明るい子でもこっくりさんみたいなことやるんだ?)と意外に思った。
山田君が委員会の雑務で少し居残った帰り際、たまたま昇降口でAさんに出くわした。山田君は
「こっくりさんどうだった?」
と聞いてみると、Aさんはいまいち納得していない様子で
「なんか……[であいがある]って言われたけどよくわかんなかった」
と答えた。
出会いがある?なんだろうねー、そんなのこじつければなんでも当てはまるけどねー、と笑いあった。じゃあねーまた明日!とAさんは帰っていった。
次の日、Aさんはちょっと遅れて登校してきた。
「あーもう最悪だよー」
と言いながら教室に入ってきたのでみんなで話を聞くと、電車通学のAさんが駅に向かうと電車が遅れており、どうやら駅のホームだかすぐそこの踏切だかで2つ前の電車に飛び込みがあったという。そのダイヤの乱れから混雑し、Aさんは「朝から疲れたよー」と笑った。
放課後、明日のテスト勉強とかこつけてわりと多数のクラスメイトがおしゃべりして居残っていたが、Aさんは職員室に呼ばれそのまま帰ることになった。ご両親が迎えに来ていたようだ。次の日も、また次の日もAさんは休んだ。
翌週になり、やっとAさんが登校してきた。
例の電車への飛び込みで亡くなったのが、その地域に住んでいるわけでもない独身の中年男性だったそうで、飛び込みの理由が判然とせず、警察も一応事件性が無いか調べていた。
その彼の持ち物の手帳に、何故かAさんの名前が何の脈絡もなくフルネームで書かれていたことが判明したという。
Aさん側からしたら親戚でも知り合いでもない全く知らないおじさんだった。Aさんが良くある苗字だったのもあり、ゲームかなにかで創作した名前が偶然一致したとも考えられるが、学校名や、髪型などの特徴も書き込まれておりAさんに一致したため捜査に及んだという。
当初は知らぬ間にターゲットにされた一方的なストーカーかとも思われた。ところがそれ以前もそれ以降もAさんに関した記録が他に何もなく、つきまといの痕跡も全くない。警察も、被害者かもしれないからとオブラートに包んで話してくれていたそうだが、Aさん自身はおろか両親も全く身に覚えが無かった。
結局亡くなった男性とAさんの関係性がわからないまま、自殺の証拠も無く、最終的には事故で処理されたようだ。
Aさんは連日警察への対応に追われていたため、学校を欠席していた。それどころじゃなくぐったりしていたので誰も言わなかったが、クラスのみんなはこっくりさんから[であいがある]と言われた件をなんとなく思い浮かべていたという。山田君も同様に、Aさんがこっくりさんをした日に放課後話したことを思い出していた。
その飛び込みがあった日は、天気がよく日が差しているのに雨が降っている「天気雨」だった。
山田君たちが大学生になり、中学時の同級生数人で遊んだ時の話の流れから、同窓会とまではいかないが中学の時のクラスメイト数人で集まることになった。
次々に出てくる懐かしい話からAさんの当時の出来事に及ぶと、Aさんはいまだに厭な夢を見ると話してくれた。あの日と同じように、天気雨が降った日には必ず見る夢があるという。
その夢ではAさんは中学生に戻っていた。夢の中でも天気雨が降っていて、(変な天気だなー)(傘持ってないのに雨降ってきちゃったなー)と、昇降口で雨が止むのを待っている。
すると目の前に、ゴルフ場で差すパラソルぐらい大きい傘を持った知らない男がいつのまにか居て、ぼそぼそと繰り返し同じ言葉をこちらに向かって言ってくるという。
「右があいてますよ」
「右があいてますよ」
「右があいてますよ」
「右があいてますよ」
「右があいてますよ」……
天気雨は、現在でも日本各地で[狐の嫁入り]と呼ばれ、人間を化かすといわれた狐と関連づけられている。
※この話はツイキャス「禍話」より、「であいがある」という話を文章にしたものです。(2021/04/10 シン・禍話 第五夜)
禍話二次創作のガイドラインです。