禍話リライト:おそろい 二題
箪笥の中
現在30代のA君が、大学生の時にあった出来事。
A君は大人数のサークルに所属しており、居酒屋が貸し切り出来るほどの人数でワイワイと飲み会をするのが常であった。
その夜もだいぶ盛り上がり、A君も楽しく酔っぱらっていた。
居酒屋を出たところでひとりの先輩が
「よーしこれから○○んち行くぞ~!」
と言うと、A君を含む何人かが「イエーイ!」と先輩に付いていく。
実際のところ○○さんのことは知らなかったが、どうやら先輩の男友達で、そのままノリで家にお邪魔した。中に入ると色々なお酒が棚に並んでいて、自分でカクテル作るようなおしゃれな家だった。無茶苦茶かっこいい……!
酔うと勝手に人の家の冷蔵庫やら引き出しやらを開ける、ちょっと失礼な奴が同期にひとりいた。
その同期B君は、初対面の○○さんの家でもおもむろに箪笥を開けた。
A君は酔っていても礼儀は気になる。B君をすぐ諫めた。
「オイ!お前あけんなや!すいませんコイツすぐ開けるんすよ……」
と○○さんにすぐさま謝る。
「ハハハ、いいよ別に」
○○さんはやはり大人でスマートだ。
B君も「すいませんしたっ」と、すぐ箪笥の引き出しを閉めた。
ところがしばらく経ってもB君はさっき開けてしまった箪笥のほうをチラチラと見ている。また開けようとしているのか?
「なにお前、いいかげんにしろよ流石に2回目は無えぞ」
と小声で注意すると、B君がボソボソとこう告げた。
「いや……さっき、箪笥あけたらさ……目が、合って」
「は?」
「ぬいぐるみ……」
B君は何を言っているんだ?言葉が出ず、B君の説明を待った。
「……なんか、動物のぬいぐるみだと思うんだけど……結構リアルで……けっこうぼろぼろの……」
「ぬいぐるみ?なんだろうなんかの見間違いじゃないの?」
ぼろぼろのぬいぐるみというアイテムは○○さんの部屋にはなんだか似つかわしくないと感じた。今思えば知り合ったばかりの○○さんにアンティークなコレクション趣味の一面があってもおかしくはないが、酔っていることもありその時は咄嗟にB君の証言を否定してしまったそうだ。
そのあともB君は何度も箪笥を気にしている。もし開けるようなことがあったらすぐ止めなきゃ、とA君はB君の行動を気にしていた。
するとついにB君は、開けるどころか○○さん本人に直接尋ねた。
「あの、○○さん、さっき開けちゃった箪笥の……ごめんなさい、言っていいのかな、なんかぼろぼろの……」
すると○○さんはあっさり答えてくれた。
「あ~それね、半年ぐらい前にすぐそこのゴミステーションに置いてあったんだよ」
「え?知り合いの物とかですか?」
「いや全然。おれ別に、ぬいぐるみとか興味ないから」
話がなんとなくかみ合っていない。ゴミステーションに置いてあった、というか捨ててあったであろうぬいぐるみを、興味はないが勝手に拾ってきた?
○○さんが続ける。
「その箪笥の上に空間があってさ、崩れ方もいい感じでさ。置いてみたらいい感じだなと思ってしばらく置いてたんだけど」
(崩れ方ってなんだよ)
(なにがいい感じなんだよ)
(何回いい感じ言うんだよ)
A君は口には出さず心の中で矢継ぎ早にツッコんでいた。
「いろいろあってさ、箪笥の中に入れたんだよね」
(いろいろあって……?)
一番大事な部分を端折られたような気がした。何があったんだ。
B君は無邪気にこう聞いた。
「捨てないんすね?」
「んー、捨てたら良くないかなと思ってさ」
そっかすいません、とだけつぶやいて、B君はこの話を終わりにした。
その後も飲み会は続いたが、なんとなくA君とB君は○○さんのお家から早々においとますることにした。先輩方にひとしきりお礼を言って外に出る。B君はあの会話以降、まだテンションは低い。
A君はちょっと冗談の空気も交えつつ
「もー、さっきお前がいきなり聞くから変な空気になってたじゃん」
と水を向けると、B君は暗い顔のまま
「なんかおかしいよな……。箪笥の中のぬいぐるみ、額のとこに横にシャッと傷が入っててさ、なんか鋭利な刃物で切った感じの」
「そうなんだ?まあ、ぼろぼろなのを拾ってきたって言ってたし、元の持ち主はそれで捨てちゃったんかな?」
すると続くB君の説明で、テンションが低い理由がわかった。
「○○さん前髪長めで見えなかったけど、カクテル作ってて動いた時にたまたま見えた額にさ、横にシャッと傷が入ってたんだよ。古傷って感じじゃなくて、最近わざと付けましたー、みたいな」
それは傷をお揃いにしているのか、させられているのか────
その後一切、ふたりとも○○さんと交流することは無かった。
お気に入り
高校の同級生山田君はお気に入りのフィギュアを部屋に飾っている。
制服の色をカスタムして自分と同じ高校に通っているテイにして、とても大切にしていた。
この話をしてくれたC君とD君は、山田君と特に仲が良かったのでフィギュアを実際に見せてもらったこともあるという。
「山田は器用だからカスタムもうまくて、大事に飾ってました」
「おれたちにだけ見せてくれたみたいで。ほかのクラスメイトにはフィギュアのことは言ってないんじゃないかな」
ところがある日、山田君のお母さんが掃除の最中に落っことしてしまい、フィギュアの指のパーツが欠損してしまった。お母さんはすごく謝ってくれたそうで山田君自身も特に怒っておらず、そのフィギュアの欠損部分に丁寧に包帯を巻いてやっていた。そのフィギュア自体に愛着があって、買いなおすとかの選択肢はないのだろう。
そして、山田君は卒業までフィギュアと同じ指にずっと包帯をしていた。
C君は事情を知らないクラスメイトから
「なあ、山田の指の怪我、ずっと治んないね?大丈夫なの?」
と聞かれたこともあったが、なんとなくお茶を濁した。
D君が一度
「そんな包帯して痛みを共有まではしなくていいんじゃないの?」
というと、山田君にめちゃくちゃキレられたことがあったのだ。
山田君は本気だ。
そう悟ったC君とD君は、それ以降卒業まで包帯のことには触れなかったそうだ。
ただ、数年後の同窓会でも、久しぶりに会った山田君はいまだに同じ指に包帯をしていたという。
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語り手であるかぁなっきさんはこの話を聞いた時、怖さよりも(めっちゃ好きなんだな)と思ったという。所謂[失礼だな────純愛だよ]ということだろう。
※この話はツイキャス「禍話」より、「おそろい 二題」という話を文章にしたものです。(2024/01/06禍話インフィニティ 第二十五夜)
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