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文庫版 ユニクロ潜入一年 を読み直して 企業の姿勢や社長の資質について考える


前回の記事で話題になった本です。


せっかくですから書評をアップしたいと思います。


いつもの通り自分の読書ノートをベースにしていますので、個人ルールの凡例を示しておきますね。

・;キーワード
→;全文から導き出されること
※;引用
☆;小理屈野郎自身が考えたこと

まずは書籍のメタ情報を。

書名 <文庫版>ユニクロ潜入一年
読書開始日 2022/03/11 12:04
読了日 2022/03/12 18:04

概略

同名のハードカバー版の電子書籍を読んでいたが、今回の著書もKindleの紹介メールがあったため、購入してみた。

読了後の考察

内容としては最終章と文庫版後書きが追加されている(新刊書内容に追加する形で)感じであった。

ユニクロ、かなりヤバいぞ、という感じはする。

この本の著者の横田氏は、自分の名字を代えて、免許証などもすべて新しい名字で一新し、この潜入取材に取り組んでいる
潜入取材という手法に一心不乱なところも尊敬するが、今回は財務諸表などにも踏み込み、ユニクロの財務状態も加味した上で著書を記しているところにも敬意を表したい。
さらに、文庫版では、自分でユニクロの株式を購入した上で株主総会にも参加し、質問をしている。筋の通った行動をされているのですごいなと思った。

本の対象読者は?

ユニクロについて興味のある人
経営問題について興味のある人
雇用関係やESGsに興味のある人

著者の考えはどのようなものか?

・今回の潜入取材のいきさつについて

※カリスマ経営者が率いる企業では、カリスマ経営者が主なニュースの発信者となり、その他の社員には外部に向かっての発言を十分に与えられていないことが少なくない。

※「週刊文春」に書いた日本の記事を土台に書籍を書き上げるまでの約二年間、私は合計七回、ユニクロに取材を申し込んでいた。(中略)取材が実現したのは、2009年12月上旬に取材がかなった一回のみ。
※ユニクロについて少し調べてみると、ほとんどの雑誌記事や書籍が、ユニクロ側のお膳立てによって書かれた、いわば公式発表だ

※「悪口を言っているのはぼくと会ったことがない人がほとんど。会社見学をしてもらって、あるいは社員やアルバイトとしてうちの会社で働いてもらって、どういう企業なのか是非経験してもらい手体です」(柳井社長のことば)
(中略)
このことばは、私への招待状だ

→☆これは痛快。柳井社長はまさかここまでして潜入取材なんてしないと高をくくっていたような気がする。
それに対して徹底抗戦をした著者には敬意を表したいと思う。

※記事を書いた私を解雇できるのかどうか、ということを知りたかった。また、もし解雇するのなら、どのような理由で解雇するのか、ということも知りたかった。
※守秘義務の対象になるのは、どういう事柄なのか。私の考える「守秘義務」に該当する項目とは、俺を漏らせば同業他社を利するような情報や顧客情報、商品開発情報などであって、アルバイトの労働体験記を書くことは、守秘義務には当たらない、ということ。

☆以上のような色々な理由があり、すべてをしっかりと計画した上で潜入を試みている、ということがよく分かる
フリーのジャーナリストで、自分の気になるトピックスに全力投球できる環境があるからこそできたとも思われる。

・ユニクロの経営姿勢について

「守秘義務」について

守秘義務を守るという書類にサインをさせられる。これについてはその場でサインをさせ、内容の控えもサインした本人には持たせない。
また、どんな内容が守秘義務に当たるのか、ということについて問いただしても誰も答えられない。
一定以上の職階の被雇用者については、退職後2年間の同業種への天職は認めない、等もうたわれているとのこと。

※社員や元社員の気持ちがこの守秘義務契約に縛り付けられ、萎縮している

→☆神秘的に見せてしまい、萎縮させる方法か。新興宗教みたいだ

☆ちょっとしたスタッフの手落ちで、守秘義務契約び内容については著者が、完全に把握することができて、その内容を著書内に記している
これも面白い。読んでみると普通の守秘義務契約の書面と変わりはないと思われる。

※社内では通用するのかも知れないが、法的に通用するのだろうか?法的効力のない社内規定で社員の思考力まで奪っていることにはならないのだろうか

→守秘義務契約の解釈についての著者の言葉
☆非常に鋭い視点だと思う。

「部長会議ニュース」

従業員全員必読で、読み終わったら回覧板のようにはんこを押す。
内容としては社長のコメントの後に議事録がまとめられているが、特に柳井社長のことばは大事なので心して読むように言われる

経営姿勢

非常に少ない人員、其れも非正規雇用の職員を使って、都合のよいときだけ働く人を使う姿勢
労働者に対しては、もらった金額以上の働きを強要する。
柳井社長が言ったら、あっていても間違っていても常にそちらを向いて走る。
典型的な(極度の)トップダウン経営
柳井社長は経営実績(=売り上げ)が自分の思うように立っていないときは広告を面罵する
出勤時間を削る必要が出てくるたびに、会社の倒産話が持ち出される。(これについては労働者の方は普通は細かく調べない。其れを逆手にとっている印象あり)
→これに対して著者は

※「会社が潰れる」や「倒産する」というのは、柳井社長流のユニクロを自分の思い通りに操縦するための、魔法や呪文のようなことばではないか(中略)「倒産する」という脅し文句を使うことえ、従業員への給与の支払いを長、その分を会社の利益に回している、というように理解できる

と喝破している。本人にそのつもりがなくても、そのようなマインドで経営をしているのだと思う。
☆もちろん危機感を持って経営することは非常に大事。ある程度の内部留保も必要。しかし必要以上に内部留保を持っていても其れは宝の持ち腐れと思う。

※社長が下した二年連続で値上げするという判断が失敗だった、というこの簡単で明快な事実を、ユニクロ社内では誰も口にすることができない

→☆これがこの組織の一番の弱点(もちろん長所である場合もあるわけだが)だと思う。
値上げしたこと自体が間違いではないと思う。値上げをすることによってブランドイメージを底上げするような施策をとればいいことだ。其れをせずに価格だけ上げると、顧客が離れていくというのは簡単にイメージできるはずだが…

※ユニクロの労働力の二大供給源は、主婦と学生である。

→☆結局安い労働力を求めているだけだろう。その中から才能のある人を発見するつもりもないし、売り上げを立てるためのマシーンと考えている節がなんとなく見える。

その証拠に

※「ユニクロではすべてがマニュアル通りに行動することが大事なんです。自分で考えて接客しようとすると、余計なことはするな」と言われると、退職したスタッフからの言質もある。

☆しかし、このような状態に「順応」する労働者もいるわけで、店長などは半分ぐらいは「ミニ柳井」になっているとのこと。

※サークル的・カルト的な「ノリ」の中で、自分の「夢」や「成長」を目指して、結局は「働き過ぎ」に巻き込まれている

と著者も指摘している。
☆これらをまとめて労働者の環境を筆者は「やりがい搾取」と捉えている
一般の企業でも時折あるが、これは度を過ぎていると思う。

☆また、勤務のシフトを選べない(ほぼ教養という状態)もある。
これもひどい話。
サービス残業も根絶すると言いながら、裏でまだまだしている。アルバイトにさせると問題なので社員にさせている模様。


・ 財務状況

2016年8月期の決算では、国内売上高が8000億円前後(過去最高)。人件費は876億円、営業利益は1000億円超で営業利益率十二%強を誇る高収益

社長の役員報酬は2億4000万円。さらに株式を2800万株持っており年間の配当金はひと株あたり350円として約100億円をえることができる。
このような資産を持ちながら、従業員の人件費に関しては常に火をともすような削減を要求する。

→☆すごいなぁ。どういう発想になったらこのようにできるのかしらん、と思ってしまう。

財政的に問題はない企業なのに、常に人手不足

・ユニクロの衣料の品質について

安価な値段相応な品質。
二年と続けて着られる商品はほとんどなかった。
→☆これについては個人的にも納得している。
ウルトラライトダウンのベストを冬は着ているのだが、ジッパーが非常に弱くすぐに駄目になる。2年間は持たない印象

・子息の経営者就任問題について

・息子が2人いる。長男は1974年生まれ。次男は1977年生まれ。
それぞれ持ち株会社のファーストリテイリングの執行役員になっている

※(二人について)取締役会に入って、事業会社の経営者を任命して、会社が安泰に回っていけるように、株主としてみてもらいたい、ということ。

→☆柳井氏が、いてもいなくても息子たちを通して会社を動かしていける状態にしたい、といっているのも同然。これはおかしいだろう。
言った本人は気づいているのか?

社長本人、社長の妻、息子2人で持ち株比率は43%を超える
→☆非上場企業であれば何の問題もない(逆に持ち株比率が低く問題になりそうではある)が、上場企業でこれは非常に大きな問題と考える
また、相続問題などはどうするつもりなのだろう?
今のままであれば、被相続人は相続税を払えないと考えます。
それを避けるために例えば、無くなってしまったが、大塚家具の場合は家族で資産管理会社を作り、その会社に株をもたせ、相続には対策をしていたというのを読んだことがあります。
大塚家具よりも格段に大きいのに柳井氏はこのあたりも考えていない気がする。

※「株主」と「取締役会」はほぼ同じであるのだから、企業のガバナンスは効いていない(中略)柳井社長はユニクロという会社を自分のものだと考えているのではないだろうか?

→☆繰り返すが、上場企業でこれはひどいと思う。

・SDGsについて

※ぼくは経営者であり商売人ですからね。結局それがどんなによいことであっても、会社にとってプラスにならないこと、極端に言えばもうけにつながらないことはやるつもりはない。だからいま、我が社が行っているCSR活動も。基本的には企業戦略の一つと考えてもらっていい。

→☆未だにこのような発言をする名前の知れた上場企業の社長がいること自身がびっくりであるが、問題にならないところもすごいな、と思う。
インタビューしている記者たちはどういう思いでインタビューを記事にしているんだろうと逆に考えてしまう。
著者によると他のアパレルメーカーの場合は、SFGsやCSRについてはかなり真剣に取り組んでいる模様

その考えにどのような印象を持ったか?

思った以上に個人商店の域を超えていないな、という感じ。
しっかりと資産を築いていても、心配で仕方がない人か。

株主総会でほぼ身バレしている状況で質問をし、その印象について最後の方に著者が言っているが

※この人は打たれ弱い
※自分の言うことを聞く部下や取り巻きには強く出るが、少しでも異論を唱える人に出会うと、どうしていいのかが分からなくなる

というのが柳井社長の評伝としては一番あっているような気がする。

恐怖を元に組織を大きくしていった、ということだろう。

類書との違いはどこか

著者自身が潜入取材を敢行しているところ。
相手企業について財務評価も含めて緻密で詳細な検討を行っているところ

まとめ

読み直してみて、ある意味すごい企業だな、と思った。
恐怖をベースにし巧みに経営していると思われる。
ユニクロの製品、多用していないが、見るとつい思い出してしまいそうだ。
そして、著者の創作姿勢については本当に脱帽した。

最後に文庫版に書き下ろしの株主総会出席気がついていること、そして、他のノンフィクションライターの解説がついているところが違ったが、基本的に内容は大きく変わっていないようであった。
今回、前書を読了したときの読書ノートと今回作成するこの読書ノートの比較をしようとしたが、前回の分は読書のログのみしかとっていない(Evernoteの内容は書籍のメタ情報のみ)ので、比較はできなかった。
自分の感触から行くと、おそらく丁寧に読書ノートをとることになったようで、著作全体の理論構造や、どこに論点のポイントがあるかなどについて、以前より意識して読書していると思われた。

この調子でしっかりと読書ノートを付けていきたいと思いました。

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