【週刊プラグインレビュー】iZotope / RX10 Standard
今月はiZotopeから発売されたRX10 Standardについてレビューしていきます。
RX10はiZotope社が開発したオーディオリペアツールで、近年では手軽にオーディオリペアが体験できるリペアアシスタントの搭載や、手頃な価格で購入できるElementsやOzoneとのバンドルセットも発売されたため、ポストプロダクションに従事する方以外にも広く広まった印象があります。
RXによるオーディオリペアに関しては以下の動画をご覧になってもらえればほぼ全て網羅できるかと思います。
ご購入はこちらから。
実は今回のアップデート、個人的には特段何か書くことはありません。
リペアアシスタントは一から設計し直され、GUIも操作しやすく、オーバープロセスも減った印象ですが、そもそもRXを使わなくてもいいように録音するのがエンジニアの務めだったりするので、そこまで頻発して使うものでもありません。
新機能である目玉のSpectral Recoveryは10万円を超えるAdvancedにしか付いていないですし、特定のセリフを見つけてロケートできる超絶便利機能Text Navigationも現状英語にしか対応していない為、日本語でのナレーションやダイアログには使用できません。
ということで、RX10のレビューと銘打ちましたが、今回は10ならではの新機能には触れず、レコーディングエンジニアとして実際どうやってRXのモジュールを使っているのかと、RXを使わないようにどのように録音とポストプロセスを行なっていくのかを解説していこうと思います。
ボーカルにMouth De-Clickを使用する、ハムノイズや暗騒音にSpectral De-noiseを使用する、などのポピュラーな使用方法に関しては素晴らしいレビューがすでに多数存在しているので今回は割愛します。
使用頻度の高いRXモジュール
Phase
RXの中で立ち上げる頻度が一番高いモジュールは[Phase]です。
[Phase]はその名の通り、位相を操作するモジュールになります。
詳しい操作方法は以下を。
オプションのAdaptive phase rotationのON/OFFは、処理を行なった音源を確認してみて、良い方を採用すれば良いと思います。
[Phase]を使用する理由は「無駄なピークを取ってヘッドルームを確保する」それに尽きます。
録音された波形はしばしば非対称な形をしています。
この偏りが大きいと無駄にピークレベルに達してしまい、ミックスやマスタリングにおいて十分なヘッドルームを確保することができません。
やたらピークレベルは高いのに、聴感上そこまで大きく感じない、という「ピークと聴感レベルの不一致」の原因にもなります。
RXの[Phase]は波形を解析して、最もピークレベルが低くなるように位相を回転してくれます。
私はボーカルに関しては必ずRXで位相のチェックをするようにしています。
実際位相を回転させることでピークレベルにどんな変化があるのか。に関してはこちらをご覧ください。
ピーク検知式のコンプやサチュレーションは、ピークの高い部分からかかっていくので、波形が非対称なままだとこれらのダイナミクスに関わるプロセッサのかかり方が意図しない形になります。
いつもとコンプのかかり方が違う、感覚的になぜか今日は歪みやすい、と感じたら位相の偏りを疑ってみても良さそうです。
[Phase]は2Mixに対しても有用です。
マスタリング前に位相を回転させておくことの利点に関しては以下の動画をどうぞ。
RMSやラウドネスレベルにほとんど影響を与えずに、デジタルプロセスにおいて不利になるピークを取り、ヘッドルームを稼いでいます。
注意としてはブラスやアンプに立てたマイクなど、基本的にダイアフラムを押し込むような挙動をするソースに対しては、[Phase]は使わない方が良いと思います。
確かに聴感上は変わらないし穏やかな波形にはなりますが、ブラス独特の歪み感(ピークの高い部分がバスやマスターのプロセッサに当たってサチュレーションしていく感じ)や、スピーカーコーンをググッと押していく挙動がなくなってしまうので、ブラスのブラスらしさを一気に失います。
位相に関する問題として、ベースのDIとアンプの位相・ドラムのマルチマイクの位相など、単一ソース複数マイク間の問題がありますが、それらの擦り合わせの作業に関してはRXではなく、Waves - InPhaseやSound Radix - Auto-Alignを使用しています。
Resample
[Resample]はいわゆるSampling Rate Converter(=SRC)です。
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