読書日記(2024/8)

今年になって初めて、梁石日を読んだ。在日文学の巨人のような存在である。ベストセラーとなった『血と骨』は是非、読んでおきたいところだ。北野武主演で映画化もされている。『明日の風』(913冊目)は、『血と骨』の主人公・金俊平の息子成漢の視点から見た物語である。戦後の朝鮮人社会の苦境がリアルに描かれ胸がつまるが、一方で深夜のデートスポットでカップルにいたずらをするという、少年たちのいたずらには心温まるものがある。いつの時代でも子供たちの自由の想像力は、過酷な現実の隙間をくぐる抜ける力がある。続いて読んだのは、またしても梁石日の『闇の子供たち』(914冊目)。これもそのままのタイトルで映画化されている(江口洋介主演)。タイの児童買春を描いたものだが、まだ生育途中の少年少女が大人の性的なおもちゃにされる場面は本当に読んでて辛い。ちなみに、この映画は、タイでは上映禁止になった。『大いなる時を求めて』(915冊目)も梁石日の作品だ。とにかくやたら梁石日ばかり読んでいる。この本は、詩人の金時鐘をモデルとした小説である。金時鐘は生まれは朝鮮半島だが、済州島四・三事件に巻き込まれ、逃れるようにして日本に来た。以降、朝鮮総連の組織に入るが、そこで自らの詩が社会主義のリアリズムの反映していないと党から叱責されてしまう。表現の自由とイデオロギーの板挟みになる、小説後半が読みどころである。ところで、塾講師の八月は忙しい。夏期講習があるからだ。私は今年から中学部へ移動したのだが、高校入試にはなんと詩が出題される。初の中学生への授業は、なんと詩の授業だった。というわけで、読んだのが次の三冊。小林真大『詩のトリセツ』(916冊目)、渡邉十糸子『今を生きるための現代詩』(917冊目)、『石垣りん詩集』(918冊目)。石垣りんの詩は、平易な言葉でほとんど散文的な詩を書くが、なかには、なかなか不気味な詩もあった。梁石日を読んでから、在日社会についてもっと学ばなければならないと思って、『在日朝鮮人』(919冊目)を読んだ。彼らはいつ頃日本に来て、どうように日本社会に定着したのか。そして戦前はどのような差別を受け、戦後にどのような受難があったのか。ほとんどの日本人はそうしたことを知らないし、知ろうともしない。多様性の時代だと言われるが、我々は最も身近な在日朝鮮人の姿すらちゃんと見ていない。在日問題を考える二冊目は、『〈在日〉という生き方』(920冊目)を読んだ。この本では、参政権問題について書かれているが、驚いたのは、朝鮮総連は在日コリアンに外国人参政権が付与されるのを明確に拒否していることだ。理由としては、参政権付与を通して在日の同胞が日本社会に同化してしまう懸念があるからだという。韓国系の民団の立場は少し複雑だが、彼らも参政権問題については、やはり同化という点を気にしているようだ。一般に、外国人参政権問題は、「外国人に参政権を付与すると日本が乗っ取られてしまう」などと言われるが、総連や民団の側から見ると、「参政権付与は同胞が日本社会に乗っ取られてしまう」と考えている。在日外国人の包摂は他者論の大きなテーマだが、包摂にも暴力性が内在していることをこの事例は教えてくれる。続いて、総連と民団の相克を徹底取材した『決別』(921冊目)を読んだ。朝鮮半島の南北の対立は、日本社会では、朝鮮総連(北朝鮮)VS 民団(韓国)という形で現れた。金大中拉致事件といい、文世光事件といい、たしかに日本社会も朝鮮半島の南北抗争と無縁ではなかった。この本では、在日コリアンたちが日本という舞台で「朝鮮戦争」を繰り広げたいたことを教えてくれる。朝鮮戦争が休戦(1931年)して、もう70年も経つが、戦前は帝国日本の植民地となり、解放後は米ソのパワーゲームに翻弄され、たくさんの悲惨な血が流れた、この半島に早く平和が訪れることを願ってやまない。


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