螺旋上昇していく未来
「すべては良いことのためにあるのだ」
と小さく呟きながら歩く。
剥がれかけた小指の白と緑はいつだって僕の味方だった。感謝の気持ちを込めて丁寧に除光液を塗る。「ありがとね、君もしばらく休むといいよ」と言葉をかけながら。
上昇螺旋を描きながら僕の人生は進んでいく。
必要なものはいつだって僕の周りにそろっている
大切なことはいつだって僕のそばにある。
キラキラとした宝物を大事に抱えて生きている、しっかりと抱えて生きれている。
大丈夫だ。大丈夫だ。
光を辿って歩けている。
ドドドドっと過ぎていった今年の夏。
手のひらに残った経験とお金。
お金はすぐに美味しい鰻とカメラに変えた。
経験は手のひらにこべりついて、これからも僕と一緒にいてくれるらしい。
圧縮された心を解凍ソフトにかける。
その心は圧縮される前と同じなのだろうか。
変わらないことを願いながら、同じであることを厭う。停滞を恐れ、変化を望む。
そんな一進一退を繰り返しながら、小さな成長を噛み締められた僕は、あの頃よりも少し大人だった。
なんの躊躇いもなく呼ばれた「ねぇ、おじさん」という言葉に躊躇もなく「なに?」と返せるようになった僕はあの日と何も変わらない僕だった。
秋めいた風が吹く。
今ここにいる。
今できることができている。
なんだかちゃんと生きれている気がした。