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低調のリヴァプール、何が起こっている?

21-22シーズンは国内のカップ戦で二冠をし、一時期はCLとプレミアリーグも合わせた四冠も間近だったリヴァプール。しかし、22-23シーズンは開幕から勝ちを中々拾えない試合が続いている。第11節のマンチェスター・シティ戦を迎える前で、プレミアリーグでは10ポイントの10位、CLでもナポリに圧倒され敗戦するなど、昨年の強さが遠い昔のように苦戦を強いられている。なぜこのようなことになってしまったのか、何が起こっているのか、紐解いていく。

昨シーズンよりスカッドは強化?弱体化?

22-23のリヴァプール布陣

今夏の移籍市場でリヴァプールは少数ながら長期目線で的確な補強をした。以下が主な獲得した選手のリストだ。()内は獲得先と移籍金。
・ダルウィン・ヌニェス(ベンフィカ、€1億)
・ファビオ・カルヴァーリョ(フラム、£800万)
・ラムゼイ(アバディーン、£420万)
・アルトゥール(ユヴェントス、ローン移籍)

一方放出した主な選手は以下の通りである。()内は放出先と移籍金。
・サディオ・マネ(バイエルン、£3500万)
・ディボク・オリギ(ミラン、フリー移籍)
・南野拓実(モナコ、€1500万)
・ネコ・ウィリアムズ(ノッティンガム・フォレスト、£1700万)

こう見ると、少数ながらも選手が抜けたポジションも他のポジションも、偏りなく的確に補強している印象を受ける。しかし、その補強も短期目線で今季の結果を考えると効果的だったとは言えない状況だ。

最も大きな影響はチームの柱である、サディオ・マネを放出したことだ。
昨シーズンのマネは、前半戦は左WGで出場していたが、昨冬にルイス・ディアスを獲得してからはCFとしての起用が増えていた。そして、このCFとしての起用がハマり、チームの快進撃を支えたのである。
実際マネの強度の高い守備から生まれた得点がリヴァプールの得点源の一つになっていたため、彼を放出することは1年間戦う上で危険視されていたことだった。

そのマネをバイエルンに放出し、同じポジションでダルウィン・ヌニェスを獲得した。しかし、彼はプレミアへの適応に苦しんでおり、現状マネのような鋭いプレスも得点力も見られていない。当然プレミアの強度に慣れるまでには時間がかかるため、この状況は仕方のないことではある。ただ、その結果マネの抜けた穴が現在のチーム状況に直接繋がってしまっていることを考えると、クロップはマネのいない昨シーズンとは別のフォルムチェンジを迫られていると言えるだろう。

ショートカウンターからポゼッションへ

クロップ監督の戦術と言えば、前線ハイラインから相手のパスコースを限定させながら鋭いプレスを繰り出し、より高い位置でボール奪取するゲーゲンプレスだ。しかし、マネの放出も影響して今シーズンは開幕から昨年ほどのプレス強度はなく、より自分達のポゼッションの質を高めようとしている印象だ。これこそが今季のクロップリヴァプールのフォルムチェンジと言えるだろう。

例えるなら、ペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティのスタイルに近づこうとしていると言える。圧倒的な保持率で自分達がボールをコントロールしつつ、奪われた時には即座にプレッシングをかけてショートカウンターでゴールを目指すというものだ。昨シーズンのリヴァプールもポッゼッションに寄ってきている印象だったが、今季はよりその方向性が加速したように感じる。

しかし、先程も指摘したように保持を追い求める代わりに、持ち前のプレス強度が落ちてしまっている印象が強い。もちろんマネがいなくなったという影響が最も大きいが、それを差し引いても全体的な強度不足は否めない。

復活のFと主力の不調

昨シーズン不調だったフィルミーノが、今季は完全復活を遂げている。ここまでプレミアでは6得点と好調を見せているほか、オンザボールでもオフザボールでも効果的な動きを見せている。マネが抜け新たな得点力が求められていた中で、フィルミーノの復調はチームにとって大きいと言える。

その一方で、不調の選手が多いというのも現実だ。特にDFの柱であるファン・ダイクの不調は、攻守両面で影響が大きいと言える。攻撃面では、彼の飛び道具である前線へのフィードが届かない場面が多く見られる。また守備面でも、足が止まってしまう場面があるなど、昨シーズンのような安定感がなくなってしまっている。今後の不調選手たちの復調が必要なことは言うまでもない。

そして、現地を中心に指摘されているのが、右SBのトレント・アレクサンダー・アーノルドの守備についてだ。今季は開幕から各チームがアーノルドの背後のスペースをかなり狙うようになり、特にSBとCBの間を背後に通すスルーパスが多くなっている。また、アーノルドもそれに対応しきれず、このスルーパスからのニアゾーン攻略が失点パターンとなっているのが現状である。昨年までなら全体的な保持率もライン設定も高かったため、相手を自陣に引き込む時間は少なく、あまりこの問題が露呈することはなかった。しかし、今季は全体的な強度不足から簡単にボールの前進を許し、ライン設定が低くなってしまったことから、最終的にアーノルドの裏が攻略される形となっている。

続出する怪我人

今季のリヴァプールは怪我人が多くなっている。
シーズン序盤はコナテ、チアゴ・アルカンタラ、カーティス・ジョーンズ、チェンバレン、ナビ・ケイタ、ラムゼイ、ジョタといった選手たちが離脱していた。大方それらの離脱者は戻ってきたものの、アーセナル戦ではアーノルドとルイス・ディアスも怪我をし、ディアスに至っては12月までの離脱が濃厚となってしまった。

ワールドカップの期間があるとはいえ、そこまでの期間はCLのグループステージやビッグゲームが複数あるだけに、シーズン全体を左右する正念場と言えるだろう。

敗戦の中で見えた希望

ここまで苦しんでいるリヴァプールではあるが、ここからの浮上が絶望的であるかというとそうとは言えない。希望が見えたのはプレミアリーグ第10節のアーセナル戦だ。
この試合、リヴァプールはその前のミッドウィーク、レンジャーズ戦で手ごたえを得た以下画像のような4231のフォーメーションを組んだ。

4231へのシステム変更

4231の3の真ん中OMFにジョタを起用し、守備時は442気味に可変するシステムだ。結果は3-2で敗戦した。序盤からそれまでのプレミアのゲーム同様に全体的な強度不足が見られ、前半途中までは劣勢を強いられた。

しかし、前半22分にクロップは動く。キャプテンのヘンダーソンを呼んで、身振り手振りで指示を与えた。指示の内容はおそらく守備に関することで、その時のジェスチャーとその後の選手たちの動きから察するに、「もっと速く寄せなさい、寄せなくても相手を牽制する動きを怠らないこと。」と指示したと考えられる。前からのプレスが緩いためにそれが後ろへ波及し、押し込められることを、クロップは見抜き確認したそれまでの前半の時間だったのかもしれない。

ここからリヴァプールの選手たちは特に前の選手たちを中心に、より速くボール保持者に寄せるようになり、二度追い、三度追いといったハードワークの回数が増えた。圧力を受けたアーセナルはボールを前に蹴り出す動きが増え、結果的にリヴァプールは効率良くボールを回収できるようになったのである。34分のヌニェスの得点も、元はヌニェス自身がGKに鋭くプレッシングをかけ、それによって得たスローインから始まっている。

この高い強度からのボールの回収こそが昨シーズンのような戦い方であり、クロップらしい勝ち方であった。今回のアーセナル戦ではその強度が90分持続しなかったため敗戦したものの、一度見失いかけた自分たちのスタイルを再発見する機会になったのではないかと考える。戦いが続くにあたって、前半スタートからあの強度を出来る限り持続させることが今後の課題だと考えられる。

浮上のキーマンは右サイドにあり?

アーセナル戦でもう一つ分かったことがある。それはサラーの立ち位置に関することだ。昨シーズンの後半戦からサラーとアーノルドの右サイドについて、ある配置が見られるようになった。それは、サラーが大外にアーノルドが内側に絞って配球するというものである。これ自体には、アーノルドのキック精度をよりゴールに近い位置で活かせるというメリットがあり、良い取り組みではあると思う。

しかし、その頻度が多すぎた結果、かえってサラーの得点力を削ぐ形となってしまった。サラーは昨シーズン前半からほぼ無双状態で得点を積み重ねていたが、後半戦はこの配置もあってか前半戦ほどの得点は生まれなかった。サラーは左利きであるため、大外からのクロスではなく、カットインでのシュートやパスを好む。そのため、サラーとアーノルドの両方をより活かすなら、内にサラーで外にアーノルドの機会が多い方が、得点に繋がる確率は高くなる。特にアーノルドの右足は遠くからでも最高級の正確性が出る。また今季はダルウィン・ヌニェスという高さが出せる"タワー"がいるだけに、より高い得点力を維持するならアーノルド大外の方が良いと考えられるのである。


ここから反撃の可能性は十分にあり!

アーセナル戦でようやく良い要素が出てきたリヴァプール。プレミアでは10位だが、ここから来季のCL圏内であるトップ4に食い込む確率は十分にある。その根拠は二つある。

一つ目に、リヴァプールは一試合未消化の試合があり(最もチェルシー戦ではあるが)、それに勝利した場合一気に8位になるためである。

二つ目に、今季は11、12月にカタールで行われるワールドカップを控えているということである。各クラブの主力が軒並み代表として参加する中、リヴァプールはサラー、ルイス・ディアス、マティップといった主力選手たちがワールドカップ予選で敗退しており、この間は休暇でリフレッシュすることができる。当然リヴァプールにもカタールへ飛ぶ選手たちはいるが、その数は他クラブと比べても少ない。一方他クラブは、疲労の溜まった選手たちがワールドカップを終えて帰ってくるため、どうしてもコンディション調整が難しく、上位陣の中には怪我人が続出し順位を落とすクラブが出る確率は高いと考えられる。

これらの要素から、自分たちのフットボールのスタイルを磨き直して戦っていけば、順位は自ずと上向いていく可能性は高いと考えられる。11節は好調マンチェスター・シティ戦である。昨シーズン最終節まで優勝を争った相手に対して、どのようなゲームを展開するのか非常に注目である。ここで勝利すれば、プレミアリーグ優勝とまではいかなくとも、トップ4に向けては大きな追い風になることは間違いない。クロップは今後チームをどんな方向に向かわせるのか、その動向に注目し、期待したいところだ。

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