ユルゲン・クロップという人物
久々の投稿になります。
日本時間の1月26日夕方、リヴァプール公式でクロップ監督が今シーズン末をもって退任することが発表された。このニュースはイングランドのみならず世界中のフットボールファンに衝撃を与え、彼の退任を惜しむ声が各方面から相次いだ。私自身もリヴァプールを愛する一人として、そしてユルゲン・クロップという人間を愛する一人として、彼の退任にショックを受けた。
クロップがリヴァプールに残したものは何だったのか、またイングランドフットボール界全体に残したものは何だったのか。KOP(リヴァプールファンん)として、イングランドフットボールを見てきた者として、自分なりに言語化したので最後までお付き合い頂けると幸いです。
ユルゲン・クロップ
出身はドイツのシュトゥットガルト。選手時代はマインツで約10年間活躍し、プロ生活はほぼワンクラブマンとして終えた。
引退後すぐにマインツで監督業をスタートさせた彼の快進撃はここから始まる。当時2部だったマインツを1部昇格に導き、翌年は11位と健闘。その後は再び2部に降格し、マインツでの監督キャリアを終える。
その後、ボルシア・ドルトムントの監督に就任し、低迷するドルトムントをリーグ2連覇、チャンピオンズリーグ決勝へ導くなど、その手腕を世界中に轟かせた。
リヴァプール、クロップ監督誕生
リヴァプールが成績不振から当時のロジャース監督を解任したのは2015年10月。その後任として白羽の矢が立ったのが、マインツ、ドルトムントを躍進させたクロップだった。
彼の戦術はゲーゲンプレスと呼ばれる激しいプレスを繰り出すものだ。相手がボールを奪取した瞬間、できるだけゴールに近い位置で四方八方から人でボールを即座に包囲し、ボールを奪い取る。そして、そのまま速攻でゴールを目指すという戦術だ。このフットボールを体現する選手達には、相当な運動量が求められることは言うまでもない。
当時のイングランドフットボールでは目新しい戦術であったため、多くのイングランド人の心を揺さぶった。フットボール発祥の地と言われるイギリスにおいてプロフットボールは、産業革命期に労働者階級のスポーツとして発展した。普段は工場や炭鉱といった場所で働く労働者の休日の娯楽として発展し、この国のフットボール文化はその系譜で続いている。クロップの激しいプレス戦術と激しく運動する選手達の姿は、労働者階級時代のイギリス人のアイデンティティを擽り、それ故にクロップの戦術は多くの人の心を動かしたのかもしれない。
その後クロップの指揮下でリヴァプールは、18-19シーズンのチャンピオンズリーグ優勝、19-20シーズンの30年ぶりのリーグ優勝をはじめ、主要なタイトルを8年間で6個も獲得した。今季それが何個まで増えるのだろうか。
リスペクトし合う宿敵、ペップ・シティ
クロップの歩みを語る上で、ペップ・グアルディオラのマンチェスター・シティの存在は欠かせない。毎年優勝争いにはクロップ・リヴァプールとペップ・シティが必ず参戦し、通常であれば優勝できる勝ち点で優勝できない程のハイレベルな争いが毎年のように続いた。
彼らはただのライバルではない。多くの人が連想するライバル関係はバチバチ火花を散らす関係性だが、彼らの関係性はリスペクトし合って高め合う関係性だ。ペップ監督もクロップ退任発表後の会見で、「彼なしには、私たちが過ごした時間を定義することはできない。個人的にも人生で最大のライバルだ。」とクロップの存在の大きさに言及している。
互いに高め合う理想的なライバル関係があったからこそ、ハイレベルな競争が生まれた。それはリーグ全体に波及し、イングランドのフットボールは世界中のフットボーラーから憧憬の対象となったのだ。
ユルゲン・クロップという人物
ユルゲン・クロップとは何なのだろうか。
監督、元選手、戦術家、温厚な人、モチベーター、・・・
そのどれもが正解だ。
私にとってのクロップは”家族”だ。
彼は戦術で人の心を動かす。しかし、私が心を動かされたのは、彼の言葉や人柄だ。
彼はミスをした選手を決して非難したりせず、むしろ擁護する。また、移籍する選手には、出る選手でも入って来る選手でも必ずその前後のクラブでの動向をチェックしている。サポーターに対しても試合後、必ず気持ちを共有しに場内を一周する。会見ではフットボール界全体やイギリス社会の問題について敢えて言及し、人々に問題提起して社会課題の解決に貢献しようともする。また、就任時には街に直接出向き、リヴァプールというクラブがこの街でどんな存在なのか理解しようとした。
このような彼の普段の言動や人柄、人を大事にする姿勢を見ていると、同じ人間としてこの人のような人間になりたいと思う。彼の人間的な魅力は多くの人々の心を惹きつけ、全く面識はないが彼が家族の一員のような感覚にさせてくれる。
リヴァプールというファミリーの中で、クロップという人間は「父親」のような存在なのだ。約9年間、家族の中に必ず彼はいて、サポーターやスタッフ、選手達と感情を共有し、濃い関係性を築いてきた。
クロップが我々家族のもとを離れることを決意した。
いつかは訪れる別れではあるが、今まで切っても切り離せない関係性だっただけにファンのショックは計り知れない。しかし、現実は変えられない。
彼はリヴァプールというチームに一貫したアイデンティティを与えた。退任した後、我々はこのDNAを数十年と絶やしてはならない。彼のゲーゲンプレスの精神は私達KOPのモットーであり続けるのだ。
クロップとの最後の時間で残された道は一つしかない。
残る4つのタイトルすべてを獲得し、有終の美を飾る以外に選択肢はない。4冠という本当の夢はここから始まるのだ。
参考記事
Goal 2024.1.28「リヴァプールに激震…クロップ監督が今季限りで退任「エネルギーがなくなった」。日本代表MF遠藤航も所属」https://www.goal.com/jp/%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%B9/2024-0126-liverpool-klopp/blt004c3f24b748fc35
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