映画「ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれから」:自分と似た他者を見つける喜び、全く異なる他者と繋がる喜び
2020年にNetflixオリジナル作品として配信されたアメリカ合衆国の青春ラブコメ作品。孤独な高校生活を送る主人公エリーに、同級生のポールが美女アスターへのラブレターの代筆を頼むことで、ポールとエリーとポールが恋をしているアスターの三角関係が始まるというお話。
言うならば「同じ星」に生まれた人を見つける(自分と似た他者を見つける)喜びと、「違う銀河系」の人と繋がる(全く価値観も何もかも異なる他者と繋がる)喜びを描いたような映画だった。
エリーとアスターの関係
前者はエリーとアスターの関係。アメリカの田舎町において、エリーは中国人という出自、突出した知性、そして早熟した人格で孤立しており、そしてその現状に諦めきっている。誰が見ても孤独な生活をしている女性である。一方のアスターはカースト最上位に位置し、いわゆるジョックスであるボーイフレンドもいて、見た目には孤独からは程遠い存在である。しかし彼女の友人はアスターのスター性に集っているだけであり、またボーイフレンドも彼女に不釣り合いなほどおつむが弱く、アスターは周囲の誰とも心の交流をしている様子はない。友人に囲まれているアスターも、また孤独でなのである。
ポールに扮したエリーとアスターの2人の手紙では、オスカーワイルドの文章など、読書家かつ深く思考する人間である片鱗を見せる(時にややスノビッシュな)言葉を散りばめることによって、「同じ星」で生まれた人間、同じ価値観を共有する人間であることを確認していくプロセスが描かれる。この2人の関係性は、映画「ウォールフラワー」にも通じる、異質な個人の孤独が癒やされる過程を描写したものであると思われる。個人的にも学生時代常に自分が浮いている存在のような気がしてしまい、態度を装い本音を隠すことでさらにその不自然さで浮く、といった負のループを経験したことがあり、かかる中で自分と同じようなことば遣いで話す友人を見つけ、呪縛から解放された経験があり、この時のエリーやアスターの感情には強い共感を覚えた。
エリーとポールの関係
「違う銀河系」の人と繋がる関係は、エリーとポールの関係性。エリーとポールとの間には圧倒的な知性の差、知識への関心の差、また中国移民とアメリカの保守家庭という出自がなせる価値観の差がが存在するが、同じアスターへの関心を共有することによって、意図せずお互いの人生を知ることになり、お互いの孤独や閉塞感といった近しい感情を共有することによって、深い愛着の感情を育むこととなる。
ポールは同性愛への拒絶反応を見る限りいわゆるアメリカの保守貧困家庭に育った人物だが、その価値観を超えて、エリーを理解しようとするに至る。またエリーはその早熟さと合理的な性格ゆえ、恋人を追って「発車した電車を追いかける」といった極めて人間的かつナンセンスな行動を理解できないような人間であるが、ポールを通じて人間間に構築しうる、合理性を超えた強い紐帯を知る。
この2人の様子は、全く違う価値観を有した、それこそ「違う銀河系」にいるような人々が、お互いの世界を共有しあい、その価値観を超えた関係性を作る喜びと可能性を描いているように思われる。アメリカのリベラル/保守、アメリカ人/移民の分断がこれまで以上に大きい現代において、特にエリーとポールの関係性がもたらす示唆は大きい。