俺の上司はちいかわかもしれない 第1話「朝礼」
「てめぇ…こんなこともわからないのか!!」
「あ…はい…」
「今月目標達成できねぇだろ」
「……」
「なんとかいえよ!」
「あ…」
「いいか…俺たちはいつどうなるかわからないんだ!死ぬ気でやれ!」
「すみません」
営業第二課の長野部長は時折、鬼のような説教をする。この時ばかりは部内の空気が最悪になる。
「またキメラだ。今月5回目だよ」
「ちょっと多くない?いつもはあんなに温厚な部長なのに、どうしてこんな怒るのかな」
俺と卯内は、人気アニメ「ちいかわ」が大好きだ。作中では基本的にちいさくてかわいい丸っこい種族がのほほんとする世界だが、時折かわいくないキャラクターも登場する。その中でちいかわ族が巨大化し豹変する様子を「キメラ化」と呼び、俺らはそれになぞらえ「キメラ化」と呼んでいる。何かプライベートでイヤなことがあったのだろう。とはいえ、長野のことをちいかわと呼ぶ理由がある。
「11月7日の挨拶担当は、長野部長です。よろしくお願いします」
「んしょ…あ…あ…」
「お!キタキタキタ!」
「久しぶりのちいかわじゃん。名作が生まれるぞ」
朝礼で突然ちいかわみたいな話し方になってしまうのだ。話し方のテンポがちいかわそのものなので、俺たちはちいかわが中に入っているのではないかと錯覚してしまうのだ。
「えと………あぁ…」
「え…あぁ……頑張りましょう」
いつも何を言っているかわからないが、頑張りましょうで終わるのだ。
「今日聞いたか、最初に「んしょ」って言ってたぞ。しるこサンドの件でモヤッとしてた気分がちょっと楽になった」
卯内はちいかわの件になるとかなり饒舌になるが、その件を話すと必ず話に乗ってくる同期がいる。
「思ったんだど、ちいかわ化するのってかなり久しぶりじゃない?」
秘書課の百田だ。
「そうだっけ?でも去年は
「ふと思ったんだけどさ、長野さんちいかわとリンクしてない?」
百田はちいかわの考察が好きすぎて時におかしなことを言うことがある。意識してたのかな」
「偶然だろ。緊張するとちいかわみたいになるだけだよ」
「上司がちいかわ化し始めた頃から日誌に書くことがなくて記録してるんだけどさ、今年は2月以降全然なかったんだよ」
「え?そうだっけ」
「それが何か?」
「前にちいかわ化したのが2月23日なんだよね、この時「あ、く、む」でちいかわが不眠症になった時でしょ」
「あーそうだったかもしれない」
「で、今日はさ…しるこサンド殺人事件があった翌日でしょ」
「たまたまじゃない?」
「私、長野さんの中にちいかわが入ってるんじゃないかと思うの」
確かにこの2つの事実だけで考えれば、イヤな回の翌日に上司がちいかわ化するという話になるが…そんな上手い話があるだろうか。
(続く)
※ふと思いついただけの二次創作です。希望があれば続編を制作していきます。