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ソウルイノベーションパークとものづくりアウトリーチFabLab(韓国訪問Day2)
2月1日はソウル市庁で行政の取り組みをお聞きしました。
2日目の2月2日は実際に日韓若者フォーラムが開催されるソウルイノベーションパーク(革新パーク)を訪問しました。
ソウル イノベーション パーク(SIP)は、市民が集まり、創造的な場として様々な社会問題の解決を目指す活動を行う、ソウルの社会変革の発端となり施設です。
ソウルイノベーションパークとは?
もう少しひも解くと、10万平方メートル(東京ドーム2個分以上)の敷地に200の団体(団体、企業、協同組合)とイノベーターが社会経済、芸術、文化、教育、人権、フェアトレードなど様々な分野で想像力をかきたてる社会実験・試行錯誤の場となっています。市民は、ほとんどを自由に利用できるそうです。
イノベーションパークには、約17棟の施設が立ち並び、各棟には分野ごとの社会的企業や研究所、イベントホールなどが用意されていました。
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青年ハブのスタディツアー
ソウルイノベーション パークは、世界中の人々とコミュニケーションを取りたいと考えています。私たちは可能性を実現し、より安全で持続可能な社会を作ることを夢見ています。
●良くも悪くも施策で変動するソウル
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センターはソウルの一等地になるので設立反対の声もありました。
ただ、当時のパク・ウォンスン市長の肝入りでしたので、社会的企業を集めてセンター設立が実現しました。当時は話題になりましたが、市長が変わった今はそれほどの盛り上がりはないかもしれません。
青年支援は長期的に持続して支援できるかが大事だと考えています。
例えば、イギリスは保守党、労働党どちらの政権になっても支援は切れずに継続できている。本来であればソウルもそのようにしなければならないと思います。
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通訳はカンジェさん。(写真左から2番目)(著者撮影)
社会革新は市民の自発性が最も大事という理念で、このような市民活動の場を設けました。センターはいわば中間支援組織を集めた集合体で、青年ハブは若者領域の中間支援で、若者の活動を促しています。
長所は関連団体が集まっているのでシナジーが生まれやすいこと、高騰が続くソウルの賃料に対して入居が安いというメリットがあります。定価の80%OFFで社会的企業に貸せます。
ビッグイシューも事務所を構えていたり、人権保護の団体も入ってるのでホームレス支援も可能になっています。ソウルに4つある障がい者専用歯医者の1つはセンター内にありますし、環境保護団体もいます。
2011年9月の大停電で自給自足の意識が韓国で芽生えました。特にソウルはエネルギーをもらってる立場なので、食料、エネルギー危機に備える団体もここ数年で増えてきました。
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●誰でも使える木材工場WoodTerrace
未来庁を視察した後は外に出て他の棟も見に行きました。
改めて見渡すと、かなり広く、市民活動向けの施設というより「お洒落な大学」のような佇まいでした。
敷地内にはカフェやバスケットゴールもあり、芝生だったりと散歩するだけでも楽しそうな場所でした。
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その後、WoodTerraceという施設を見学させてもらいました。
WoodTerraceは簡単に言うと、木材を使った工作やアート制作が誰でも自由に行える工場(こうば)のような場所でした。
工具スペースにあらゆる機材があり、趣味のワークショップや暇つぶし、新規事業のためのプロトタイプ(試作品)作成など、自由な用途で自由に制作ができる場でした。
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特に印象的なエリアが、木材置き場スペースでした。
このスペースでは、自由に木材を使うことができ、自分の制作に活用することができる。
これだけの木材を無料で使えることは有難いが、では木材はどこから来ているのだろうか?
その木材の多くは、利用する人が提供してくださるそう。庭の木や不要になった木材を次のユーザーに託す形で巡っていました。
察しの通り、ソウルのイノベーションにはエコの姿が垣間見えることが多い気がしました。
単純に誰でもDIYが気軽にできる場所があることは市民にとって喜ばしいことに感じます。工具の準備や音が出せる場所の確保、安全性など初心者にとってハードルが高いことが回避できるので、是非日本にも(もしかしたらあるかも)できてほしいですね。
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●オープンな市民工房FabLabとは?
次に向かったのはMaker Meadowと呼ばれる棟でした。Meadow(牧草地)という言い回しが不思議ですが、もはや全てお洒落に見えるよになってしまいました。
その中には、FabLab(ファブラボ)と呼ばれる市民工房の場所がありました。先ほどのWoodTerraceの素材別バージョンといった感じでしょうか。僕はここでFabLabという言葉を初めて知りましたが、そもそもFabLabとは何なのでしょうか。
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ファブラボは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房のネットワークです。個人による自由なものづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指しています。
Fab Foundationはファブラボの名称を利用するための条件として以下の4つを挙げています。また、これらの内容は世界ファブラボ会議で継続的に議論されています。
1.一般市民に開かれていること
2.ファブラボ憲章の理念に基づき運営されていること
3.共通の推奨機材を備えていること
4.国際規模のネットワークに参加すること
かなり厳格に決められていました。一般市民に開かれていることこそが根幹の思想のようです。そういう意味では、FabLabがイノベーションセンター内に入っているのはごく自然な流れであると言えます。
余談ですが、3.共通の推奨機材を備えていることの機材を確認しましたが、レーザーカッターや3Dプリンターなど、見たこともない機材の設置が求められていました。日本でも神田や鎌倉、筑波にFabLabがあるそうなので今度見に行こうと思います。
物を作りにきてもいいし、プロトタイプの開発ができる場になっています。最近は子ども向けのワークショップや、プラスチックの再利用/エコ啓発なども行っています。小学生向けの時計ワークショップでは、プラスティック裁断機で原材料の作成からやってもらいました。(写真参照)
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FabLabソウルは、市が支援しているのでどなたでも無料で使うことができます。ソウルとしてもFabLabを推している最中で、これをイノベーションセンターの売りにしている側面すらあると思います。
特に最近では、社会革新や技術革新の方向はスタートアップ企業になりつつあるので、持続可能な社会革新を目指すきっかけの場にしています。
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(著者撮影)
おわりに
イノベーションセンターは閉鎖予定?
若者施策の中間支援である青年ハブ、木材ワークショップのWoodTerrace、市民工房のFabLabと見学していきました。
ここでツアーは終わりますが、最後にイノベーションセンターは10月で閉鎖が決まっており、取り壊してアパートのような施設になると伺いました。
ここまで戦略的な施設があっという間に閉鎖の話になっていることに驚きました。
このイノベーションセンターは前市長の意向で始まっており、いわばトップダウン的な施策でした。なので市長が変わったことで取り組みが中止されることはソウルでは珍しくありません。
冒頭の通りで、政治・施策次第で早い取り組みが可能になる一方、逆もまた然りということでした。日本ではこれだけの取り組みを「中止」「取り壊し」という判断がすぐにできるかと言われれば微妙なきがします。不要だから、ではなく政治的場面転換が理由では難しいでしょう。
イノベーションセンターはそういった経緯で開始されたので特段KPIがないとも仰っていました。場としては秀逸なだけに、定量的に効果を測定していれば・・・と思ってしまいます。
来客を増やす、企業を誘致する、そういった取り組みで盛り上げることもできたかもしれませんが、今となっては後の祭りのようです。
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閉鎖の話を聞いてからみると寂し気に見える気もする。(著者撮影)
お金も掛かっている箱があり、面白い取り組みがあり、市民活動を考えたワークショップをしていても、一番大事なことは継続することであり、いつまでも市民活動の場を構えることだと感じました。
NPOもそうで、若者が安心して来られる場所、いつきても受け入れてもらえることが活動の上では最重要になると改めて感じました。
次回、いよいよ日韓若者フォーラムのレポートを記載します。
以上