ハードボイルド探偵バネントの日記 vol.7

 水曜日 晴れ

 俺の同居人は良いヤツだ。もしこれを読んでいる未来の俺がそいつのことをどうしようもなくキライだとかいなくなればいいとか思っているなら、それは明らかに俺(未来のほう)が間違っているのであり、やや冷静な判断力を失っているといえる。少なくとも俺(今の俺)はそう思う。

 俺は近くのスーパーで売っている日替わりトリプル弁当が好きだ。これは元々の値段が安く、さらに閉店間際にスーパーに駆け込めばその半額で買える。最近は金に不自由しなくなった俺だが、この弁当は味が美味いので今でも好んで食べている。弁当の名の由来は肉、魚、キノコといった3種の具材がそれぞれ1つずつ入っており、さらにその種類が曜日毎に替わることにある。例えば、月曜が牛肉、サンマ、エノキならば、火曜は豚肉、ブリ、シメジといった具合だ。

 ただこの弁当にも一つ困ったことがあって、俺は肉とキノコは非常に好きだが、魚はどうにも苦手だということだ。一人で暮らしていた時は魚を食べるために他の具やご飯の魅力を半分近く犠牲にしている気がして、どうにもやりきれない感情を覚えたのを記憶している。だが今は、同居人が喜んで魚を食べてくれる。もちろん、そいつの分の食事もきちんと用意しているが、俺が魚をやるとそいつはいつも残さず食べる。一度魚は好きかと尋ねたら、「はい」と答えていた。その表情は明るかった。

 そいつの良いところは他にもある。そいつは部屋の管理が非常に上手い。以前の俺の事務所は、機能的で俺の好みには合うものの、やや芸術的な美しさには欠けていた。大家のバアさんに言わせれば「汚い部屋に汚い男が住んでるなんて、気持ち悪いったらないよ、バカ!」とのことだ。バカはいいが、汚い男とは何事だ。部屋だって汚いは言いすぎだと当時は思った。

 しかし、同居人と一緒に部屋の管理法を見直して掃除をしてみると、これが驚くほどに見違えた。部屋は広々として見え、思わず人に自慢したくなるような美しさに変わった上に、機能性の面でも何一つ低下してはいなかった。認めよう。たしかに以前の俺の事務所は汚かった。物は決まった場所にしまうという管理法も自分に合っているという、俺にとっては画期的な発見もあった。大家のバアさんは「この子はアンタにはもったいないね、バカ」と言っていた。バカはいいが、もったいないとは何事だ。俺の同居人をもの扱いするんじゃない。

 さらに凄いことに、そいつは俺の仕事を手伝ってくれる。依頼人の探し求める対象の居場所を嗅ぎつけるように突きとめ、俺が進むべき道を示し、目標を発見したら素早い身のこなしで接近し、抵抗する……対象を……攻撃し、弱らせ……その隙をついて、俺が……俺が? 俺はどうするんだったか……ただ、そいつはいつも仕事が終わると悲しげな目をして……俺の依頼人とは一度も会ったことがなく……?

 頭が混乱しているようだ。今日の日記はここまでにしておこう。いい加減仕事着も新調しなければ。もう謎の液体で汚れていない個所を探すほうが難しい。そういえば、以前同居人が部屋の掃除をして指を切った時も、彼女の指から同じような液体が流れた気がする。

はい

(今週のプリンセス・クルセイドはお休みです)

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