Angel Wing ~7~ 「飛び立つ翼」
「……ここは……?」
気がつくと、美羽はキラキラと輝く光の中に浮かんでいた。あたかも柔らかな日差しに包まれたような温もりを感じながら、少しずつ記憶を辿っていく。ここはどこなのか。自分はどうやってここまで来たのか。ここに来るまではどこにいたのか。自問していく中で、不意にある答えに辿りついた。
「ルディア……」
その名を呼ぶと、光の中から一際強い光が飛び出し、人の輪郭を形成した。やがてその光が晴れると、ブロンドの髪にエメラルド色の瞳をした天使の姿が現れる。
「ルディア!」
美羽は歓喜に顔を輝かせた。光の中で泳ぐように体を動かし、ルディアに抱きつく。
「無事だったんだね……!」
「ええ、お陰さまで……」
ルディアは満身創痍のままだったが、話ができるようにまで回復していて、優しく美羽を抱きとめた。彼女の手が背中に触れると、美羽の心はさらなる温もりで満たされた。しばらくそうしていた後、美羽はルディアから離れ、彼女に質問をした。
「……ルディア、ここはどこなの?」
「ここは、あなたと私の精神世界です」
「精神世界……?」
聞き慣れない言葉を、美羽はオウム返しに繰り返した。それを見て、ルディアが説明を付け足す。
「精神世界とは、言うなれば心の中の世界。美羽さんと私の心が天使の秘宝の力で合わさり、この世界ができたんです」
「……そう……なんだ……」
ルディアの話は、美羽にはうまく理解できなかった。だが、決意に燃える彼女の瞳が、何かを訴えかけていた。
「……ルディア、行くんだね。あいつを止めに」
意識しないうちに、言葉が独りでに出ていた。そして、自分がこの場所にいる理由を思い出す。ルディアもそれを確かめるように深く頷いた。
「はい、私はもう一度飛び立たなくてはなりません。ですがそのためには、美羽さんの力が必要なんです」
「どうすればいいの?」
「私の……エンジェルパートナーになって下さい」
「エンジェルパートナー?」
また聞き慣れない言葉を聞き返す美羽に、ルディアは優しく手を差し伸べた。美羽は条件反射的にその手を握り返す。
「エンジェルパートナーとは、天使と想いを一つにする人間のことです。願いの天使は、エンジェルパートナーと絆を結ぶことで、その真の力を発揮できるんです……」
滔々と語るルディアだったが、そこで一旦言葉を切り、物憂げに俯いた。その理由は分からなかったが、美羽は彼女の手を両手で握り直すと、穏やかに微笑みかけた。
「……大丈夫だよ、ルディア。怖くないから」
「美羽さん……」
美羽に励まされ、ルディアは顔を上げた。エメラルド色の美しい瞳が、さらに決意に燃え上がる。
「美羽さん、私と……一緒に飛んでくれますか?」
「うん……分かったよ。一緒に行こう!」
ルディアの想いが乗り移ったかのように、美羽は力強くそう答えた。すると、ルディアの体に周囲の光が集まり出した。光は徐々に輝きを増していき、やがてルディアの体と一体化した。
「ルディア……?」
戸惑いながら呟くと、繋げられた腕を伝って、光となったルディアの体が美羽に乗り移ってきた。光はそのまま駆け巡り、やがて美羽の全身に広がっていく。そして最後に美羽の左腕に辿りつくと、光の一部が一点に集まり、腕時計の様な物体が現出した。
「これは……?」
(それはエスぺランスブレス。天使の秘宝です)
困惑する美羽の脳裏に、ルディアの声が響いた。
(………これは美羽さんと私が想いを一つにするために必要なものです。私たちの力を解放するのに使って下さい)
「力を解放? でも……どうやって?」
(叫んで下さい。今、あなたの中に浮かんだ言葉を……)
「……分かった!」
脳裏に響くルディアの声に従い、美羽は高らかに叫んだ。
「レッツ・エンジェル! スタートアップ!」
つづく
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