Angel Wing ~3~ 「友と謎と」
昼休みのチャイムが鳴り、教室の生徒たちがそれぞれに移動を始めた。その波をかきわけるようにして、青い弁当箱を持った蒼いロングヘアの女子生徒が、机の上に突っ伏している赤毛の女子生徒に笑いながら話しかける。
「……今日も遅刻ギリギリだったね、美羽。毎朝毎朝、大変ですねえ」
「真帆、笑いごとじゃないんだってば。……毎朝毎朝、全力疾走。私、もう体力の限界……」
美羽と呼ばれた女子生徒は、自分の赤い弁当箱を机の中から取り出しながら今朝の疾走劇を振り返り、深くため息をついた。
「もう最悪だよ……」
「ダメよ美羽。ため息つくと、幸せが逃げちゃうよ」
真帆はたおやかに微笑みながら、椅子を引いて美羽の隣の席に座った。
「……っていうかさ、もうちょっと早く起きればいいんじゃないの?」
「だって……」
真帆のもっともな指摘に、美羽は視線を逸らしながら呟いた。
「……美味しそうなメロンパンだったんだもん。食べる前に消えちゃったけど……」
「……全く美羽ってば、昔から全然変わらないんだから」
寝坊したのは夢のせいだと言い張る美羽に、真帆は呆れて首を軽く振った。
「今日なんて、途中で転んだんでしょ? 美羽はドジなんだから、もっと気をつけないと」
「いやあ、気をつけてはいるんだけどねえ……」
叱られつつも、呑気に頬をかきながら答えた時、美羽はふと、あることに気がついた。
「ケガ……」
「毛が? 美羽、毛が抜けたの?」
「違うよ、怪我したんだ……」
訝しむ真帆をよそに、美羽は鼻を触った。やはり、今朝の鈍い痛みが消えている。それに心なしか、体も軽い気がする。
「ねえ、真帆。鼻、赤くなってない?」
美羽は確認のために真帆に鼻を向けた。
「赤くって……そんなに派手に転んだの?」
真帆は呆れながら、美羽に顔を近付けた。
「別になんとも……! ちょっと、美羽! 今日ずっとそんなだったの?」
「えっ!? な、何が」
突然声を荒げられ、美羽は困惑した。周りにいた生徒も視線を向けてきたが、真帆はお構いなしにまくし立てる。
「その服よ! ヨレヨレじゃない!」
「ええ……そっち?」
思わぬところを指摘され、美羽は困惑はさらに深まった。だが確かに、美羽の制服はだらしなく着崩れている。見かねた真帆は、服を整え始めた。
「まったく、信じられない! もうお昼なんだよ?」
「だったら直さなくてもいいんじゃ……」
「だまらっしゃい!! それに、鼻も赤くなんてなってないわよ!」
「あ、そう……ありがとう」
それきり、美羽は口を閉じた。これ以上話を続けるのは無理だからだ。真帆は美羽がだらしなくしていると黙っていられない。そういう性分なのだ。なにはともあれ、鼻が治ったのは分かった。
(一体どういうことだろう……)
着せ替え人形のようにされるがままにしながら、美羽は思案に暮れた。いつの間にか、周りの生徒の視線もなくなっていた。
つづく
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