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Take Me Out to The Ball Game!! 第69週
「ああ、うん……それがどうかした?」
透がなんでもないように答えると、女神は心配そうに眉をひそめた。
「内野席って高いんだよ? 青山くん、お小遣い大丈夫だった?」
「いや、まあ……」
透は曖昧に返答した。実際は想像以上にチケットの値段が高く、財布への打撃は無視できないものであった。だが、ここで妥協するわけにはいかなかった。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第68週
そうしてショップから出ると、いつの間にか球場周りの人手が一気に増えていた。
「もうすぐ開場時間みたいだね。早く行こう、青山くん」
女神はそう言うと、やおら透の腕を掴んできた。透は胸が一気に高鳴るのを感じる。ことによっては、この状態が永遠に続いても構わない。だが次の瞬間、その感慨も吹き飛んだ。
「ほら、早く早く!」
「ちよっ、ちょっと待ってよ、結城さん!」
女神は透の腕を引き、勢いよ
Take Me Out to The Ball Game!! 第66週
それでも諦めず、透は名鑑の中から自分にも分かる情報を探していった。すると、寸評欄に『昨季は全試合に出場』という記述のある選手を見つけた。この選手ならば、よもやレギュラーでないなどということはあるまい。そう考えた透は、その選手の背番号を確認すると、同じ番号のユニフォームを手に取った。
「タマちゃんか……いい選択だね」
女神が感心したように呟いた。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第63週
「あっちも買わないとね!」
指の先にあったのは、彼女が身に着けているのと同じ服、いわゆるレプリカユニフォームの山だった。
「う、うん……そうだね」
口では同意しながらも、透は確実に圧倒されていた。ユニフォームの種類と数が多すぎるのだ。今女神が身に纏う「TSUCHIYA」を始め、商品棚には約20種類のユニフォームが並び、それぞれにサイズ違いが備えられている。対して透は、その中に埋もれる選手
Take Me Out to The Ball Game!! 第62週
だがこれは現実だ。なんとか正気を保って、女神との会話を続けねばならない。
「ああ、うん……やっぱり球場に来たらこういうのは外せないでしょ?」
透はやや虚勢を張るようにしてそう答えた。
「そうかもね。でも、どうせだったらさ……」
それを聞いて、女神はいたずらっぽく笑いながら店の一角を指差した。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第61週
透はこの情報量に圧倒された。これがあれば、一気に野球博士になることができ、女神との会話も弾むに違いない。その上、フルカラーときている。これはもう確実に買うしかないと考え、透はその本をキープし、そのまま近くから調達した買い物かごの中に入れた。
「へえ、青山くん。選手名鑑買うんだね」
その様子を見て、女神が微笑みかけてくる。ただそれだけで、透は天にも昇る気持ちになる。彼がよく見る気の利かないタ
Take Me Out to The Ball Game!! 第60週
「今日の先発瀬川だろ? 試合が早く終わるかもしれないな。完封だ」
「どうかな。ウチの攻撃だけで四時間はかかると思う」
ファンたちはそれぞれに思い思いのことを話しながら、商品を吟味している。透には会話の内容も、商品の良さもよく分からなかったが、取り敢えずこの未知の空間をよく観察することにした。
すると、『プロ野球選手名鑑(フルカラー)』という単行本が目に留まった。手に取って中身を見てみると、
Take Me Out to The Ball Game!! 第59週
勝利を収めるには、機を窺うことが重要だ。
「まだ開場まで時間あるね。青山くん、ちょっと買い物でもしない?」
「しましょう」
そんな思惑もあり、透は女神の誘いに一も二もなく同意した。正直に言って右も左も分からない今の状況では、素直に従うのが一番だ。
そうして二人は、球場に隣接するグッズショップへと向かった。入り口の自動ドアを抜けると、店内はすでに多くのファンでごった返していた。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第58週
これをデートと言わずして何と言うのだろうか。
(ならば、この好機……逃すわけにはいくまい!)
透の中に眠る武将が身をもたげた。
何に対しての好機なのか、これを掴む、または逃すとどうなるのかは皆目見当もつかなかったが、とにかく燃え上がるものを感じる。これは言わば、戦だ。確かに今の自分には、知識も無ければ武器も無い。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第57週
話を合わせそこなって、がっかりさせてしまったかもしれない。やはり一夜漬けの知識と、前日の試合三回のウラから八回表までのみという観戦歴では、女神と会話することもままならないのか。だがそうは言っても地上波のテレビでは夜7時から9時までしか試合は中継せず、夜のスポーツニュースを前にして、透は寝てしまっていた。この数日というもの、女神とデートできるという興奮で夜もろくに眠れなかったのだが、昨日に限ってそ
もっとみるTake Me Out to The Ball Game!! 第56週
女神はそう答えると、バットを頭の上に水平に掲げる仕草をした。
「結城さん? それ何?」
「……あれ? 青山くん、知らない? 土谷選手は打席でこうやってからバットを構えるんだよ」
女神はそう言ってバットを構えてみせた。
「へえ~、そうなんだ」
何気ない調子で答えたが、透は内心焦っていた。
つづく
Take Me Out to The Ball Game!! 第55週
透はなんとかしてそちらのほうに視線を動かすまいとした。
「どうしたの、青山くん? 私に何か付いてる?」
だが、やはりホットな女神は目ざとい。視線を嗅ぎ付けられてしまった透は、咄嗟に言い訳を試みた。
「いや、あの……結城さんのユニフォームって、なんで違う名前が書いてあるのかなって」
透の指摘どおり、女神の着るユニフォームの背中には「YUKI」ではなく「TSUCHIYA」の文字が躍ってい
Take Me Out to The Ball Game!! 第54週
――多少、違った楽しみもあるが。
「今日はどんな試合になるかな? 何点取って勝つのかなあ!」
結城千尋はすでに興奮が最高潮に達しているようだった。まだ開場時間前だというのに、すでにレプリカユニフォームに身を纏い、首からは紐で繋がったプラスチック製の小さなバットを2本下げている。頭に被っている帽子にはWのマークだ。当然これは「Wyverns」の頭文字で、彼女が着る純白のユニフォームにも、金色
Take Me Out to The Ball Game!! 第53週
ここはサンシャインドーム。プロ野球球団の一つである中京ワイバーンズの本拠地だ。両翼100メートル、センター120メートル、フェンスの高さは4.5メートル。今年で開場20周年を向かえる、最大収容人員数38,500人の人工芝球場だ。一夜漬けの知識ではここまでしか明らかではないが、とにかくそういった立派な球場に、彼はやってきていた。その理由は、もちろん野球観戦に他ならない。
「楽しみだね、青山くん!