レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.92(4)
[101枚目]●フランク・ストークス『ザ・コンプリート・レコーディングス』<Pヴァイン>(11)
※本文を書くに当たり、小出斉さんのライナーノーツを大いに参考にしています。
【Disc 2】
メンフィス録音の<ヴィクター>盤。全て29年9月に収録されたもので、16、17が23日、18、19が25日(ここまでがヴァイオリン奏者ウィル・バッツとの共演)。残りの20~23が30日で単独名義である。そして、最後の録音となる。
ウィル・バッツは、ジャック・ケリー率いるサウス・メンフィス・ジャグ・バンド(ウィル・シェイドのメンフィス・ジャグ・バンドと紛らわしい)のメンバー。バンドとしては33年に初録音と書いてあったので、フランクとの録音が先になると思われる。ビッグ・ウォルター・ホートンとの52年のセッションが彼のラスト録音だそう。52年と言えば、ホートンがシカゴに移りマディ・ウォーターズのバンドでジュニア・ウェルズの代役を務めた頃なので、その直前の話と思われる。尚、フランクの相棒ダン・セインはフランクの前にウィル・バッツと活動しており、後にサウス・メンフィス・ジャグ・バンドの一員にもなる。
ウィル・バッツとの録音曲全般に言える事だが、ヴァイオリンの物悲しげな調べが表に立っている。フランクのギターはコード・ストロークがほとんどである。ヴォーカルは切なく聴こえ、まるでスリーピー・ジョン・エスティスのようだ。
ギターのパターンにさほど変化がないのに、ヴァイオリンと絡むと良質のアンサンブルになるのは、両者の音楽センスが発揮されている証左だ。
ウィル・バッツの演奏が主旋律を成す。音を震わせたり曲げたりする事で独特の哀切感が生まれている。
ここでのヴォーカルは、特にスリーピー・ジョンを思わせる。ヴァイオリンは時にブルース・ハープのような感触がある。
ここからフランクの単独名義になっているが、本曲と次の曲は長らくSP盤が見つかっていなかったもので、ウィル・バッツが参加している。本曲は、ギター、ヴァイオリンともにゆったりとした演奏で、フランクのヴォーカルものんびり気味で、全体として牧歌的な趣きがある。
ヴァイオリンの調べをギターがフォローしている感じだ。ここのヴォーカルもスリーピー・ジョン的。
<ヤズー>盤のコレクターなら、本曲をタイトルとしたメンフィス・ブルースのアンソロジー集を思い出されるかも知れない。タイトルにして彼の写真のみジャケットにしている割には3曲しか選ばれていないのも微妙ではある。ここからソロ演奏に戻るので、再度細かいテクニックが披露される。
いかにもフランクらしい、軽快なギターストロークからの味のある単弦奏法に、力強いヴォーカルを聴かせ、彼の録音経歴は閉じられる。
フランク・ストークスの録音は以上で終わりだが、音楽活動は続けている。30年代~40年代は、メンフィスのメディシン・ショウやテント・ショウで巡業したり、再びダン・セインとコンビを組んで、南部ツアーを行なったりしている。40年代後半は、ウィリー・ポーラムや
息子のルーズヴェルトとメンフィス~ミシシッピの南部辺りまで演奏して回っている。49年にはクラークスデイルでブッカ・ホワイトと演奏したりしているようだ。51年に音楽活動を引退。55年に尿毒症で亡くなっている。録音活動が終わってからも、演奏を20年以上続けられて、とても充実した音楽人生ではなかっただろうか。
(おわり)