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レコード棚を順番に聴いていく計画 Vol.59

【過去の投稿です】2020.7.4.記

[68枚目]●メアリー・J・ブライジ『グロウイング・ペインズ』<メイトリアーク/ゲフィン>(07)

※本文を書くに当たり、川口真紀さんのライナーを大いに参考にしています。

リミックス・アルバムを除き、ライブ盤を加えて数えると9枚目の作品となる。メアリーのインタビューを織り交ぜたライナーノーツには、本盤リリースの背景が述べられている。05年の前作『ザ・ブレイクスルー』やシングル「ビー・ウィザウト・ユー」が輝かしい記録を立て、グラミー賞はじめ各賞を受賞、それまでも十分活躍していたメアリーだが、正に"ブレイクスルー(躍進、現状突破)"な成果を収めた。その次作として"グロウイング・ペインズ(成長に伴う痛み)"とする所が、いかにもストイックな彼女らしい。音楽に対して頑固なまで真面目に取り組むのがメアリーらしさだと思う。真面目やらストイックやらといった言葉を使うと内省的に閉じこもるイメージに繋がりがちだが、基本的にオープンなのが彼女。楽しくリスナーに元気を与える姿勢が、パフォーマンスを含めメアリーには存在する。

オールド・ソウル・ファンの間では何と言っても『シェア・マイ・ワールド』とライブ盤『トゥアー』がよく話題に上る。後はせいぜい1stだろう。その後はロック寄りの感覚もあり、興味が薄れる人もいるかも知れないが、基本的にリズム感覚は変わらず、私なんぞはあまりロックがどうのこうのというのはさほど気にならない。と言いつつも、メアリーに限らずそもそも現代R&B諸作品から離れているのも事実である。17年の最新作も試聴したけどヘッドホンを早々と置いてしまった。たぶん、何回か聴けば気に入るとは思うが、他の買いたい物を優先してしまう昨今だ。

メアリーの作品で好きな部分は、優れたリズム感と徹底的に歌い切る歌唱の2点が大きい。本盤も久しぶりに聴き、メアリーならではの音世界を堪能出来た。ウィキペディアで各アルバムの全米売り上げを見てみると『ザ・ブレイクスルー』が310万枚なのに比べ、本盤は164万枚と数字は下がっているが、内容は決して落ちてはいないと思う。ボーナストラックを含め20曲、2枚組を聴いたかのような充実感はある。蛇足だが、アルバム的には『シェア・マイ・ワールド』が406万枚と最高。逆に本盤の次の『ストロンガー・ウィズ・イーチ・ティアー』からガクッと落ちている。CDの売り上げ全体が芳しくない面もあるだろうが、グロウイングよりペインズが先立つ結果となっている。彼女の姿勢自体は変わらないと思うが・・・。

全般的に曲間を繋ぎ、前述したリズム感覚がヴィヴィッドで最初から最後まで愉しませてくれる。タメの効いたリズムがメアリー・ワールドへ誘う①。②はタイミングよく切り込むリュダクリスのラップを交え、メアリーもラップと歌唱の中間をたゆたう。後半、音が前に出てラップが裏に回る所も好きだ。1stシングルの③は、ザ・ドリームも関わる抜群の乗りを持つ曲。サビの「ファイン、ファイン、ファイン、ファイン、ファイン、ファイン、ウー」の繰り返しが耳に残る。④⑤⑥⑦と抑えめの曲が続くが一定のグルーヴは保たれている。⑤はじわじわと盛り上がり、メアリーの歌唱が一層愉しめる。アッシャーをフィーチャーした⑦は落ち着いた展開。パーティー感のある⑧は、ファレル・ウイリアムス絡み(あの話題作発表の7年前)。リズムがよく組み合わされている。⑨とかロックサウンド寄りかも知れないが、メアリーらしさが勝っている。⑩は女性への応援歌。時々語りになるが、サウンドへの乗せ方は流石だ。ミリー・ジャクソンの域。⑪しなやかで力強い歌唱を特に感じる曲。⑫終盤につれ盛り上がる。⑬完璧な人間なんていないわよ、というこれも応援歌。延々とシャウト。⑭⑮も後半に高まる。淡々とした⑯と続き、オリジナルのラスト曲⑰はぐんとスケール・アップ。メアリー自身が自分の成長の証たる曲と自負している。⑱⑲&⑨はUKと日本盤のボーナストラック。⑳は日本のみのボートラ。⑱は、音楽センスの塊トッド・ラングレンの「ハロー・イッツ・ミー」のカバー。同じく音楽センスの塊メアリーは、サラッとながらソウルフルに仕上げている。⑲はイヴ参加。声の交差が印象的。⑳は、ニュージャック・スイングのような跳ねるリズムが微妙に加わっている。更にメアリー2人が競っているかのようなヴォーカル・アレンジ。これがラスト曲でも十分成り立つ。

最後にプロデューサー情報を。①④セロン・オーティス、②デジオン(Dejoin新人の抜擢)、③⑦⑩⑰⑲⑳トリッキー・スチュワート、⑤⑮ブライアン・マイケル・コックス、⑥アンドレ・ハリス&ヴァイダル・デイヴィス、⑧ネプチューンズ、⑨ブルック・リン、⑪⑫スターゲイト、⑬チャック・ハーモニー、⑭エリック・ハドソン、⑯サイエンス、⑱マーク・ロンソン、以上。トリッキー・スチュワートが特に光っている。

改めて聴くと、メアリーはやっぱり良いね。近作が3年前と言うのはやはり寂しい。また意欲作に挑んでほしいものだ。

※全然関係ないが、レコード棚を順番に辿っているこの企画、後1枚で、向かって左の端から右の端に到達する。取り出しやすいように2、3枚分空けているので端から端まで約70枚といった所。また気持ちを新たに徹底して取り組もうと思います。良かったら今後とも読んで下さい。

① Work That

② Grown Woman

③ Just Fine

④ Feel Like A Woman

⑤ Stay Down

⑥ Hurt Again

⑦ Shake Down

⑧ Til The Morning

⑨ Nowhere Fast

⑩ Roses

⑪ Fade Away

⑫ What Love Is

⑬ Work In Progress (Growing Pains)

⑭ Talk to Me

⑮ If You Love Me?

⑯ Smoke

⑰ Come To Me (PEACE)

⑱ Hello It's Me

⑲ Mirror

⑳ Sleep Walkin'


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