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エピソード :話せない=話がわからないわけではない

あるとき
担当の利用者Aさんを通所先に迎えに行ったら
手首に大きな打ち身みたいのがあり
記録を読んだところ
その日の朝の欄に
" 赤みがあるが本人気にしていないので観察。"
と書いてあっただけだった。
ビックリした。
割と大きな怪我に見えるけど
それだけ?と。
上司に連絡も相談もなく次の担当者に引き継ぎもない。
1日経っても消えない赤み
若干腫れもありそうな打ち身に見えた。

Aさんは話ができないので
指差しと簡単なジェスチャーで
自分の意思を伝えているのだけど
だいたいの場合
話ができない=話がわからないと思われている。

それは必ずしもイコールではないことは
専門的な範囲まで知らなくても
脳の構造を少し知ればわかること。
だけど一般の方からだけでなく
ほとんどの支援員からもそう思われている。

私は彼を担当し始めてから
2人で外出したり居宅で支援することも多く
一緒に過ごす時間がとても長い。

当初はわからなかった彼独自のジェスチャーだけど
一緒にいれば自然と必要な会話は成り立つようになり
今では彼が話せないことをつい忘れてしまうくらい
話が通じている。

話しかけてみれば
どのくらい話がわかるのかはわかってくるもので
それがわからないのは
初めから話しかけていないからだと思う。

しかし
とても気の優しい支援員でも
全く彼の意図が理解できない人もいるのも事実。

むしろ
私が彼と話せていることすらも
妄想やお伽話か思い込みだと思われている。

こういう場合
悲しいのだけど
証明しようとしてもその話すら聞いてもらえない
ことも多い。

もちろんAさんが話せないから
怪我の経緯がわからないわけだけど
彼が話せなくても
よく観察していればわかるはずのこともある。

夜間にどれだけ様子を見に行っているかとか
実際に四六時中見ていることはできなくても
こちらがちゃんと見ているんだってことを
彼がわかってくれていたら
向こうから必要な訴えを伝えにくることも多い。

例えば
お腹が痛いと指差しで伝えにくるし
蚊に刺されたくらいの小さなことでも
痒いから何か対応してくれないか?と
指差しながら伝えたりする。

生まれながらにして障がいのある利用者さんというのは
数えきれないほどたくさんの支援員を見てきているので
むしろ私たちなんかより支援員をよく見ていると思う。
支援員がどんな人間かをよく見て把握しているので
この人は伝えても聞いてくれないから、と思えば
伝えにすらこないものなのだ。

サラッと通り過ぎてしまいそうな
彼らの訴えや日常の中の小さな話しかけについて
もっと誰かと語り合えたらいいのになあと思う。

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