ニョッキはじゃがいもで。
まるまる茹でたじゃがいもをざるにあげて、間を置かず皮をむく。湯気の立つじゃがいもは手の皮まで剥けそうなほど熱い。こうして湯気を逃がしてやるから、ニョッキはおいしくできる。流行りはリコッタチーズのニョッキだけど、2,3年もすればみなわらわらとじゃがいもニョッキに帰ってくることを私は知っている。
皮をむいたじゃがいもを潰して、真ん中のくぼみに卵を落とす。すりおろしたパルメザンチーズと、塩もよく振って、小麦粉は最小限に。卵が固まらないよう手早く、カッターでじゃがいもをすくいながら切るようにかつ軽く捏ねながら生地をまとめていく。小麦粉を足しながら生地が何とかくっつかないというところまできたら、生地は完成だ。ここまで済ませればあとはもう、ポッドキャストでも聞きながら優雅に生地を転がしてゆけばいい。
木々の間に建つ小さな家の、さらに小さな台所は、この家を訪れる旅人のごとくやって来た不揃いなものたちの集まりで、どこからか辿り着いたスターバックスの大きなカップも、ワインのコルクを取っ手にもらった自慢げな、どの鍋ともぴたりと合わないがどこにでもしゃしゃり出る万能な蓋も、形も年齢も違うスプーンやフォークも、どれもよく調和している。ここで暮らす人のように、みな焦らず、毎日よく働いて、毎晩きれいに磨かれてそれぞれの寝床へ帰っていく。台所って命に直結した場所だから、そこを使う人の生き様を本当によく映すなあなんて、ニョッキの生地をフォークの先に転がしながら改めて思った。
ソースの絡んだニョッキは舌の上で溶けてじゃがいもの甘みを口いっぱいに放つ。私はプレッシャーに弱いから、ここの人の好物がじゃがいものニョッキだってこと後から知ってほっとした。