『PARCO狂想曲』
所沢に住むようになって、もう20年以上になった。もともとはカミさんの実家がここにあったのがきっかけで住みだした街。都民だったオレには大英断だったが、住めば都とはよく言ったもので、今ではこの上ない居心地の良い土地になっている。カミさんが亡くなったあと、そういった縁は薄くなったものの、もうこの土地を離れる事を考える意味もないくらい愛着がある。
だいたいの都内で出来るような買い物は所沢駅や、新所沢駅周りで事足りる。ちょっと足を伸ばせばショッピングモールもあるので、郊外ならではの利もある。来年には所沢駅の西口にも、大型のショッピングモールができるようなので、ますます便利になる。その波に寄せられてか、新所沢にあるPARCOが開店より40年余りの歴史に近々、その幕を閉じることとなっている。
新所沢PARCOにはカミさんの存命時には、彼女が好きなブランド『MARY QUANT』によく一緒に行ったものだ。季節の新色コスメが出る頃には顔出して、店員の女の子と楽しそうに話をしている姿が目に浮かぶ・・・懐かしいな。新しいコスメをゲットして満足な彼女は、自分だけ申し訳ないとの思いからだろう。その後に、オレの着る服なんかを一緒に選んで買ってくれたりもした。
ここには映画館もあって、一緒に観たりしたこともあったな。このレッツシネパーク、何年か前に改装して、全てのシートが一新された。通常のシートでも、他の映画館よりちょっと贅沢なスペースをとれるのだが、ここのおすすめは、前列のほうにあるプレミアムシート。フルリクライニングになるゆったりシートは映画というエンターテイメントをワンランク上の贅沢なものにするに十分。しかも通常のシートと料金は変わらないっていうのが嬉しい。ちなみにそのさらに前には、ちゃぶ台付きで、家族なんかで一緒に寝そべって鑑賞できる座敷席もある。
ここのプレミアムシートで映画を観ることが好きなんだよね。平日昼間はこのシートが空いているので、そこを狙って行くことが多い。同じ値段ならゆったり観られるほうがいいもんね。予定のない休みの日にゆっくり起きて、何しよう?となって、映画でも観るか、という気分。レッツシネパークのスケジュールをスマホで確認して、あと30分後に上映開始であっても、余裕で間にあったりする。
今日もそんな感じでここに来た。平日の午後2時の回、プレミアムシートは、やはり空いていた。スクリーンの左側から見るのが好きで、真ん中の席が空いていても左端の席を選ぶ変な癖がある。自分でも理由がわからないが、もうそうしないと落ち着かない。変な癖であるi以外の何ものでもない。今日も前方にあるプレミアムシートの一番左端をゲット。少し後ろの高校生のグループが賑やかなのが気にはなったが、本編始まって静かになれば問題ない。
まぁそれ以上に気になったのは、その会話の内容だけどね。
「こないだ先輩のお兄さんが根岸の交差点で、道に迷って困っていた外国人さんを助けて案内してあげたらしいんだわ、中東系の人らしいんだけど。そしたら、
『君は良い日本人だから特別に教えてあげる。○月○日にそこにある、アメリカの基地と航空管制塔にミサイルが打ち込まれるから、その日はここから遠いところに行っているように』
って言われたって」
「何それ、俺が小学生んときにもクラスでそんな話あったわ。今更そんな話誰も信じてないって」と皆笑う。
「じゃあじゃあさ、基地の地下に街があるって話は?」
「あぁ、それはホントらしいよ。横の公団に住んでいるヤツが『地下にトラックが何台も入っていくところ見た』って言ってた」
「あれっしょ、体育館の裏のほうにあるゲートのところでしょ」
「そうそう、地下に入れる入口みえるよね。車が出入りしているのは、俺も何度か見たことある」
「で、アレだよね?あの地下はあそこの敷地と同じくらいの広さがあって、軍事施設の他にアメリカそのままの街があるってヤツ」
「そうそれな。なんか普通に住めて、食べ物屋とかスーパーとか全部そろっているらしいね」
おぉ所沢都市伝説のオンパレード。そして相変わらずの内容。中東系の外人さんのテロ話なんか、20年以上前からおんなじ内容だわ。基地の地下話もよく聞く話。こういうのって、ずっと語り継がれていくものなんかねぇ。実に面白い。
「地下って言えばさ、所沢駅西口の開発していて、今度ショッピングモールになるとこって、前は西武の電車の操車場があったじゃん。あそこに昔の会長専用のヘリポートもあったんだってさ」
「ヘリポートってヘリコプターで来ていたってこと?すげっ」
「そんで、その横に地下道の入口があって、そこから駅の地下を通って東口にある本社ビルの地下まで、会長専用の道があって車で移動してたんだってさ」
「どんだけものぐさなん」
「マジ金持ち感覚わかんねー」
「じゃあ、ここPARCOの地下の話は知ってる?」
「なにそれ?地下って電気屋とか楽器屋とかあるじゃん。その下は駐車場だよね」
「なんか裏に従業員専用のエレベーターがあるらしいんだけど、そのエレベーターは他の客用のエレベーターと同じように、地下の駐車場の『B2』から『5』とか『4』までのボタンは俺らが普段使っているエレベーターと同じなんだけど、従業員用には『R』って屋上も行けるらしいんだけど、その『R』の上と『B2』の下にボタンと同じ大きさの蓋が付いていて、隠しボタンがあるんだって。
そんで、そのフロアに行ける鍵を持っているのはPARCO関係者や建物のオーナーでも数えられるくらいの人だけらしいんだわ」
「まっじっか、秘密のフロア怪しい~」
「でね、地下の駐車場の駅側の壁も実は扉になっていて、そこからさらに下の階に行けるスロープになっているんだって。そこから新所沢駅の地下も繋がっていて、航空公園のむこうの航空管制塔や米軍の衛星基地に繋がる地下通路が整備されているんだって。なんかあったときに、このPARCOも災害対策や軍事設備の拠点の一つになる準備なんだってさ、知り合いの兄さんの同級生のお父さんがPARCOで働いていて、誰にも言っちゃダメな話って事で教えてもらったんだって」
「言っちゃダメな話なのに、もうすでに、そこそこの人数がここまでの間に介在している」と皆笑っている。
っお、その話はなかなか新しめの与太話。何処かの飲み屋で聞いたことあるな。付け加えるなら、さっきの西武会長専用地下通路も、それだけじゃなくて、西武デパート(現 西武所沢SC)、所沢駅、西部本社の地下スペースから航空公園や、基地に繋がっている。
さらに新所沢の地下設備と連携していて、
航空公園、航空管制等、米軍基地、
新所沢PARCO、西武SC及び現在開発中の駅西口エリア
という辺りが、有事の際に都心部が攻撃され壊滅状態になった場合に備えた、仮設本部を作ることができるようになっている代替え地になっている。という話もあるんだよねぇ。
映画始まる前じゃなくて、別なタイミングだったら、話に食い込んでいく怪しいオヤジやっていたな(笑)。
ただ所沢には、こんな地元ローカルな与太話の都市伝説がよく囁かれている。軍事施設や日本の空の交通網の8割をコントロールしている管制塔があるという特殊な土地柄もあってか、そんな都市伝説が子どもたちの中で噂となる。っあ、大人たちにもね。
これ、面白いのが『口裂け女』のように、一時のブームだけで終わらず、常に一定の世代の中で、少しづつアップデートされながらも、同じ内容の噂が繰り返されているところ。そんなものだから、それなりに大人になった今も何処かでホントなんじゃないか?なんて思っている自分もいたりするんだよね。
照明が暗くなり始め、スクリーンで近日公開作の予告編が始まった。
観ようと思っている映画の内容は未来戦争的なもの。一番観たかったテレビドラマのシリーズものの劇場版は時間が合わなかったので今日はこれにしてみた。ハリウッドのトップスターが主演で、異星人の地球侵略が始まるって話。古くは『宇宙戦争』から『インディペンデンスデイ』『バトルシップ』とハリウッドでは使いこまれた鉄板ストーリー、なんだかんだと地球人が勝つお決まりのヤツ。近頃は、それっぽいストーリーだけど『オール・ユー・ニード・イズ・キル』のように少し捻りを入れてくるパターンもあって、今もまだ使われ続ける題材。この手の映画の面白いところは、ストーリー展開は置いておいて、時代に伴って地球人側の武器が進化していっているところ。まだ世間的には公式に発表されていないような銃火器や戦闘機などを〝映画で先に観た〟なんてことは、実はよくある話。これって、政府や軍事産業に食い込んでいる経済界が、戦争で使う兵器をなんとなく肯定させる為の、イメージ戦略なんじゃないかなんて思うこともある。まぁそういう政治的な話はさておき、スポンサーが扱う商材のイメージの刷り込みに映画が使われることは、珍しい話ではなかったりするわけで。
ということはさぁ、地球外生命体と戦う話が題材として廃れないのは、実はいずれそうなったときに、民衆がパニックにならないように〝刷り込み〟されているのでは?と疑うこともあるんだよね。
そんなことも、ちょっとだけ思いつつ、結局はいろいろな媒体で告知され、好きな俳優が出演していたり、好きな監督が撮っていたりすると観に来てしまうんだよね。
今回もそんな感じの思いを含んで観に来たが・・・。
・・・・・・。
途中で寝た?なんかありがちなストーリーから外れる展開も無く話が進んだからな。ラストは安定の地球側が勝利で異星人は撤退したところでエンドロールだったから、まぁそうなのだろう。
そういえばどんな感じだったかなって思い起した途中のシーン、敵に追われながら白兵戦っぽいシーンだけど・・・。
あれっ?何故か俺が戦闘服着て走っている姿が頭に浮かぶな。俺視線だな、これ。さっきの映画の異星人と戦っているし(笑)頼りないのこの上ないな。って、やっば途中寝ちゃっていたか、勿体ない。そう思いながらホールのエントランスを出る。
出口右手のエレベーター前は、映画を観終えた人達が狭いスペースを埋めている。観た映画はそんなに観客いなかったから、別のスクリーンの終わりも重なったのかな。
そこで待つつもりもないので、エレベーターとは逆の左手奥にある階段を降りて行くことにした。そういえば今観た映画の中で、戦闘中の兵士が敵に気配を悟られないようにそっと階段降りる印象的なシーンがあったな。そう、こんなふうに右に右にとゆっくり折れながら。映画を真似て先の様子をそっと伺いながら階段をゆっくり降りて行ってみる。
と、映画の主人公になったつもりでも、現実はムラサキスポーツの脇に出るわけで。相変わらずアップテンポな音がスピーカーから流れている。B系だとかEXスポーツだとか、それぞれの時代の中で、ちょい悪ファッションの先端をリードしているスポーツショップ。所沢のそれ系の若者は、だいたいここからデビューの道具やファッションを揃える。そこから先のステージに進む連中は、都内のより専門的なショップに買いに出たりする。いわば所沢民の入門編の店なのだが・・・・・・。
なんだろう店員がひとりもいない?
人員削減の波はこういうところに出てくるのか?
というわけでも無いな。なんだ、これお客さんもいない。
そのまま通路進んで、左手の世界堂にも、その先の本屋も人の気配がない。 その先曲がった辺り、パルコ館に行く連絡通路に人だかりが見え、ざわめきが聞こえる。
そして皆、窓から下のガレリアと呼ばれるコンコースを覗いている。
何かイベントでもやっていて、有名人でも来ているのかな?
一緒になって野次馬しようとしたが、雰囲気が少し違う。
「ヤバくね?」
「っえ?マジなの」
「イベントの演出でしょ?」
「でも、今どきあんな演出は・・・」
「いやでも」
何かが起きているようだ。どんな状況なのだろう?
人垣の合間をかいくぐり、ようやく下の状況が見えるところまで来て、身を乗り出す。
何だ?この状況は・・・。
軍服着た外人さん達が、お客さんや従業員っぽい人も皆?地べたに座らせている。あれはアメリカ兵っぽいな。
『パーーッンンン』
乾いた音が外で響いた、振動が窓を少し震わせた。
「キャッ」
「ワァー」
「おいおいおい」
通路に悲鳴や、怒号の声が響く。下もやや声があがったが、すぐに静まり、英語の怒声が響き渡っている。
アメリカ兵に囲まれていた一般人と思われるひとりが前のめりに倒れ落ち、力なく地べたに伏していた。そしてその周囲の人たちは、頭の後ろに手を組まされている状態のまま動けずにいる。そこから順にアメリカ兵の持つ銃器で促されながら、ガレリアの外階段脇にある入り口の中に連れていかれた。従業員の専用口、大きな機材などはそこから搬入搬出しているのを見たことがある黒い大きな扉の中へ。
どんな状況?脳みそが追い付かないが、とにかく尋常じゃないくらいヤバさ。どうする?下に行ってもあの状況。むしろ、もう直ぐにでもアメリカ兵がこの階にも上がって来るかもしれない。
すると、館内放送のスピーカーから、外人特有の日本語イントネーションでアナウンスが流れだした。
「自らの投降を望む
速やかに地上のフロアへ集まってください
無理矢理の誘導はしたくない
無駄な血を流す必要は無い
望むものは速やかな交渉への段取り
この星で一番の勢力である組織の軍隊は我々の手中にある
抵抗が有益でないことは理解してもらえると信じている
戦いたいわけではない望むものを貰えればそれで良い
無駄な抵抗に利は無い
・・・・・・
自らの投降を望む
速やかに地上のフロアへ集まって・・・・・・」
直接しゃべっているようではあるものの、感情の抑揚が無い機械的な文脈が繰り返された。2階から来たというショップの従業員は何がなんだかわからないうちにエスカレーターを駆け上ってきた様子。自分の店とは離れた店舗の方から順に制圧がかかっていたのを見て、慌てて逃げてきたとのこと。
館内放送を聞いてか、自ら下の階に行った人もいるようで、ガレリアに人が増えている、そしてそのまま通用口の大きな扉のほうに人の流れができていた。
さて、俺はどうしたものか。何が起こっているのか、状況も解らないままで、言いなりになるのは・・・ねぇ。自ら来いという事だから、少し時間に猶予があるし。そもそもこの放送の内容も、気になるところだらけだものなぁ。
『この星で一番の勢力である組織の軍隊は我々の手中に・・・』って。どういうことだよ?地球外生命体の侵略?さっき観た映画じゃないんだからさ。で?アメリカはすでに軍門に下ったってこと?
通路近辺にいた人だかりも、だいぶ少なくなってきている。下に降りて行った人達も大勢いるようだ。この場から離れるルートを探している人たちも動き出している。
「どうします?」一人の男が声をかけてきた。本屋の店員のようだ。
「っへ?」不意に声かけられて変な声だしちゃったよ。
「そうですね、どこか外階段とか、通常ルートじゃなく外に出られるところ無いですかね?」とりあえず聞いてみる。
「防災訓練の時に使った非常梯子や脱出シューターは何か所か知っています。売り場のバックヤードから行けます」
「とりあえず行ってみましょうか、連れて行ってもらえます?」
「私も、状況判るまであらがってみようかと。行きましょう」と本屋が言い俺と動き出すと、周りの何人かも一緒に行きたいと声かけてきた。
その中には高校生の男女が二人いた。先ほど、後ろの席で都市伝説話していた高校生のようだ。他のメンツはいつの間にかどこかに行ってしまったとの事。男子のほうは制服をちょっとやんちゃな着こなし。ヤンキーってわけじゃなさそうだけど、荒い言葉遣い。まぁ悪い奴じゃなさそう。女子のほうは、知り合いの娘さんだった。
「合気道の金子さんとこの日和ちゃんだよね? お父さんの知り合いの木戸です。道場で何度かあったことあるけど、覚えてる?」俺が話しかける。
「っあ、やっぱり木戸のおじさまでしたね。そうじゃないかと思って、近くで様子見てたんだぁ。何かあってもおじさまの傍にいれば、なんか安心かも?って。で、こいつは高橋、見た目チャラいけど、真面目な子なんで」と日和ちゃん。彼女は高校生ながら、全日本レベルで有名な合気道の達人。高橋と紹介された男子は、眉をしかめながら、チョンと顎突き出しての会釈。真面目といわれると、素直になれないお年頃のようだ。
他は、さっき下の階から逃げ上がってきたショップ店員の女の子。皆で本屋の言う非常梯子のほうへ移動を始める。少し離れてこちらの様子を見ていたモブもチラホラ後を付いてきた。
書店のバックヤードから、外側を囲んでいる回廊型のバルコニーに出ることの出来る扉まで行く。現在、一般客がそこに出られる場所はパルコ館の4階の階段上りきったところから駅側の方にある通路の先にある扉。そこの外に喫煙スペースがあって、その区切られた場所だけ。その他はイベント等で屋上に出られる事が、たまにあるくらいかな。
その外回廊に非常梯子や脱出シューターが設置されているらしい。本屋の案内で外に出て、バルコニーのように少し飛び出たところに行ってみたが、PARCOの周りは、やはりアメリカ兵が囲んでいた。中からは出られず、外からの侵入も防いでいる状態が見えた。
ふた手に分かれて左右から回廊を半周ずつ、ほかの梯子と下の状況を確認したが、何処も、降りられたとしても、下にアメリカ兵がいるので、すぐに捕まるのは目に見えている。
そのさらに四方とも、ワンブロック離れたあたりに規制線が張られていて盾を構えた警察がいる。さらにその周りに野次馬が重をなしてスマホを手に掲げて撮影をしていた。
外の世界は、そこまで深刻な状況ではないのかな?
PARCOの中とその周りだけが制圧されているのか?
いずれにせよ、この敷地から出られなければ、そのままどこかに連れて行かれるだけなのだろう。どうしたものか?
外の世界の状況も知りたいので、スマホ取り出してネットに繋ごうとしてみたが、使えなくなっていた。電波をキャッチできていない☓マークが点いている。
「日和ちゃん、電話使える?」
スマホを取り出して画面覗いてくれたが、首を振りながらこちらを見る。ほかの人たちも、皆同じようだ。これはここだけの問題なのか?外も同じなのか?
「さっき繋がって話ししていた人が、家のTVか全部観れなくなったようなこと言っていたかも」と日和ちゃん。
すると「店のパソコン」と本屋が声をもらして、バックヤードに入っていったが、しばらくして「Wi-Fiも他の有線の回線も繋がらないですね」と首を横に振りながら戻ってきた。
「あのぉ〜」と少し遠巻きで、ついてきていた男が声を発した。無造作に伸ばされた髪にバンダナ、チェックのネルシャツをGパンにイン、大きなリュックを背負って、ってさオタクの王道の出で立ち。さっきプレミアムシートの並びの真ん中あたりで彼も同じ映画観ていたな。
「僕、YouTubeで軍事系ネタのチャンネルやっているんですけど、下の米兵さん達、たぶん航空公園横の衛星基地の人たちですね、持っている銃が、横田とか厚木あたりの最新のものと、少し違います。最前線を想定している隊と、少し違うんですよ」
へぇ、そんなの見ただけでわかるものなんだ。なかなか面白い分析じゃないですか。感心していると、横から高橋が息巻く。
「テメ、なーに知ったかこいてんだよ、だからって兵隊には変わんねーし」
「高橋っ」と日和が抑えるように、強めに言葉をかぶせると、すかさず大人しくなる高橋、なかなか従順で可愛いヤツ。完全に尻に敷かれているな。
軍事オタクも負けん気強いようで「いえいえ、衛星基地の隊は、基本的には通信兵が中心ですから、他の基地の隊と比べたら、おとなしめというか・・・」
「そんなに訓練されてはいない?ってこと?」
「ええ、そんな気がするんですよ、実際に下の人たちの動きや体系見ていても、なんか・・・。すみません、具体的に何が?っていうんじゃないですけど」
「もし、そうだとしたら隙はあるってことかな?」との俺の返答に、満足気にうなずく軍事オタク。
「それでですね、あのだいぶ話逸れたんですが、ボク電話できるかもです」軍事オタクはそう言いながら、大きなリュックを背から下ろして脇のポケットに手を入れ、昔の携帯をふた回りくらい大きくした無線機みたいなものを取り出した。
「衛星電話です」
「なんかこのフロアに兵隊さんあがってきたようですよ」とショップ店員が指さした店内モニターには、2人のアメリカ兵が映し出されていた。まだ残っている人を探しに来たようだ。もうここに来るのも時間の問題だな。
店舗の方に戻れないので、皆静かに外回廊に出たと同時に、軍事オタクの手にしている電話の呼び出しが鳴った。慌てて落としそうになりながらも、なんとか通話ボタンを押した。
大丈夫か?探しに来たアメリカ兵に気づかれてないか?
「・・・どなた?」
「コードネーム『シントコ』だよね?YouTube観ているよ。私は『ファントム』って言ったらわかってもらえるかな?」
「っえ?『ファントム』って、本物ですか?どうしてこの電話の番号を?っと、あなたがあの『ファントム』なら、そんなことは愚問ですよね。では、なぜ僕の電話に?」
「時間がない状況だろうから、手短に言います。脱出ルートを教えます。今いる建物の南側に外階段があるので、その階段で地下2階まで行けるはずだから、私を信じてもらえるなら、先ずはそこまで行ってほしい。通信は繋いでおいてください。後は移動しながら説明します。とにかく急いで階段へ」
軍事オタクは衛星電話から耳を外しながら、
「あっちに外階段ってあったりします?」と所沢方面を指さし聞いている。
「そちらに外階段ありましたよね」とショップ店員。
「普段ほとんど使われていませんが、たぶん扉の鍵は無かったはずです」本屋が応え、みんなを見る。
話の見えない部分が気になるので、
「どういう事?」と軍事オタクに尋ねてみた。
「今『ファントム』と衛星電話が繋がっています。僕の知る限り最高のハッカーで、世の中の不正やおかしなシステムなどに切り込んで露呈させて世直しする、義賊的なハッカーです。都市伝説の真偽を確かめる事でも造詣が深くて、僕らの世界では超有名人です。だけど、その存在自体が都市伝説。姿を誰も見たことがなくて、付いた呼び名が『ファントム』ってことです。それで彼が言うには『脱出ルート指示するから、とりあえず外階段で地下2階まで行け』との事です」
「そんなことホントに信じられんのかよ」と高橋が声を荒げる。軍事オタクには強気な口調。言うこと解らないでもないが、
「そうは言っても、他に確実な策があるわけでも無いから、その指示に乗ってみるのも悪くないんじゃないかな?皆さんどう思います」
正直、皆の考えをまとめている時間もない。半信半疑だけど指示に乗ってみるほうに促してみる。
本屋が「こっちです」と皆を誘導。その間も軍事オタクはファントムと通話を続けている。
外階段入り口に着く。よくあるこういう施設のむき出しの鉄製でらせん状の非常階段みたいなものではなく、マンションなどの端にあるような各階フロアに扉が付いていて通常も使えるタイプの外階段があった。隣の建物などに隠れていて、外から見てもこんな階段があるのは気付かなかった。
本屋の言う通り、鉄製の扉にカギは無かった。
「ギィィィィ・・・」あまり使われていなかったせいか、見た目より重く扉は開かれた。階下の様子を伺いながら、ゆっくり降りて行く。アメリカ兵の姿はない。
ファントムによると、
「新所沢PARCOがアメリカ兵に制圧されたのを知って、状況を見たくてシステムにハッキングした。そうしたらモニターに君が確認出来て、前に君がYouTubeで衛星電話を手に入れていたことを思い出して、調べた」とのこと。
もともと米軍衛星通信基地の存在と地下の都市伝説のある所沢に興味があって、たまたまここ数日は所沢に来て色々と調べていたところだったとの事。
現在、所沢のほか、確認できているだけで、
三沢空軍基地
横田空軍基地
横須賀海軍基地
岩国海兵隊基地
佐世保海軍基地と
沖縄嘉手納基地などのある街で、アメリカ軍の謎の占拠が横行している。多分、その他日本各地に点在する130あまりのアメリカ軍関連施設とその近辺が同じような状況と考えられる。アメリカ本土の状況も同じようなものらしい。
占拠されているのは、基地周りのみで、あからさまな破壊行為のような日本への攻撃はなく、例の「望むものを貰えれば云々」という声明のみが分かっているという。どこも同じような状況で、逆らわなければ危害は加えられないのかもしれない。
日本国内の地上通信網は使えなくなっている様子。衛星も軍事利用されているものは通常機能が奪われていて、電話やネット他の通信はできない模様。TVやラジオも同様。
アメリカ資本や、軍事系の絡みが無い完全民間の衛星や、ロシアや中国系の衛星はハッキングしても大丈夫そうだったとのことで、そのあたりを使い分けて、地上の状況を傍受していて、軍事オタクへの電話も、そこを通して繋げたらしい。
階段を下りる間、二人の電話ではそのような情報を教えてもらえたらしい。さらにファントムはPARCO建築時の〝裏〟設計図というものを持っているらしかった。
「そもそも現地まで来て調べていたのは、たまたま手に入れたその設計図がきっかけだったんだよ」と。その設計図は、軍事利用の極秘事項となっており、当時、通常の建築とは別で極秘に進められていた模様。
その話を聞いた日和と高橋は、
「っあ、それって」
「さっきの話じゃん」と顔を見合わせて声を漏らした。
まさに、彼らが話していた所沢地下の都市伝説に繋がる話だった。
そのような情報を聞きながら、ゆっくり1階の手前まで降りてきたが、流石に1階の扉の内側にはアメリカ兵が2人いた。扉の外にも、身を乗り出してまで確認できなかったが、近くに2~3人はいる感じだった。
ここでの接触は避けられない。
出来るだけ騒ぎにならないように、内側の2人をどうにかしたい。他のルートはもっとリスクが高くなるだけ。
やるしかないか。
「日和ちゃん、行ける?」聞いた傍から準備で体をほぐしだす日和。
俺も間接伸ばし屈伸して準備。高橋が食い気味で鼻息荒くしている。他は動きなしかと思われたが、意外な伏兵が。軍事オタクがそのでかいリュックから、手のひらくらいの大きさのクワガタみたいな角が2本飛び出ている物体を取り出し、ニヤッとしながら横のスイッチを入れた。
「バチバチッ」 という音とともに青白い光が角の間に弾けた。
「スタンガン」高橋がさらに興奮気味に声を出す。
計画は、日和と高橋で一人、もう一人を俺が引き付けてなんとかする。それぞれのすきをついて軍事オタクがスタンガンで動きを止める。戦闘が始まったら。他の皆でドアが開かないように全力で扉を抑えながら、これまた4次元ポケットのような軍事オタクのリュックから取り出されたロープでドアの取っ手と近くの手すりを結んで開けられないように固定。という流れを打ち合わせ。
皆に確認とれた傍から、高橋が飛び出した。
おいっ、と一瞬思ったが相手も気付いていない様子、意外といいタイミング。遅れないように、日和と俺も飛び出す。
高橋が不意を突いて低めのタックル。意表を突かれた一人は高橋に下半身抱きつかれたまま倒れる。その脇に滑り込み、片腕と首を後ろから手を回して極めながら抑え込む日和。さすが金子の娘だ。
俺の相手は、もう一人がやられたのを横目に見たので、瞬間で戦闘態勢を整え、こちらに左右のパンチを繰り出してきた。一瞬の出遅れに老いを感じながらも、手を出してくれたのは好都合。振り出された手を搔い潜り、絡み取りながら左に体を躱す、同時に足を掛けて、勢いそのまま前のめりに転げさせる。倒れた背中に乗りながらとっている腕を捻り上げ、反対の手を首に回しながら肩越しで自分の手を組み合わせてロック。久々だったけど体は覚えていてくれた。倒れているアメリカ兵に軍事オタクがすかさずスタンガンでとどめの一撃。二人とも動かなくなった。打った瞬間俺にもバチッってきて一瞬焦ったが、俺は動けたので万事オッケーかな。日和も高橋も問題なさそう。
「さすが木戸のおじさま。まだ現役で通用しますね」若い子に褒められると、どんな顔していいか判らなくなる。どこかのタイミングで手の甲を擦ったようで血がにじみ出ていた。日和がハンカチ取り出して包帯代わりに手に巻いてくれていると、高橋も肘当たりを見ながらさすってアピール。
「あんたは血ぃ出てないでしょ」で一蹴されてシュンとしていたが。俺は俺で、現役で通用すると言われても皮膚は若くないようだと、ちょっと落ち込んだ。
軍事オタクは、また何かリュックをあさっていると思ったら、長い結束バンドを取り出した。気絶している米兵の足、腕と首を繋げて拘束して、扉の内側につっかえ棒代わりに横たわせて置くことにした。ロープも上手く結びつけられているので、開けるのにはそこそこ時間かかるかな。といっても2階は何もしていないから。そちらから回られればすぐなのだが。
扉の外はまだ騒がしくなっていないので、こちらの異変に気付くまで、まだ猶予はありそうだが、一瞬の勝利によっている暇はない。先を急ごう。
地下2階まではスムーズに下りられたが、ここの扉だけは鍵がかかっていた。電子式ではない数字が書かれたボタン式のアナログなオートロック。
古いマンションとかの裏口やゴミ集積場にあるような、アナログのボタン式。ここが作られたであろう時代に沿った代物。それからほとんど触られていないのではないかと思われるくらいの青錆がぎっちり付いている。そもそも動くのか?
そして、その解除番号は?
ファントムとの回線は繋いだままだ。
『解除の番号って・・・解りますか?』と軍事オタクが尋ねるも
『解らない』との返答。
『調べてみるので、少し時間ください』と受話器からの音がなくなる。静寂の向こうに皆が耳を凝らす。カチカチ・・・カチカチカッチカチ・・・
微かにキーボードを叩く音が聞こえる、後方のアメリカ兵の動きも気になるが、特に声も物音も聞こえないので、まだ大丈夫なようだが。
「そうか裏か・・・」キーボードの音が消え、つぶやくこえ。
ファントムが『0769』と4桁の数字を言った。
『0769』と軍事オタクが復唱すると、高橋が身を翻してドアの前に行く。ボタンを押そうとするが、やはり硬く固まっている様子。「んぐぎぎぎ」変な声が漏れ出しながら、高橋が親指をぐりぐりやっているが・・・。
軍事オタクが、受話器とは反対の空いている手で、またリュックを探っている。錆取り効果もある潤滑スプレーとラバーグリップの付いたハンマーを取り出して、オレにわたしてきた。やはり四次元ポケットだな。顔を真っ赤にしてボタンを押している高橋の横に行き、個々のボタンの隙間にスプレーを噴霧。浸透した頃合みて、鍵の側面部や上下をハンマーで軽くコツコツと叩いてみる。終えたところで高橋にバトンタッチ。
再度ボタンを押す。スムーズではないが、ボタンは押し込めた。
0、7、6、9順にゆっくり押して、ドアノブを回すが出来ない。軍事オタクがファントムに伝えようとしたが、
「ちょっと待って」と思うことがあり、一旦遮って、高橋に指示を出す俺。
「一番下左のCを押してから数字押してみて」と伝える。以前働いていたところのゴミ集積場の鍵が同じタイプで、そのようなやり方をしていたのを思い出した。
『ポチ・・・ポチポチ・ポチ・ポチ ガチャ』
「開いたっ」高橋がガッツポーズしながら皆に振り返る。
ドアを押し開ける
『ギギィ゙ィィ』
もう何年も入れ替わってなさそうな、ホコリとカビが混ざり合った湿った空気がぬわっと漂ってきた。
と同時に、上の階から声が響いて来た。
「Go look downstairs」
ヤツ等が来る。
開いた扉の中に皆で駆け込み、すぐにドアを閉める。カチッと後ろで音がしてオートロックがかかったようだ。追手の危機は多少猶予ができたか?
しかし、閉まるのは簡単にいきやがる。
暗い道、しっかりとした造りだが、灯りは無かった。ファントムの指示通り、道なりに進む。軍事オタクが懐中電灯を出し、何人かがスマホのライトをで先や足元を照らしている。後ろから追ってくる気配はまだない。番号解読に苦労しているのだろうか?でも、銃火器使われたら一発だ、余裕はないはず。
200メートルほどで、行き止まりになった。
「おいおい行き止まりじゃんか」高橋が軍事オタクに詰め寄る。
「いや、ファントムはここで待てっ・・・」
『ガッガッグググッ』
『グワッグイグワワワワーン』
戸惑う軍事オタクの声をかき消すかのようなドリル音が響き、右の側面の壁が揺れ出す。
『ゴツゴツガッチ・・・ゴロ』
大きなハンマーを叩きつけるような音のあと壁に亀裂が走り、その中心部あたりから光が木漏れ出てくる。
『ゴロッボロッガサガサッ』
そこから壁が崩れ落ちて隣のスペースへと穴が空いた。下水道か?
そこには、それぞれが大きなハンマーと、掘削機のような機械を肩に乗せた、マッチョな二人の男いた。そして空いた手をこちらに差し伸べしてきた。
「ファントムからの指示でここにきました」
「彼が待ってますので、こちらへ」
軍事オタク、ショップ店員、本屋の順で下水道側へ、後ろの気配を気にしながら、高校生2人を行かせ、最後に俺もそちらへの穴をくぐる。その先にある梯子階段を登るとマンホールの蓋は開いていて、そのマン地上に出られた。そこを囲むように2台のデカい車が並んでいて、開いているドアに促されて、乗り込む。
最後にマッチョ2人が、手に持った道具をそれぞれの車に乗せてスライドドアを閉め、運転席に乗り込む。エンジンはかけてあったので、シートベルトを締めながら、すぐに車を走り出させた。
運転席の後ろには立派なソファ型のシートが1つ、その横の壁には、モニターがたくさん並び、キーボードやら操作パネルやらがテーブルの高さくらいのボード上に並ぶ。モニターにはPARCOの映像がいくつか映し出されていた。さらに他のモニターには、何処かの軍事基地を外からの写したものが、数秒間隔で移り変わっている。どこの基地回りも機動隊や場所によっては自衛隊が出動して周囲を囲んでいる緊迫した状態が映し出されていた。
助手席がシートごと回転して、俺と同世代くらいと思われる、白髪頭の小柄なオジサンが手を差し出してきた。
「影山です、皆はファントムと呼んでいます」と手を差し出してきたので、握り返し応える。「木戸です」
後部座席にいた軍事オタクが、身を乗り出して「シントコです、ファントムさん、ホントにありがとうございます」目をキラキラさせながら、横から俺の手を追いやって、彼の手を握り返す。
「君がシントコだね、実際に会うのは初めてだね。いやいや君が衛星電話持っていたからよかったよ」とファントムが、優しい目で答えてくれる。
ファントムが彼の知る限りの情報を共有させてくれた。今回一番知りたかった事である。いったい何が起きているのか?
彼によると、日本国内の確認できるだけで、同様のクーデターが起こっている。クーデターとしたが、これがアメリカ自体の暴挙なのか?軍部のみの崩壊なのかの確認はできていないようだ。
未確認情報とファントム独自の集積データで導き出された、可能性の高い『仮説』を教えてくれた。
「突拍子ない話で信じられないだろうけど、アメリカの軍人や基地で働く人達が『脳ハッキング』されている可能性があるのです」
と。ホントに突拍子なさ過ぎて、ちょっと思考が止まったわ。
先月末ころから、アメリカ軍内部の人達の性格が変異する事象が後を絶たないらしい。モニターの1つに映像を映し出した。
「これは、独自の信頼できるルートから入手している情報をいくつか重ねた図なのですが、性格の変異した人の数と、例のワクチンの3回目以降を接種した人数が、ほぼ同数になるのです。これはあくまで日本国内の数字ですので、他の国や地域の場合、割合変わる可能性はあるのですが」
そして、そのワクチンと一緒にナノレベルのチップが埋め込まれて、そこから脳ハッキングがされているようだと。
ナノチップか、これも都市伝説で噂になっていたよな。では、誰がそのチップを使って脳ハッキングをしているのか?そこが全く読めなかったのだが・・・あのアナウンスの時の「この星の云々」という言葉に違和感。
操作しているのは地球外生命体とでもいうのか⁉突拍子無いどころじゃないな。
ただ通常の通信網が使えない状況から、アメリカの中枢はすでに占拠されネットワークは既に何者かの手中に落ちていることは間違いないらしい。
ファントムはロシアや中国の衛星に潜り込めている状態。同時にこれだけの規模の行動を動かせること。などを考えると、その『仮説』が一番しっくりくるのだと。
ファントムはアメリカの基地関連施設がない街に有志が集まっているので、そちらに行くとの事。良かったら一緒にどうかと誘ってくれた。軍事オタクと俺は行動を共にすることにした。だって気になって仕方なものねぇ。日和や他のメンツはそれぞれもう一台の車で家まで送ってもらえることになった。
道中、座っていたソファ型シートが電動リクライニングで心地よく、少し疲れていたせいもあってか、そのまま眠りについてしまった。
『・・・さんつきまた・・・』
『起きてく・・・』
『・・・来てください、終わりましたよ』
っあ、
寝ちゃってたな。体のあちこちが痛い。普段使わない筋肉使ったからなぁ・・・
って
っん
ここまだ映画館の席じゃん
慌てて起き上がると、係員の人が、ゴミが入った袋を片手にこちらを観ていた。
『あれっあの・・・スンマセンすぐ出ます』
と慌てて靴を履き外に出る。エレベーター前に人だかりはない。
左手奥の階段降りると、ゲームセンターで親子連れや学生服着た子たちがチラホラ。そうだよ、ムラサキスポ―ツは、早めに撤退したんだっけ。通常状態の本屋を見ながら連絡通路に行き下を覗く。
高校生がベンチでスタバやお菓子を広げている。買い物しているお母さん。危機感なんて無い平和な通常の夕方の景色。
映画途中から、完全に寝ていたな。
「ありがちな内容だったからな」
それにしてもナンセンスだけどリアルな夢たったたな。
ってか、あれっ⁉
左手怪我しているな。日和のハンカチが巻かれている。
っん?どういうことだ?
夢と現実・・・
夢はパラレルワールド、違う世界線、マルチバース。
自分の中の仮説であり妄想には合った考えだけど、ここまでリアルな感覚でそっちの世界に行っていた?頭が追いつかないのと、受け入れて納得している自分と・・・
『あなたも、
わたしも、
ちょっとずつ狂っています』
なんて90年代のPARCOキャッチコピーたっけかな?
そう、少しずつ狂ってズレた世界。
PARCOは昔から、これを匂わせていたのかな?
きっと、そんな世界を彷徨ってしまったのだろう。
新所沢PARCOは近々閉店。だけどさ
ほらっ
目を瞑って
そこの世界には
まだ新所沢にPARCOがあるよ。
→終
→続
→?
フフフ。
概要
この作品は2024年に閉店となった新所沢PARCOを題材に書き下ろし、
『さよなら新所沢パルコ文芸・映像コンテスト』にて審査員特別賞をいただいたものです。(加筆修正あり)
https://shintokorozawa.com/jusyou-sakuhin/