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読了のおっさん41 バチバチ (佐藤タカヒロ/秋田書店)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。

概要的なネタバレは含みます。

バチバチ(佐藤タカヒロ/秋田書店)
2009年~2012年 16巻(完結)

■ タイプやテーマなど
 大相撲、少年漫画、男、父親越え、家族、素質、気の強い女の子、ギャグ、迫力、横綱

■ 簡単な内容
 かつて名大関と呼ばれた火竜の息子である鮫島鯉太郎は、父親の友人、斎藤の家に引き取られ育てられる。地元の不良になり、喧嘩に明け暮れていたが、子供の頃から一人で相撲の稽古を繰り返し、実力をつけていた。そして、ある日巡業中のプロの力士を成り行きで倒してしまう。
 この出来事を切っ掛けに、空流部屋の親方にスカウトされ、鯉太郎は相撲界に入る。

■ 読みどころ
 絵と表現が素晴らしい。雑誌(本)を開いて2ページ分を贅沢に使用し、力士同士が衝突する瞬間を描いたり、スピード感や迫力のある駒が数多くある。
 また、咆哮したり、ブツブツと独り言を言いながら頭の中で意識を巡らせたりといった表現は、緊張感や爽快感のある展開を非常に良く演出している。リアルだと一瞬にして過ぎてしまう瞬間を濃密に捉えて描写し、力士や観客の立場になって咀嚼しながら楽しめる。そして現実では味わえない攻防の感覚や情動を、漫画表現を通じて十二分にのめり込める。

 キャラクターも良い。空流部屋の先輩力士たちや、部屋を支える支援者の面々、家族らが豪快で温かい。そして土俵の外においても、彼ら登場人物たちが織り成す、笑い多めのドタバタな展開が心地よい。
 女性キャラも魅力的である。主に主人公の姉(といっても育てられた家で姉弟のように育った娘)と、空流部屋の親方の娘が出てくる。どちらも気が強く、強い感情によって鯉太郎とぶつかることで、鯉太郎の人間性や葛藤がクッキリと際立つ。また、ギャグシーンでも真面目なシーンでも、とにかくこの両者が鮫島をバシバシ殴ったり蹴ったりと容赦がなく、土俵での真剣勝負との対比でほっこりとする。空流親方の娘(椿)と、鯉太郎の関係性も気になる。

■ 雑多な感想
 相撲がテーマの作品はそれだけで貴重に思う。その中でも一際覇気を感じる作品で、繰り返しになってしまうが、迫力のある絵と魅力的なキャラクターを備えた名作であると思う。
 筆者はあまり相撲は見ないのだが、本作を見て、相撲の試合そのものは無論のこと、相撲用語や相撲部屋の裏側の話などに興味が湧いてきた。力士の素質、怪我と引退、トレーニングの方法、ルール、技、試合展開等、実際の立会は本当に一瞬の出来事であるが、考えるべきところや語れることは山ほどあると、本作で知ることになった。
 また、非常に厳しい世界である。嫌がらせやキツイしごき、部屋や力士同士の因縁、立ち合いにおける不正の存在も描かれており、総じて少年誌の爽快な作風でありつつ、キッチリ大人向けでもある。
 関取になる前の段階も過酷だが、関取の世界、特に横綱ともなれば、ファンや支援者の期待、文化伝統の重さ、求められる素行や人格といった、背負うものがあまりにも大きい、難しい世界でもあるようだ。色々な事情や見る角度があって、非常に奥深いテーマである。
 書店でもコミックスの数が少なく、あまり目立っていない作品にも見えるが、もっと多くの人が読むべきだと思う。


■ その他
 シリーズが続いており、バチバチBURST、鮫島最後の十五日と合わせてかなり連載が長く、少なくとも少年チャンピオンの中でもかなり成功しているように思う。それだけに、作者の佐藤タカヒロ先生が2018年に急逝されたため、未完となっており、非常に惜しいと感じる。
 佐藤先生は、本紙連載中は勿論、コミックス刊行にあたっても絵を何度も描き直しているほど作画に拘っていたとのことだ。本当に素晴らしい絵と表現が連続しており、おそらく寿命を縮めたに違いない。そうした魂を削って描いた作品故に、やはり一見の価値は十分にあると思う。

 漫画ではないが、昨年2023年に放送された大相撲をテーマにしたドラマ「サンクチュアリ」との比較もされる。そして両方見た人の感想は「バチバチ」に軍配をあげる人が多いように思う。
 サンクチュアリと呼ばれるほどに、大相撲の世界は内側に入らないと見えてこないものが多い。よって大相撲をテーマに漫画化するというのは、それだけでもかなり難しいことであるし、加えて賞賛を集めている本作には感嘆を禁じ得ない。

 本項執筆時点ではまだ、バチバチの第二シリーズまでの読了だが、残る「鮫島最後の十五日」も、是非最後まで駆け抜け、堪能したいと思っている。

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