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読了のおっさん17 昭和元禄落語心中(雲田はるこ/ITAN)

今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。

昭和元禄落語心中
(雲田はるこ/ITAN)
2010年~2016年 全10巻

① タイプやテーマなど
 落語、芸能、日本文化、ヤクザ、恋愛、女、世襲、保守と革新、嫉妬と因縁、生と死、人生

② 簡単な内容
 刑務所帰りの元ヤクザの下っ端「強次」が、服役中に慰問で訪れた噺家「有楽亭八雲」の十八番「死神」の芸に感銘を受け、
出所後に有楽亭の門を叩くところから話が始まる。強次は「与太郎」の名前を与えられ、八雲の元で一人前の噺家へと成長していく。

 一方、与太郎を弟子にした八雲は、それ以前は弟子を一人も取らず過去に重い影を背負って生きてきた孤独な噺家であった。
かつての兄弟弟子助六と、弟子の与太郎を時に重ねつつ過去を語り、与太郎と共に、現代における落語の礎を築いていく。


③ 読みどころ
 噺家としての八雲師匠の過去もあるが、昭和的な善悪の価値観、真面目さ、怖さ、繊細さが織りなす他者との摩擦と交流に読みごたえがある。
また、ヤクザとの付き合いを大事にする様、保守的ではあるが革新的な落語にも否定的ではないスタンスなど、立ち位置、キャラクターともに深みがあり、
興味をそそる人物である。

 また、八雲の兄弟弟子は八雲の若かりし日に他界しており、その娘を引き取って長年一緒に暮らしている。この娘との距離感や関係性も非常に特殊で、
そこにすんなりと入り込めた与太郎というキャラクターと、過去を共有しつつ一つの家族を形成して行き、孤独でありたいが孤独になり切れない、
何とも言えない距離感で「ままならない人生」を送る様もまた面白い。

④ 雑多な感想
 10巻でシンプルに完結し、読後感が爽快だった。なんとなく作品で描かれていない、八雲師匠の色々なエピソードを知りたい気にもなったが、
それはもっとエピソードを書いて欲しいという気持ちではないく、おっさんがある意味八雲師匠のファンになった感覚を抱いたのかもしれない。
文面なので噺家の芸の隅々までは伝わってこないものの、それだけキャラクターがくっきりと魅力的に描かれているのではないだろうか。

 昭和の時代は芸能人と任侠者の間に交流があったのは間違いないのではないだろうか。今では「闇営業問題」に見られるように、
世間がそれを許さないところであるが、かつて黙認(あるいはあまり公にされず)であった時代の雰囲気が作品を通じて伝わってくる。
 戦後の混乱期から発生した様々な問題(家族問題、カタギの人達の仕事や生活の問題、不安定な情勢下での理不尽な状況)の裏で、
やくざ者は時には敵、時には味方として世界の間で見え隠れしていたように思う。良し悪しは別として、歴史としてそこもまた興味は沸く。

 ストーリー上も実はヤクザが重要な立ち位置を示す。与太郎が元ヤクザであり、それを明らかにしながらの芸能活動において苦悩する面もある。
また、これは是非読んでもらいたいのだが、物語の本筋においてヤクザの介入によって道理が通る場面がある。歴史ものの漫画ではよく、
創作上のキャラクターが、史実上のキャラクターの奇跡に一枚かんでいることがあるが、本作では任侠者がその役割を果たしている。
ヤクザを生で見たことがある世代ならば、これがギリギリ肌感覚として分かり、知らない世代よりもより、琴線に触れる展開のように思う
(或いはそう思い込むおっさんのうぬぼれかもしれないが)。、


⑤ その他
 本作はアニメ・ドラマがある。ドラマは未視聴であるが、アニメは原作の雰囲気が増幅されているように感じた。特に石田さん演ずる八雲師匠の
人を寄せ付けない怖い雰囲気や「死神」の下りは非常味わい深かった。助六を演じる山寺さんとの対比もあって怖さが際立っているように思う。
まだ芸風が固まっていない若い時分のグダグダ感、すっかり往年の噺家として芸風が確立した壮年期の怖い程隙が無い落語、どちらも同じ声で楽しめた。
漫画原作も良いが、落語が題材なので、映像作品として動いてしゃべるキャラクターが出てくると魅力が増す。
 本作の声優さんたちは、おっさんが子供の頃に聴いた声ばかりで、やっぱり映像化が難しかった作品なのではないかと思うところでもある。アニメから
入るのもありかもしれない。

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