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真・読了のおっさん2 草枕 夏目漱石

おっさんが読んで面白かったと思う「活字本」を紹介します。

<概要>
■ タイトル他
 小説
 タイトル:草枕
 作者:夏目漱石
 出版年:1906年
 分類:地方、温泉、芸術、絵、煩悩、古典、仏教、人間社会、非人情、女

■ あらすじ
 主人公である画家が、温泉宿に逗留し、宿の女将(那美)や近所の寺の住職等と打ち解けつつ、芸術や世情について悶々と思いを巡らせ、或いは那美の美しさや怪しさに惹かれ、画題或いは自身の芸術を追うといった物語。
 日露戦争記が舞台で、従軍の話や西洋との関り(主に芸術面)について、当時の著者の想いや論評が含まれており、登場人物達との会話にそれらが現れる。

<読みどころや感想など>
■ 難解な単語や概念の多用
 有名な出だしもそうだが、ある程度の語彙力や教養が無いと、何が言いたいのかさっぱり分からない一節がしばしば挟まれ、しばらく続くといった展開がある。詳細は省略する(長くなるしうまく説明もできないので逃げたともいう)が、例えば西洋の芸術や思想、日本の古典などに状況を例え、それを昔言葉や文語で綴ってあるといったものである。
 とはいえ、部分部分の難解な節を除けば、地方の温泉宿に泊まって、地元の人と会話をしたり、宿屋の女主人に生身で挑発されたりと、心動かされる描写と展開が続く。

■ 案外短いが印象深い
 大活字本で350ページぐらい。行き帰りの電車と2日のモーニングカフェを加えて、1週間で読めてしまった。
 その割には印象深く、色々と考えさせられる内容でもある。なにせ難解なので教養面でも考えさせられるのだが、時々さしはさまれる煩悩をくすぐるような場面や、主人公の心情、那美の変化など、読後も物語を追いかけたくなる展開である。

■ 非人情
 本小説のテーマのキーワードの一つであることは間違いないのだが、はて、どういう意味かと問われると改めて説明が難しい。
 色々と経験して達観した人物が、物怖じしない、開けっぴろげになる、反面表に出る心情がどうにも物足りないといったところだろうか。
 非人情は誰かと言うと、ここでは那美であるのだが、読み終えると非人情について上記のように説明してしまうと思う。
 決して冷酷な人間という訳ではなく、余分な感情が消し飛んでしまったというところか。。。
 作中で那美が主人公に、自分の絵を描いて欲しいと依頼するのだが、主人公は思うように描けない。主人公もまた、逗留の間に様々な景色や、地元の昔話の中に那美を重ねて描こうとするのだが遂に描くことが叶わない。その理由に那美の非人情を指摘する。
 このようなやりとりが続き、物語の着地が、ぽんと手を打ちたくなるような見事な終わりとなっている。


<その他>
■ 2週間で書き上げた作品
 「吾輩は猫である」の完成直後に執筆を開始し、たったの2週間で完成させたという話がある。自身の体験を交えながらの内容で、作品としては部分的に随筆にも近いものがあるように思う。

■ 学生にはちょっとキツイ
 文学を専攻しているならともかく、普段から活字(特に古い時代の活字)と縁遠い学生が読んでも、チンプンカンプンに思うかもしれない。
 分からないなりに難しい部分は流して読めば、その先に分かりやすい物語が続いているので、それはそれで良いのだが、じっくりと腰を据えて内容を吟味するとしたら、それなりに人生経験が必要かもしれない。
 無教養だと「とっちらかった微妙なエロ小説」という印象しか残らないだろう。無論そんなことはないのだが、言うなればそんな難解な作品であると評したい。

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