ばん馬の牧場見学を通してvol.3
少しずつ暑くなってきたが風はまだ冷たさを感じる。
さて、今回は小清水町の林牧場にて見学をしてきた。
小清水町はオホーツク管内の海沿いの町で網走市からは車で約30分。道中には映画の舞台にもなった北浜駅などがある。小清水町には原生花園もあり時期になると林牧場の馬たちが放牧されゆっくりと過ごすところもみられる。
見学に行った日は既に軽種が5頭ほど放牧されていた。
この牧場では軽種〜重種まで約100頭以上の馬を夫婦とお手伝いの職員の計3人で管理されている。
また和牛の生産もされており、かなりの頭数がいた。
今まで見学させてもらった個人の牧場では最多の頭数。ばん馬以外の馬もたくさんいて勉強になることがたくさんあった。
まずみせてもらったのは重種(ばん馬)の1歳たち。
厩舎に入ると普段みない人間が入ってきた影響もあったせいかとても興味を示してくれた。
「来年は2〜3頭テストに出そうと思ってるんだ!」と林さんは力強く話す。
また「血統も大事かもしれないけど、今のばん馬の血統はだいぶクロスも入ってきて血が濃くなりつつあるのか、走る馬が多くなってきた。色んな馬を扱っているのもあるけどあまり深くは気にしてないかな」と林さんなりに分析をされていた。
その隣にも似たような1歳馬たちがいたが「ばん馬」ではなかった。
ペルシュロン又はブルトン×アパルーサのF1
俗に言う輓交種だ。ただF1ということもあり、かなり身体が大きかった。背丈が母馬とあまり変わらない馬もいた。
「F1だし血統的にもクロスはないから穏やかで人懐こい馬が多いね。F1だから品種的なクロス(この場合のクロスは交配的な意味合い)は常々考えながらやっているよ。」とわかりやすく説明してくれた。
続いてみせてくれたのはいちばん気になっていた種牡馬のカネゾウ!
人が歩くと歩いた方向に歩きまた戻るを繰り返すなど元気いっぱい。
「噛み付く可能性があるから離れて撮った方がいいよ。」と前もって教えてくれたため安心安全に写真を撮ることができた。
となりには今年から種馬として入ったジェイハーレイ。とても大人しく穏やかに過ごしていた。
諸事情により種牡馬としての仕事はまだ先になりそう。
カネゾウは約20頭程種付けを行なったそうだが、留まったのは全て自分の牧場とのこと。そのためカネゾウの初年度産駒は全て林さんの生産馬になるということだ。
産駒が競馬場に出てくるのが今からとても楽しみ。
次にみせてもらったのはばん馬の親子。
ここでは馴染みのある馬たちもいて会うことができただけでもとても嬉しかった。
まずは昨年、能検に出走していたメイホウ。
4月に出産している。父はカネゾウ。
しっかりとお母さんをしつつも人をみるとすぐに甘えたがるのはまだ年齢が若いせいなのかな。笑
その近くにはユメノレディの11番仔の姫桜。
とても綺麗な鹿毛で美しかった。
ユメノレディの系統はカンシャノココロやナガゼンガキタなど活躍馬が多い。
ユメノレディの弟には種牡馬として活躍しているフクノカミカゼがいる。
これからもこの系統の馬たちが活躍してくれると個人的にはなんだか嬉しい。
立派な栗毛がいるなと思うと「アサヒカツヒメだよ、昔母のプリティブライト扱ってたから欲しくて買い取ったんだ!」と嬉しそうに話す。
約1週間前に初のお産を終えて子育てに励んでいた。人に警戒心があるせいか親子共に近くに来てくれなかったがゆっくり過ごしていた。
続いてみせてくれたのはブルトン×アパルーサのF1
出会った馬の中でいちばん人懐こかったと思う。
少し警戒しながらも大丈夫だと安心すると、指を甘噛みしてくるなど終始興味を示してくれた。
そのとなりの放牧地には林牧場の名牝でもありボスでもある宮祥がいた。話によると馬にも人にも悪さをするわけではないんだけど、他の馬が逆らえないオーラをもっているとのこと。黙ってまっすぐどこかをみているのがとても印象的であった。
林牧場のばん馬の名牝にはもう1頭ユメノレディがいたが、今年のお産の際に子宮に傷ができてしまい結果良くならず亡くなってしまっている。
最後にみせてくれたのは道産子やペルシュロンやブルトンを掛け合わせたF1の馬たち。
ここにいる馬たちも食用であり、時期をみて市場に出される。
色々考えはあるが、林さんはこう言う。
「ほんとはばん馬に集中してやりたいところなんだけど、ばん馬だけじゃとても食べていけない。だから何かを犠牲にしないといけない。それが食用の馬たち。綺麗事だけ並べてもうまいことやっていくのはなかなか難しい。食用の方が安定してこればばん馬の方にも力を入れていきたい」と本音を語られていた。
ちょうど見学した時間は昼過ぎということもあり、お昼ご飯を食べている馬たちが多かった。
主にデントコーンが多いがこの時期は豆をすりつぶした飼料がメインであり、どの馬も美味しそうに食べていたのが印象的だった。
話を聞きながらまわった後は「好きに1人でみてまわっていいよ。」と言ってくれたためもう1度ゆっくりみてまわった。話を聞いた後に馬をみると視点や考えを整理しながら観ることができた。
林さんは馬を管理することに対してこのようなことを話されていた。
「ほんとは若い世代の人が好きで馬やるのがいちばん理想的ではあるんだけど、そう甘くはない。牛はまだ色々融通がきく場合もあるが、馬はそうはいかない。だから自分たちが次の世代に経験や技術なんかを教えていかないと生産者が消えてしまう。」と今後の課題について話してくれた。
見学後は「またおいで、もし網走や川湯の方に行く時があれば連絡しておいで。頼んどいてやるから。」となんとも頼もしい言葉をかけてくれた。
ばん馬以外の馬について今まで考えることがあまりなかっただけに今回の見学はとても勉強になることが多かった。また1つ視野が広がったような気がする。今回の経験を次回以降の見学にも生かしていきたい。