深呼吸
ザ・ワースレスさん『深呼吸』をカバーしました♫
『深呼吸 波光粼粼MIX』
インスタグラムにアップしたのでぜひ聴いてみてください▼
Sound Cloudにも
さて、記事内で名前が登場するザ・ワースレスのメンバー紹介を。
ザ・ワースレスの2024年からはじまった楽しい企画
この企画の11曲目、11月の課題曲が『深呼吸』
工藤あゆみさんのイタリア・ボローニャ国際絵本原画展入選作品『五感』から生まれた一曲。元気いっぱいで軽快なんだけどちょっぴりしんみりとさせてくれるザ・ワースレスさんの原曲をぜひお聴きください。
作詞・作曲者のわしみごうさん a.k.a. ミスターが綴られたこの曲の制作秘話がこちら。
以下が原曲のコード進行 ▼ です。
こちらは私はリハーモナイズした『深呼吸 波光粼粼MIX』の歌詞コード譜。
ぜひ弾いて歌ってみてください。
※ © 著作権はザ・ワースレスの作詞・作曲者わしみごうさんに帰属します。
ここからは個人的な今回のカバーの制作過程での思考の流れや気づきを自分のための備忘録として書き留めた文章です。
※ 文章に出てくる音楽は下記のプレイリストにまとめてみました。
ご興味のある方はぜひ音楽を聴きながら目を通してみてください。
『深呼吸 波光粼粼MIX』
リハーモナイズのプレイリスト
制作で参考にした曲や、ここ最近気に入って聴いていた曲を集めました。今回のプレイリストは90年代〜2024年まで音楽が鳴り止んでいなかったのを確かめるような感覚もありずっと聴いていられる感じ 。耳心地良くて歌詞もじんわり沁みる曲が多く、ぜひお散歩とかしながら聴いてみてくださいね!
感動の土砂降りライブ
11月1日大雨が降る中を野外音楽堂でずっと観たかったハイエイタス・カイヨーテのライブを観てきました!ネイ・パームさんの乳がん治療で活動休止を余儀なくされ心配しましたが、無事復帰して精力的にアルバム2枚をリリースからの来日公演!とてもとても感激しました。
最新アルバムのインタビューの中で
とも語られていて、バンドがひとつの大きな生き物のようにうねりながら、これまで影響を受けてきた音楽を昇華して自分たちだけが鳴らせるオリジナルな表現を展開していて感動したんですよね。
なので、今回は本当に自分の感覚だけを信じて自由にリハーモナイズに取り組んでみたいと思っていました。10月がギターの弾き語りでアレンジメントめいたいことをほぼしないで演奏に専念していたので、その反動もあってか「アレンジしたい!」熱が高まってきたこともありました。
リハーモナイズ
原曲は9月の課題曲「はじまりのうた」にも通じる音楽のアイデアがたくさん詰まった作品だなと個人的に感じて「どうカバーしようかな?」と思いましたが、大好きなハイエイタス・カイヨーテのライブが観れて「深呼吸して好きなように自由に音を楽しもう」と決めて制作をはじめました!
ギターとピアノを弾きながら、ダイアトニックコードの枠にとらわれずにコード(和音)をリハーモナイズ(ちがう響きの和音に着せ替えること)していきます。
「和音 = ハーモニーって何?」って方はジェイコブ・コリアーさんが教えてくれるこちらの動画をご覧ください。
「ハーモニー」って何?5段階のレベルで説明 | 5 Levels | WIRED.jp
イントロ & アウトロ
原曲『深呼吸』はカズーのファンファーレ!という印象でミスターが標榜した王道 = まさに王が通る道を両端から器楽隊が祝福するような行進曲のはじまりはじまり!というイメージを受けました。
私の『深呼吸 波光粼粼MIX』ではブリッジの「君だってそうだろう」のところを一番はじめにギターを弾きながらリハモしていたときに口笛を吹いていて浮かんだフレーズをそのまま使うことにしました。「ちょっとHipHopっぽいビートにしたいなぁ」とぼんやり思ったのは、中村佳穂『きっとね!』(2018)のイントロを思い出したりしたから。「無意識にフレーズをパクってしまっていたらどうしよう…」と聴き返してみたら、全然ちがったので安心しました。
リハモして口笛のフレーズを思いついた時に録音した音声メモ ▼
で、スクラッチのような1小節目を入れました。
環ROY『YES』(2013)とか聴いてやっぱり入れたいなってなって。
ヴァース(Aメロ)
1番「あ!と驚いていたら〜」 2番「決していつでも〜」
原曲『深呼吸』はミスターのギターの四つ刻みが歩くテンポ(BPM = 122)にぴったりで心地よくsunnyさんとのかけあいが楽しい幕開けの場面。
リハモではのっけからもう自由奔放にダイアトニックコードにない借用コードも入れています。テンポ(BPM = 91)をゆったりめに落としたので、歌がのっぺりとしてしまう分、ベースに動いてがんばってもらいました。ベースラインを聴いてみてください。制作した後にリズム隊のテンポ(BPM = 82)くらいまで落として、歌だけ倍テンポ(BPM = 164)にしたらよりHipHopなノリも出たろうに…と気づいちゃったんですがもう後の祭りです…
イントロと同じホーンセクションのフレーズも使っていますが、後ろのコードが変わっているので、また響きが変わって聴こえるのが不思議です。
私にとってのHipHopな王道ってなんだろうって考えたときに浮かんできたのはTLC『Waterfalls』(1995)で、ビーツもベースラインも、ホーンもギターもラップも細部まで全部好き。完璧です。決して真似できませんが、ほんとかっこいいので聴いてください。UA『リズム』(1996)ともぜひ聴き比べてみてください。どちらも超かっこいいです。
2番は双子のおふたりの「オーッ!」が入るので、『深呼吸 波光粼粼MIX』でも「オーッ!」な歓声のSEを入れてみました。
1番「いくつになっても 行きたい場所に 出会うんだ」
2番「決していつでも 君のことを忘れるもんか 心の中の 僕と一緒なら 大丈夫さ」
「語感にこだわって」あいうえお順に書こう!」「同音異義語」といった言葉遊びをモチーフに書いた歌詞と制作秘話で明かしておきながら、心に染み入るじんとくるフレーズをちゃんとぶっこんでくるミスターの作詞のスキルがヤバいところですよね。
プリコーラス(Bメロ)
1番「宇宙の絵の具〜」 2番「ささくれてしぼんだ〜」
原曲『深呼吸』は双子のおふたり(ぴーひゃらん & のんしゃらん)がリードヴォーカルに変わり、より行進曲らしい軽快さと溌剌とした雰囲気に。
『深呼吸 波光粼粼MIX』ではリズム隊をドラムスからパーカッションに変え、浮遊感のあるシンセサイザーにも登場してもらって場面を少しだけ変えています。
1番の「ティンパニー」には原曲とおなじくティンパニーに登場してもらいました。ウィンドチャイムも鳴らしています。個人的には原曲でさりげなく歌われているオクターブ下のミスターの「ティンパニー」がツボです。
2番「ささくれてしぼんだ姿ならば 世界の外へ旅立つんだ」の歌詞よ!
「サビここか?ここがサビちゃうんか!?」と思いますよね?
間奏
原曲『深呼吸』にはない間奏を『深呼吸 波光粼粼MIX』では入れています。
メジャーセブンス(M7、△7)のコードをだけを使うコンスタント・ストラクチャーという手法です。上のメロディーにはKey = C の音を中心にならべつつ、コードによってその調(というよりモード)に変わっていく感じで、「ちょっと宙に浮いたような不思議な感じがするのでは?」と思います。
ブリッジの後の大サビ「wanna get〜」のコーラスが乗る場面にも、この進行をそのままスライドさせています。
私が以前作曲して発表した『Beautiful Day』(2021)という曲でもこの手法を使っていて、この響きの浮遊感が好きなので入れてみました。
コーラス(サビ)「チントンシャンテントン〜」
と明かしてらして、ミスターの推し中の推しであろうイエモンのキラー・チューン中のキラー・チューンのコード進行を使うというときに、「チントンシャンテントン〜」の歌詞を乗せてしまうところがミスターらしいなと思いました。その結果めちゃくちゃキャッチーな仕上がりになっていますしね。
思わず口ずさんでしまいたくなる「語感」!
「チントンシャンテントン つんつくてんてん トントコトン」
だけをあらためて眺めてみると「長唄バージョンが一番あうんじゃないかしら」とも考えましたが、私にそんな邦楽の素養(歌に三味線、太鼓も)なぞあるはずもなく断念。
『深呼吸 波光粼粼MIX』では「やっぱりリハモでしょう」ということで、コードの響きを変え「チントンシャンテントン」のコーラスを重ねました。
cero「Cupola キューポラ(e o)」(2023)あたりの曲を参考に聴いていました。コーラスのラインの響きが原曲の王道さとの対比になるかなと思って。どことなくアジアっぽい響きにも聴こえておもしろいです。
ここでもベースラインががんばってくれています。
ブリッジ
「熱いお鍋の下に厚い本」
原曲『深呼吸』ではミスター & sunnyさんのかけあいに、双子のおふたり「デュワデュワ」を重ねるドゥーワップなスタイル。サビからさらに盛り上がるとともに場面ががらりと変わります。歌詞は「同音異義語」の言葉遊び。
『深呼吸 波光粼粼MIX』でも盛り上げるべく、さらにベースラインにがんばってもらいつつ、ドラムスにはとどめに「ダチーチーチー」のフィルを入れてもらっています。ちょっとここで脱線させてもらって
ダチーチーチー
「ダチーチーチー」については島晃一さんによる「ダチーチーチー」の名付け親DJ JIN(RHYMESTER)さんのインタビューもぜひお読みください▼
MOBYさんセレクトの『ダチーチーチーの補習編』プレイリスト
このプレイリストから「ダチーチーチー」を生み出したバーナード・パーディー御大の「ダチーチーチー」から幕を開ける『What's Goin' On / Ain't No Sunshine』(1972)を深呼吸のプレイリストに選ばせていただきました。マーヴィン・ゲイの世界的に有名な反戦歌のカバーですね。
私が「ダチーチーチー」にしびれた最初の記憶は細野晴臣『薔薇と野獣』(1973)です。たぶん渋谷のHMVで『HOSONO HOUSE』の再発を買って聴いて「ヤベーッ!」ってなったんだと思うのですが、そのときはまだこのフィルは世間的に「ダチーチーチー」って名付けられていませんでした。細野さんは後のインタビューで「ハイハットが大きすぎるけど当時の録音、ミックスの状況ではしょうがなかった」というような趣旨の発言をされていますが、私からしたら「そのハットが!オープン・ハイハットが!ダチーチーチーがいいんですやん!」と力説したいところです。
『深呼吸 波光粼粼MIX』ではあともう1回「ダチーチーチー」を入れているのでどこに入っているかぜひ聴いて探してみてくださいね。
ブリッジ
「君だってそうだろう〜」
ミスターが制作秘話で語ってらした「大サビ前にしっとりゾーンを作成。ギターアルペジオだけで場を持たせる」で浮かんだ曲はRADWIMPS『オーダーメイド』(2008)でした。「くれませんか」のたずねるトーンとか。
原曲『深呼吸』のミスターの歌がいいなと思って、ここからリハモしたのでした。
歌詞が切なくて好きです。
「音が鳴り止んで 魔法が解けたら 止まったネジを 巻いてくれませんか」
「音楽の魔法が解けてしまったら、止まったネジを巻いてほしい」と心から祈るだろうなと思いながら歌いました。
で、「しっとりゾーン」にしようと、リハーモナイズしたコードをギターの白玉だけで夜にひっそり歌った仮歌を重ねてみました(2回し目のリズムが入るところには別日に歌い直したテイクと差し替えたり)。
歌を倍のテンポにしたらこのしっとり感は出せなかったので「やっぱりこのゆったりなテンポがよかったのかなぁ」とも思いますね。はじめの着想がここからはじまっていたので。イントロの口笛も成立しなくなっちゃうし。
中村佳穂さんの『AINOU』(2018)を作った4人の男のインタビューを
制作後に読んだのですが、日本語をリズムに乗せるためにかなりの試行錯誤を重ねられた経緯が明かされていました。
今回もっとR&Bな方向性でアレンジしたかったのなら「歌だけ倍テンにすればよかったのか!」って気づいたんですね。そうすれば柴田聡子『Synergy』(2024)みたく歌が速いセンテンスに変わるので、間がつまってもったりしなくなります(歌う際の譜割りなどリズム感のセンスの高さが要求されますが)。
原曲『深呼吸』はBPM = 122 な行進曲でハネてもいるので、歩いても踊ってもグルーヴが出てくるため、歌のフレーズが頭拍のアクセントでも成立しますが、BPM = 91に落とすと…とはいえこれがまた歌が上手い人が歌ったりすると、そんなことまったく気にならなくなってきちゃったりするので、その点でも「うぅ〜!歌もアレンジもむずかし〜!」とうなってしまいました。「歌か?歌のスキルか!アレンジか?アレンジのスキルかーっ!」
大サビ
「wanna get wanna get wanna get your smile」
原曲『深呼吸』のミスター & sunnyさんの「wanna get〜」が入る大サビがめちゃくちゃいいんですよね。後ろで「うぅーうぅー」「あーあー」と重なるコーラスがまたとても美しいのですが、これは直前まで「パンパンパンパンパンパンパンパン」と「ポップコーンが弾けるみたく、子供たちのように元気溌剌と歌ってらした双子のおふたり(ぴーひゃらん & のんしゃらん)では?」と想像しつつ、おふたりの大人めな声を聴ける貴重なシーンではと。
『深呼吸 波光粼粼MIX』では先に触れたコンスタント・ストラクチャーを使った間奏と同じくで、Key = C のダイアトニックコード以外のコードを使っていますが、ミスター & sunnyさんがコーラスで重ねられているド = C とソ= G のふたつの音はどのコードともぶつかっていなかったので、ここで2回目のサビに向けて盛り上げてみることにしました。「smiiiiiiile」とヴォーカル・チョップ的な加工にしていますが、「止まったネジを 巻いてくれませんか」と頼んだ人のネジが巻かれ、ふたたび息を吹き返して歌いはじめたばかりで、まだ声が途切れてしまう感じが出せたらと考えました。ちょっとSFっぽい風景が思い浮かび、トラックの感じともあうかなと思って入れてみました。
歌の後ろにずっとヴィブラフォンの音がクルクル回って鳴っているのは、Special Favorite Music『Magic Hour』(2016)を参照していて、「やっぱり鍵盤打楽器入っていると心地いいなぁ」と思って、歌のメロディがコードとぶつかっていないか確認するのに仮で入れておいた歌メロのトラックを外してしまわずにそのまま残しておいたからです。
波光粼粼
実は6月の『きょうはいい日』をカバーさせてもらったときに、一番最初に「Lo-Fi HipHopみたくコードを大胆にリハモしてカバーしてみようかな」とピアノに向かってみたのですが、どうしてもしっくりこなくてリハモはひかえめにして直球でギターの弾き語りにしました。
今回はその着想を思い返しつつ、原曲の王道なイメージから離れて、7月『OverCare』の7inchのB面に収録されるリミックスをイメージしながら制作しました。ですのでどことなく『深呼吸 波光粼粼MIX』は『OverCare Funk MIX』の双子のようなトラックに仕上がっているかもしれません。
インスタやジャケットに使った水面に光がちりばめられた映像は散歩中に見かけた川の水面を撮影したものです。ちょうどニジノ絵本屋のあやさんとザ・ワースレスのみなさんが台湾を旅されていて「この水面のきらめきって台湾でなんて呼ぶのかしら」と調べていて「波光粼粼」が出てきて『深呼吸 波光粼粼MIX』と名付けました。
今夜はブギーバック/あの大きな心(小沢健二) × Rollin' Rollin'&サーカスナイト(七尾旅人) × ONEMAN(蓮沼執太フィル)をカバーさせてもらったときにも
以前撮影していた水面のきらめきの映像を使っていました。水面の光が大好きで、川でも海でも見かけた際にはしばらくずっと惚けたように眺め続けてしまいます。
今回のプレイリストにも選曲した小沢健二『高い塔』(2019)に
「川に光線反射するように ドキドキする 神秘がかる瞬間は 最強で 最高で」
と歌われていて、私にとっては水面できらめく光も音楽の音の粒もどちらも魔法的で神秘的なところが共通しています。今月もリハモしたりアレンジしたり歌ったり演奏したり、ミックスやマスタリングしていく中で、あらためて「音楽は魔法だな」と何度も思いましたし、「この魔法は解けないでくれ」と祈る思いが募っていきました。
そういえば2022年に開催された小沢健二さんの全国ツアー「So kakkoii 宇宙 Shows」でもドラマーの白根佳尚さんが『高い塔』で「ダチーチーチー」を叩いてくださり感動したのを思い出しました。魔法的!
ということで、今月も好き放題なアレンジを許してくださったミスター、ザ・ワースレスのみなさま、温かなコメントを寄せてくださったワースレスラバーズのみなさま、そして曲を聴いて最後まで長い長い備忘録を読んでくださったみなさまに感謝を捧げます。ありがとうございます!
来月12月の #ラバーズの一月一曲 の企画はどの曲が飾るのでしょうか?
ということでラバーズのみなさま!今月もカバー楽しみにしていますよ!
※ 「太字」部分は文章内でご紹介している楽曲から歌詞を引用しています。
歌詞の © 著作権は各作詞者に帰属します。
※ 登場するアーティストは呼称を敬称略としていたりしてなかったりしていますが、すべてのアーティストに敬意をこめて紹介しています。
※ 私はいま音楽理論を勉強中ですが、音楽学校等は出ておらず独学の最中の知識だけで記事を書いているため、楽理的におかしなことが書いてあるかもしれません。どうぞ参考までにお読みいただければ幸いです。