ベジタブルR&R
tupera tuperaさんの絵本『やさいさん』から生まれた一曲
TheWorthlessさんの『ベジタブルR&R』を今回もリハーモナイズしてカバーしてみました♫
インスタグラムにもアップしましたのでぜひ聴いてみてください。
※ © 著作権はTheWorthlessの作詞・作曲者のわしみごうさんに帰属します。
作詞・作曲者の #ワースレス @theworthlessjp わしみごうさん a.k.a.ミスターがこの『ベジタブルR&R』を作られる際、
「この絵本の力強さを表現するにはルーツミュージックだ!」
という気持ちで「ロックンロール」を選んだとおっしゃっていました。
この曲が生まれる元となった絵本『やさいさん』を開いてみます。
絵本のページをめくる度、ある印象的なフレーズがくりかえし登場します。どのページにもとても素敵な工夫が凝らされていて、何度も何度も開きたくなる「しかけ絵本」です。
私はそのリフレインしながら変化していく心地よさに「ブルース」や「ジャズ」から派生して生まれた「アシッドジャズ」や「ヒップホップ」を連想し、こんなアレンジへと辿り着きました。
TheWorthlessさんの原曲『ベジタブルR&R』と聴き比べてみてください。
ということで遅ればせながら
ザ・ワースレスの
双子のおふたり(ぴーひゃらん & のんしゃらん)!
そして、ミスター!お誕生日おめでとうございます🎂
ここからは個人的な今回のカバーの制作過程での思考の流れや気づきを自分のための備忘録として書き留めた文章で(今回はとてつもなく長くなってしまったので)興味のある方だけ音楽を聴きながら目を通してみてください。
※ 「太字」部分は文章内でご紹介している楽曲から歌詞を引用しています。
歌詞の © 著作権は各作詞者に帰属します。
※ 登場するアーティストは呼称を敬称略としていたりしてなかったりしていますが、すべてのアーティストに敬意をこめて紹介しています。
※ 私はいま音楽理論を勉強中ですが、音楽学校等は出ておらず独学の最中の知識だけで記事を書いているため、楽理的におかしなことが書いてあるかもしれません。どうぞ参考までにお読みいただければ幸いです。
※ 『不適切にもほどがある』第六話「昔話しちゃだめですか?」を観てしまったばっかりに「昔話にもほどがある」回です。
※ 文章に出てくる音楽は下記のプレイリストにまとめてみました。
お時間のある時に聴きながらどうぞ。
ジャグ・バンド「ザ・ワースレス」さんの2024年からはじまった楽しい企画
3月の課題曲は『ベジタブルR&R』
タイトル通りの「ロックンロール」ナンバーです!
一月に『君に会いに行こう』を私なりにリハーモナイズしてカバーしてから、勝手に「ワースレス音楽学校 リハモ科」に入学した気分になって、二月の『すきやき食べたい』でもリハモにチャレンジしていました。
『すきやき食べたい』の前半にもブルースのコード進行があり、私のいまの音楽理論の知識ではリハモするのがとてもむずかしく感じて、少しだけコードの構成音を変えるくらいに留めていました。
そんな中、今回登場したテーマが「ロックンロール」!
ブルースの3つの7thコード12小節の鉄壁のコード進行を受け継ぎつつ、33回転のブルースを間違って45回転にしちゃったかの如くテンポが爆あがり、全世界を熱狂の渦にまきこんじゃったあの「ロックンロール」です!
セックス!ドラッグ!ロックンロール!の「ロックンロール」
アルコールやタバコを優にかわしてその座に君臨し、ひと昔前ならエレキギターを手にしただけで江戸時代よろしく「不良だ!勘当だ!」と恐れられた音楽の一大ジャンル。
音楽的な側面から見れば当時のクラシックの音楽理論を飛び越えていて、ドミナント7thの不安定な響きが連続し、長調=メジャーと短調=マイナーが同居したかのような摩訶不思議な響きを放つ音楽です。
ブルーノートと呼ばれる短三度=b3rd、短五度=b5th、短七度=b7thの音(実際には各々の音程から長三度=3rd、完全五度=5th、長七度=7thまで上がりきらない微分音のあたり)が特徴的で、奴隷としてアメリカ大陸に連れてこられたアフリカン・アメリカンの人々が、西洋音楽を教えられた際に自然とその特徴的な音程で歌いはじめ、19世紀の後半頃にアメリカ南部で「ブルース」が誕生したといわれています。
虐げられながらも力強く生き抜いた人々の切なる願いや魂が音楽へと宿り、その後「ジャズ」や「R&B」、「ブギウギ」、「ロックンロール」「ソウル」、「ファンク」そして「ヒップホップ」へとさらに枝分かれし、いまも世界中を魅了し続けているのはすごいことだと思います。
さて、今回の課題曲『ベジタブルR&R』は
12小節に
3つの7thコード(Key=CでC7/F7/G7)
ブルーススケールのメロディ
と「ロックンロール」の屈強なフォーマットでリハーモナイズする隙をちらりとも見せない鉄壁さを感じました。
ミスター、sunnyさん、ぴーひゃらん、のんしゃらんそれぞれのパートは歌も楽器も無駄なく存分に「ロックンロール」の魅力を引き出しています。
ジャズ・ブルース的にⅡ-Ⅴ等で細分化してリハモする手法もいくつか調べてみましたが、「聴いた印象がそこまで変わらないかな」というのと「ちょっといまの私にはむずかしいかも」と感じ、「今回はリハモできないかも」とあきらめかけました(別にリハモせず素直にカバーすればいいじゃんって話なんですけど)。
植ぇ〜!
「Well=ウェル=植ぇる」
『ベジタブルR&R』の歌詞をみて個人的に一番ハマったツボが「植ぇ〜!」です。「絵本『やさいさん』とかけましてお野菜とときます」「その心は」
「植ぇ〜!」ってことかと想像しているのですが、もうこの時点で私の脳内ではジョン・レノン『Be-Bop A-Lula』(1975)(ジーン・ヴィンセント&ヒズ・ブルー・キャップスが1956年に発表した楽曲のカバーだそうで、日本のロケンローラーの草分け的存在?内田裕也氏、奇妙礼太郎さん他、多くのアーティストからカバーされています)の「Well〜♪」が自動再生されにんまりしちゃいます。
逆にミスターが「野菜」→パチーン!とこのアイデアが浮かび「ロックンロール」を選ばれたんじゃないかというほどのオマージュを感じました。
ここから私は「ロックンロール」を巡る旅に出ました。
「ロックンロール」と聞いてあなたはどんな曲を思い浮かべますか?
私はチャック・ベリー『ジョニー・B.グッド』(1958)でした。
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)でマイケル・J・フォックスが熱演したあの曲です。
"ロック界の伝説" チャック・ベリー × "ファンクの帝王" ジェイムズ・ブラウンのコンサートを観たことがあるのですが、唯一憶い出せる記憶はチャック・ベリーがお客さんを「来いよ!来いよ!」と煽ってステージ上に乗せたはいいものの、あまりにたくさんお客さんが登ってきちゃったもんで、あわてて「降りろ!降りろ!」と降ろしてて、「全然ロックちゃいますやん…」と思ったことです。"ロック界の伝説" 愛嬌があってかわいいカリスマでした。あらためてこの曲を聴くとギターだけでなくピアノがはちゃめちゃにロックンロールしていてかっこいいです。
旅する「ロックンロール」
「ロックンロール」の熱狂はレコードに乗り、イギリスへと飛び火します。
ビートルズは「ロックンロール」ナンバーだけを集めた2枚組のコンピを発表していますし、前述のジョン・レノンも「ロックンロール」アルバムを出していますね。ハードロックやメタルの全盛期に思春期を迎えていた私は時代をさかのぼってレッド・ツェッペリン『ロックンロール』(1971)やクリーム『クロスロード』(1968)あたりから聴きはじめた気がします。今聴いてもアドレナリンが出ますね。「ヤングギター」だか「ギターマガジン」だかのTAB譜をみながらギターソロを練習し、結局弾くより聴く方が楽しくてくりかえし聴き続けた遠い昔を思い出したりしました。"ジャズの帝王" マイルス・デイヴィスが "ロック史上最高のギタリスト" ジミ・ヘンドリックスに接近したのも1970年頃らしいです。
日本の「ロックンロール」アイコンといえば矢沢永吉さん、ではなく私はもうひとりの "ボス" と呼ばれた忌野清志郎さんが浮かびます。RCサクセション『つ・き・あ・い・た・い』(1982)(鬼束ちひろさんが清志郎さんのトリビュートでカバーされていました)は思い出深い一曲。「ロックンロール」な態度を日本語に変換して歌に乗せる清志郎さんの類稀なる才能が炸裂しています。"日本のクリーム" ことジョニー、ルイス & Charとのライブ音源を発見して胸が躍ります。
ベジタブルって野菜やん
世界の「ロックンロール」アイコンといえば "キング・オブ・ロックンロール" エルヴィス・プレスリーが浮かびディグっていたら、これまた「ロックンロール」の草分け的存在であるリトル・リチャード『トゥッティ・フルッティ』(1955)に辿り着きました。「ワッバブッルバーンッ」と歌うイントロに岡村靖幸『ベジタブル』(1989)が浮かび「ワッバンッルマーンッルッウィズマイラヴ」はこのオマージュだったのか(「しかもベジタブルって野菜やん!」)。と「ロックンロール」と「やさいさん」との邂逅に驚きます。
さすが、プレスリーもビートルズもストーンズもツェッペリンもクラプトンも内田裕也も矢沢永吉も忌野清志郎も虜にし、世界中を熱狂の渦にまきこんだ「ロックンロール」なだけあって揺るがない魅力がそこにありました。
リハモのアイデアが浮かばないまま時間だけがすぎていきます。
「世界のみんながくぎづけ〜」 「フー I know you love me」
『ベジタブルR&R』には12小節3コードのブルース(「ロックンロール」)進行以外に2カ所だけ場面ががらりと変わる部分があります。
「フー I know you love me」
Cm=Ⅵm→Bb=Ⅴ→G#=Ⅳ→G7=Ⅲ7と下降していく印象的なコード進行
(Cマイナーととらえた方がわかりやすいのかもですが、平行調のEbメジャーととらえるとⅢ7=切なコードに着地!と思えて切なさが増す気がします)
「どこかで耳にした気がするな。何の曲だっけ…」とずっと考えていたら、お布団の中で寝落ちしそうなタイミングで「no more no more no more」と印象的なコーラスが聴こえてきました。飛び起きてGoogleさんに「no more no more no more」と入れて検索(こんなんでわかるん?)と入れたところ
レイ・チャールズ『Hit The Road Jack』(1961)ですか?と出てきて、「グッジョブ!これ!これ!」と。
で、聴きなおしてみるとこれまた「もう一曲!この進行よく聴いたはず…」と記憶を辿ると「闇に隠れて生きる〜♪」と懐かしい音楽が流れてきました。
「そうだ!」『妖怪人間ベムのテーマ』(1968)。「ベム、ベラ、ベロ好きだったな(きっとミスターはまったく違う文脈からここ作らはったんやろうな)」とか想像しつつ、ここも盤石な地盤でリハモのアイデアが浮かばないながらも、アレンジはこの方向性でいこうと決めました。
※ この記事の投稿後、ミスターからXでこんなうれしい返信がありました♫
(結局原曲のキーで録ったのでリハモ後の下属調に転調した形になっているのかと思いますが、同じ調に移調し、Gm=Ⅵm→F=Ⅴ→Eb=Ⅳ→D7=Ⅲ7からCm7=Ⅱm7に下っても良かったのかなとも思い返しました。もしくは三度上にG→F→Eb→Dでハモ(主メロディ)をつけると下属調に転調しててもキーが同じように聞こえるはず…作っているときには気がつかないものですね)
「世界のみんながくぎづけ〜」
ここはインスタライブの『ベジタブルR&R』Q&A配信でミスターが
「ここだけシャッフルのハネるリズムからスクエアなハネないリズムに変わるよ」とカバーする際のポイントを教えてくれていました。
私はビートルズ『バック・イン・ザ・U.S.S.R.』のヴァースが浮かんで、ミスターの深い「ロックンロール」愛を勝手に感じていました(これは私の私見なのでミスターは全然ちがう曲からインスパイアを受けてらっしゃるかもしれませんし、何もないところから発想されたのかもしれません)。
「ここはリズムだけ変えてみようか」とぼんやり決めて、リハモのアイデアはいったん保留に。
Jackを巡る旅
リハモのアイデアが浮かばないまま「ロックンロール」の源流を遡る音楽の旅を続けていて、R&B、ゴスペルの『Hit The Road Jack』からジャンプ&ジャイヴの『Hit That Jive, Jack ! 』(ナット・キング・コール(1942)さらにジョン・ピザレリ(1985)などカバー多数)が連想され、そこからオリジナル・ラブ『JUMPIN' JACK JIVE (feat.吾妻光良)』(1992)へと辿り着きますこの曲はリズム・チェンジ(ジョージ・ガーシュウィン作曲『I Got Rhythm』(1930)のコード進行)なので「ロックンロール」のコード進行とは違いますが、テンションが「ロックンロール」です!(Jackを巡る旅でR&B〜ブギウギ、ジャンプ&ジャイヴを経てローリング・ストーンズ『Jumping Jack Frash』で「ロックンロール」へと結実する道筋も垣間見れた気がします)。
ちょうど二月に制作した『すきやき食べたい ユートピアMIX』のカラオケにミスターが歌を入れてくださった(『すきやき食べたい-cedar pollen mix-』)をきっかけにあらためてオリジナル・ラヴを聴き返したりして気分が90年代へと向かい続けていました。
そういえばあの頃は「アシッド・ジャズ」や「ハウス」や「ヒップ・ホップ」が台頭してきて、80年代に栄華を極めた「ハードロック」、「メタル」も「グランジ」、「オルタナ」「メロコア」、「ミクスチャー」などに主役を奪われはじめた時代(パンテラの「グルーヴメタル」への進化や「ニュー・メタル」「オルタナティブ・ロック/メタル」など多様化しましたね)だったことを思い出しました。
そんな中でも「ロックンロール イズ デッド」と前の世代の皮肉ったレニー・クラヴィッツ『ロックンロール イズ デッド』(1995)『自由への疾走』(1993)や、クーラー・シェイカー『Hey Dude』(1995)など幾度目かの「ロックンロール」リバイバルの動きも同時多発的に起こっていた気がします。
新しいカウンターカルチャーの前に、王道にまで上り詰めた古いカウンターカルチャーは精彩を欠きはじめ、また時代が巡りさらに交配が進んで新しいカウンターカルチャーとして生まれ変わりはじめるんですね。
私の「ロックンロール」を探して
そんな「ロックンロール」の歴史を巡る音楽の旅の中、唐突にスピリチュアルジャズの大御所ファラオ・サンダース『You’ve Got to Have Freedom』(1980)サックスの咆哮が胸の中に鳴り響きました。
ジャンルとか関係なく「この音こそ「ロックンロール」を体現している音じゃないのか?」と感じました。さらにMr. President(a.k.a. Patchworks)ことブルーノ・オバール氏によるこの曲の「アシッド・ジャズ」なカバーUptown Funk Empire『You’ve Got to Have Freedom』(2009)の、
「You’ve Got to Have Freedom(自由を手にしなきゃ)」
「You’ve Got to Have Peace & Love(平和と愛を手にしなきゃ)」
とリフレインされる歌声を聴いて、「これや!これが私の「ロックンロール」や!」と急速にリハモの方向性が定まります。
私と妻が大好きなパティスリー「アシッドラシーヌ」にも「アシッド・ジャズ」のレーベルロゴが店内に飾られ、「まさか!店名のアシッドはアシッド・ジャズへのオマージュなのか!」と驚嘆し、うれしくなった記憶も頭をよぎります。「そりゃインコグニートが店内に流れるはずだわ」
さらにオリジナル・ラヴ『LET'S GO!』(1993)、椎名林檎『LET'S GO!』(2019)を聴き比べ、どちらのトラックからも音楽の歴史への確かなリスペクトを感じつつ(「おお!ヴィヴラフォン!フルート!クラビネット!ワウギター!突然ラテンのモントゥーノピアノ!」、「林檎さんのドスの聴いた唸り声ヤバい!」などと悶絶しながら)リハモの照準を定めていきました。
そしてリハモへ
ここまできてようやくピアノに向かい、リハーモナイズに手をつけるべくメロディを歌ったり右手で弾いたりしながら、左手でコードをあてていきました。
コーラス(サビ)「ベジタブルR&R」
ヴァース「桃栗三年〜足元失礼〜真っ赤なあの娘は〜放ったらかしでも〜泥沼のハイウェイ〜」
シャッフルのリズムに、3つの7thコード、メジャーかマイナーかわからない摩訶不思議なメロディの「ロックンロール」を、4ビートのスウィングのリズムでマイナーのコードにリハモしてみることにしました。
「ブルース」を「マイナー・ブルース」にリハモした感じにでしょうか?
(というよりはCドリアンスケールのモードという感じかもしれません)
結局隣家にお引っ越しするくらいの超近所の移動になったのですが、どうやら反対方向に家を出て地球を一周してから気づいてしまったようで、ここに辿り着くまでにかなり時間がかかりました。
「ブルース」とタイトルに入れておきながら、12小節のブルースから遠く離れ、短調の哀愁にブルースの魂を宿してマイナーペンタトニックなメロディで歌われる日本の演歌・昭和歌謡(青江美奈『伊勢崎町ブルース』(1968)や美川憲一『柳ケ瀬ブルース』(1966)など)の無意識化での影響もあったのでしょうか。D.N.A.にまで刻まれてしまっているであろう幼少期の記憶おそるべしです。
ヴィヴラフォン
制作しはじめ音を部屋で流していたら、仮歌で入れていたヴィヴラフォンを聴いた妻が隣の部屋から「大野雄二!ルパン!ルパン!」と反応してくれて「そっか!」とYOU & THE EXPLOSION BAND『ルパン三世'80』(1979)を聴き返します。
続けて「ヴィヴラフォンの倍音心地いいなぁ」とひととき「ロックンロール」から離れて、チック・コリアのカバーRodney Green Quartet Feat. Warren Wolf『Humpty Dumpty』(2017)を聴きます。
まるで温泉に浸かっているような気分で小休止。
春がきました
制作していく中でエレキギターを買って憧れつつもうまく弾けず、シンセサイザーで打ち込みに励んだ学生時代(ヴァン・ヘイレン『Jump』のギターが弾けずにシンセを弾いてました)、社会人になってもずっと音楽が好きでサンプラーやハードディスクレコーダーでサンプリングしたりしながら音楽を作っていた若き日を思い出しました。当時は音楽理論のおの字も知らず、著作権フリーのサンプリングCDや、飛行機の音を録音したり、ギターやSH-101などのシンセやカリンバを適当に弾いたりして直感というかほぼ勘と初期衝動だけでこんな音楽を作っていました。
「そっか昔っから楽器練習してないよね…そんな私に楽器に触れる機会を作ってくれたザ・ワースレスありがとう」
とこの企画に感謝しながら、手にしたスマホのタイムラインには双子のおふたり(ぴーひゃらん & のんしゃらん)、ミスターのお誕生日(「おめでとう!」)の投稿が流れていきます。
「ぜんぜん間にあわないよ〜」と思いつつ、河津桜やオカメ桜が咲きはじめ、木蓮の蕾がほころびはじめました。
春がきました。さすがにそろそろリハモの種を蒔かないと。
4ビート
絵本『やさいさん』を開いて、ループする心地よさはまさに「アシッドジャズ」(クラブジャズといってもいいかも)や「ヒップホップ」が体現していたあの時代の感覚に似ているなと私なりに感じていました。ループしながらもお話は展開し、景色はどんどん移り変わっていきます。
リズムはシャッフルから4ビートのスウィングに変えることにし、ハイエイタス・カイヨーテ『Shaolin Monk Motherfunk』(2015)を聴き「BPM(テンポの速さ)はこの曲くらいかな?」とか「歌声を少し歪ませてもいいかな」とか、韻シスト『66』(2002)、エゴ・ラッピン『Nervous Break Down』(2000)を聴き返し、ジャンルは違えど「はじめてライヴで聴いた衝動と感動はまさに「ロックンロール」だったな」と思い返したりしていました。
私は転がるピアノも弾けないですし、ギターソロを弾くよりも聴く方を選んできたので、いまの私にできる私なりの「ロックンロール」をどんな編成にすべきか探るべく、オリジナル・ラヴ『bless you ! 』(2019)(「アシッドジャズ」からガチの「ジャズ」へと進化を遂げた現在進行形の田島貴男さんのギターが聴けます)を聴いてみました。
「bless you ! 祝福を 愛を 慈しみを あなたに」
さらにそこから続く歌詞が優しすぎて泣けてくるまさに名曲です。
この曲を聴いて「はっ!オルガン!」と心が決まり、今回はオルガン、ベース、ドラムのトリオ編成を中心にアレンジしてみることにしました。
サンプリングからヒップホップへ
初期のサンプラーROLAND MS-1 で音楽作りをしていた頃を思い出し、今回はサンプリングの手法を使って音楽制作をすることに決めて、DAW(音楽制作アプリ)Logic Proに付属している(無料で音楽が作れるアプリGarageBandにも付属)商用利用ロイヤリティフリーのApple Loopsのネタをディグりはじめました(全部聴いていくとそれだけで面白くて日が暮れてしまうやつです)。
ジャズのスウィングするドラム、サビの「ベジタブルR&R」に重なるフルート(ミスター!コメントでフルートに反応してくれてありがとう!入れてよかった)ギターなど使えそうな素材を見つけていきました。
「世界のみんながくぎづけ〜」の4小節のフレーズもApple Loopsのサンプリングネタからかっこいいグルーヴのベースラインとオルガンのフレーズを発見したことで「いっそのこと倍テンポ(この場合はBPM=196を半分=0.5倍=98ととらえる)に落としてラップしてみるのも良いのでは?」とパチーン!とひらめきました。
原曲では四度上のサブドミナントのF7に展開するのと同時に印象的なベースラインとシャッフルからスクエアに変わったリズムで、新しい展開が生まれた印象があります。
リハモではCm7のドリアンからC7→Ⅱm7→Ⅴ7(原曲のヴァースをⅡ→Ⅴでリハモしますが、メロディのスケールは同じ)に変わり、リズムは半分のテンポでグルーヴを変え、そこにラップを乗せることで、原曲と同じような「新しい展開が生まれた印象を表現できないかな」と考えました。
「世界のみんながくぎづけ 完璧なボディ 素敵なヒップ
誰にも相手はつとまらない この僕だけ」
ミスターの歌詞から個人的にヒップホップ感万歳な印象を受け取り、柄にもなくラップしてみた感じです。ちょうど3月9日に「ナタリーの小沢健二とスチャダラパー「今夜はブギー・バック」の30年を語る」を読み、2022年に今夜はブギーバック/あの大きな心(小沢健二) × Rollin' Rollin'&サーカスナイト(七尾旅人) × ONEMAN(蓮沼執太フィル) のマッシュアップカバーを制作したのを思い出したのもラップをするきっかけになっていると思います。
一連の小沢さんのカバー企画でリハモしてカバーする楽しさ(原曲や他の方のカバーと聴き比べたりできるのもすごく楽しい)を知ったんですね。
ヴィヴラフォン、オルガン(後半のソロとか)、ウォーキングベースのベースラインあたりは手で弾いています。3/12に近年の私の推しのひとり松木美定さんがJ-WAVEの番組企画で川本真琴『1/2』(1997)をカバーされているのに気づきradikoで聴いたのですが、ジャズの手法で見事に新たなアレンジを施されていて「うぅ!もっともっと!アレンジしたい!それぞれの楽器をもっと凝っていきたい」って気持ちも湧きましたが、脳内で「あんた!その沼に入ったら4月になってもでけへんで!」とオカンの声が聞こえ、ぐっとこらえて今回はサンプリングでループする心地よさのコンセプトを優先し、トラック制作がひと段落しました。
歌入れ(「だれか歌ってくれないかな」問題)
リハモのアレンジが終わり、いつも困り果てる歌入れ。
歌うのは好きですし「うまく歌いたい」気持ちもありますが、現実とのギャップにいつも心がギュッとなって「だれか歌ってくれ〜!」となる歌入れ。リハモのアイデアを思いついた段階でほぼ満足しているのです。
ザ・ワースレスはミスター、sunnyさん、双子のおふたり(ぴーひゃらん、のんしゃらん)がスーパー歌って踊れるがジャグ・バンド(マリオネット担当のなかたくんは踊り担当で寡黙だとしても)!
なので歌がとても熱い(厚い)んですね。
「ベジタブルR&R」ではコール & レスポンスも楽器ではなくコーラスが担当し、トマト、ゴボウ、ナス、ピーマン、サツマイモとたくさんのお野菜を紹介してくれます。この曲では肝腎要のコーラスを省略できないなと感じました。
もはや「だれか歌って」とか悠長なことはいってられず、練習スタジオ(2時間)で、ひたすら歌とコーラスを重ねていきます(ラップも重ねます)。
重ねたコーラスに厚みをもたせるためまたコーラスを重ね、下のハモリを重ねてさらに同じ音と声でダブリングのコーラスも重ねるをくりかえして声のミルフィーユが積まれていきます。女性コーラスの部分も男性の私が歌うので、もはや内山田洋(前川清)&クール・ファイブかという様相になっていきました。
恋する野菜の気持ちで歌う
歌詞は「恋するあの子に美味しく食べて欲しい」
歌う際には「野菜の気持ちになって恋するあの子に愛を伝えて欲しい」
とインスタライブの『ベジタブルR&R』Q&A配信でミスターがカバーのポイントを伝えてくださっていたので、野菜の気持ちになって歌ってみました。
「お皿のはじに寄せないでくれよ」あたりに、野菜の懇願や祈りにも似たやるせない気持ちが少しこめられたかなと思いますが伝わりますでしょうか。
シャウト問題
歌の最後の課題はシャウトでした。
原曲でミスターは「ロックンロール」マナーを尊重され「フゥー!」と歌ってらっしゃいましたが、アレンジも変わったしさてどうするべきか。
B'zの稲葉さんなら「フゥッ!」かな?
Bumpの藤くんなら「オーイェーエーアハーン!」かな?
ジェイムズ・ブラウンなら「キィィィィィー!」かな?
悩みますよね…シャウト問題。
結局今回私はプリンス → 岡村っちゃんの「アォッ!」で締めました。
ふきのとうMIX
今回もレコーディング、ミックス、マスタリングまでひとりでD.I.Y.してみたわけですが、ほんとうにむずかしくて奥深い世界です。歌とコーラスのトラックだけでもめちゃくちゃ重なってしまったのもあり、割り切って勢いだけで進めたのでかなり荒い仕上がりになりましたが、「それもまたよし!」と気持ちを落ち着け、この春にスーパーで運良く見つられて作って食べた「蕗の薹の天ぷら」と「蕗の薹味噌」のほろ苦い美味しさを思い出して、
『ベジタブルR&R ふきのとうMIX』と名付けました。
「幼い子どもたちにはまだわからないかもしれない奥深いお野菜の世界が広がっているんだよ」という豊かさと春の恵みに感謝して。
ロックンロールとは
胸を熱くし心躍らせ体を踊らせる音楽
時代が移り変わってもその精神は死なず、かたちを変えて何度でもリバイバルして生まれ変わる魂なんだと感じました。
「ロックンロール」の12小節の体裁をとらないピチカート・ファイヴ『ロックンロール』(1993)、くるり『ロックンロール』(2004)、はたまた「君の好きなロックンロール」と気になる歌詞が登場する柴田聡子『Your Favorite Things』(2024)を聴きながら「ロックンロール」に想いを馳せた音楽の長い旅路も終わりです。
私たち世代のロックンローラー
ヒロトとマーシー、ベンジーにチバユウスケ、吉井和哉、イースタンユースにサンボマスター、THE BAWDIESなどなどにも触れてみたかったのですが、それはもうそれだけで熱く長くなりすぎるので今回はそっと心にしまっておきます。
#ラバーズ一月一曲 はまるでワースレス音楽学校
みなさんの #ラバーズ一月一曲 を聴かせていただくのが毎月の楽しみになってきました。
こどもたちの元気な歌声や踊り、ウクレレのふわはねさんやあやさんの弾き語りやワークショップ、ギターでの弾き語り、ノーウェーブやハウスをモチーフにしたパンキッシュなカバーや、私とまったくちがう発想からうまれるリハーモナイズのカバーなど(この記事を書いている間にもむらたぬきさんの「ベジタブルR&R」をさらに「ロックンロール」でリハモされたカバーが発表されて目から?耳から?うろこでした!)、みなさんの個性がそれぞれに花開き、忙しくあわただしい日々の中、一瞬だけでも音楽に触れてみたいと思えるきっかけがうまれているのが感じられて、見たり聴いたりしているだけで、うきうきとうれしくなってきます。
個人的に「この企画は #ワースレス 音楽学校だな」って感じがしています。
今回も書かせてもらったようにどの曲も実際にカバーに取り組んでみるとまだまだ知らないことがたくさんあるんだってことに気づけて、とてもとても勉強になります。
私はその中でも勝手にリハモ科(あるのかそんなの)に入学した気分になって自分なりに楽しみながらカバーに取り組んでいます。
毎回こんなに濃いめの熱量でリハーモナイズやアレンジはできないかもしれませんが、またふとアイデアが浮かんだ際には参加してみたいです!
追伸:
投稿後にこの記事を読んでくださったミスターが「ベジタブルR&R」の元ネタについてインスタグラムで触れてくださいました▼
https://www.instagram.com/p/C42cVPBPsoD/
やっぱり「ロックンロール」に対する深い尊敬と愛があってのあのイントロだったんだなと感激しました。