虫嫌いを克服させる千本ノック 95本目 ウスモンフユシャク(薄紋冬尺蛾)のオス
「なにしてるんですかぁ?」
あきらかにこちらに向かって、遠くから女の人の声が発せられた。
そして、近づいてきた。
見ると、30代くらいの美人だ。赤ちゃんを抱っこひもで抱っこしている。
「なにしてるんですか」
責めるように問うてくる。
「これを撮ってます」と蛾を指さす。
首をかしげている。
これが蛾とわからないのか?
「蛾です」
「ここ、女子トイレですよ」
「知ってますよ」
リスクは承知の上。なので、人が遠ざかるまで待っていた。撮ろうかかなり迷ったのは事実。
ただ、この蛾の模様は少なくとも今シーズン撮っていない。少なくともそうと認識して撮ってはいない。
あきらかに模様が薄いんだ。
そして、鱗粉も落ちているのかもしれないが、それでも翅の模様が微妙に違う気がするのだ。
撮らなければ答え合わせもできない。
美人でこの正義感の強さ、学級委員タイプだ。
撮った画像を見せたり、若干のやり取りをして納得はしたようだが最後に捨て台詞。
「誤解されますよ」
誤解したのはあなたです。一般論でごまかさないでください。
と言語化されたのは帰りの電車だったけどね。
まあ、誤解されるのは承知の上。まさか一般のお客さんに言われるとは思わなかったけどね。そこで商売している人や警官ではなく。
痴漢の冤罪もこうして起こりうることはあるだろうなとは思った。
さて、帰りの電車も迫っていたこともあり、満足いくようには撮れなかったが。
薄いね。
この2日前、深夜のB公園では冬尺蛾のメスをフラッシュして撮ると懐中電灯で照らして見つけたときよりも黒っぽく写った。
ここでは昼間だったこともあり、自然光で撮れる。それが女子トイレの窓に止まっていても撮りたかった理由でもある。
男子トイレとの対比からも、この窓があるところは手洗い所であると思われ、かつ、見ての通り、向こう側は透けても見えない構造になっている。
ただ、明かりをとるためだけの窓だな。
男子トイレもそうだが、公衆トイレの個室には、こんな立った時の大人の目線よりも下に窓なんてつけないでしょ。
撮る前にいろいろ考えたわ。
と、まあ、思い出に残る撮影になったわ。
まったくもって普通種のようなんだけどね。