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よにん、ごにんめ。私たちは知らないうちに誰かを救っている。

よにん、ごにんめ

土屋明子・善太夫妻

「弟が駅前でスナックをするらしいから、応援してあげよう」

朝起きると、唯一同居している長男大吉が理解できない一言を発した。

息子は三人いるが、大吉が言っている弟というのは、間違いなく三男のことであろう。

思えば、三男は生まれた瞬間から突拍子がなかった。

生まれるときも、陣痛が始まるでもなく、なんの前触れもなく突然生まれた。

目を離せば、手に靴をはめてどこかに消えたり、

入園式では周りの子は整列しているのに、一人ブロック遊びを始めてしまったり。

それなりに大きくなっても、相変わらずだ。

仕事から帰ってきたら、ロン毛から急に五厘がりになっているなんてことも。

社会人になれば変わるだろうと思っていたが、社会人になってもそれは変わらなかった。

突然結婚するからと、新卒で勤めていた某省庁を一年で辞めて、地元に帰ってきたかと思えば、

絶対にならないと宣言していた教員をしていたり、あの子にはついていけない。

もう何も言わない、ほっておくことにしようと妻と話していた直後である。

三男がスナックをはじめるらしい。そんな話を耳にした。

これ以上馬鹿な真似はよせ。と、電話をして怒鳴る寸前までいっていた。

しかし、今日の朝、長男が「応援しよう」と言ってきた。

長男が言うからには、三男ならどこかやれそうな気もしてきた。

私も妻との結婚を決めるときに自分に言い聞かせていた言葉があることを思い出していた。

「私は見る目がある。」

妻もきっと同じことを思っていただろう。

そんな二人の息子であるあの子も見る目があるだろう。

「私は見る目がある」と思うことで、自分が選択してきたことを正解にしてきたと言えるかもしれない。

実は、息子たちには詳しく話していないが、僕は20代の頃に自分で商売をしていた。

自分で、といっても父を継いでの二代目であるが。

うまくいかず、「自分には見る目がある」と言い聞かせ、その商売は廃業させ、サラリーマンになった。

そんなときを支えてくれた妻。今では一家の大黒柱である。

今度お店にいってみようと二人で約束した。

#創作大賞2024 #エッセイ部門
#第4話 #つながり

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