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縁結びの神様から会いにくることだってある

「ねえ、なんか空気悪くない?」


私の母は、『目に見えないものが見える人』だ。

伊達一族の末裔に憑かれて一週間ほど吐き続けていたり、近所にいる霊感の強い知り合いと喧嘩になって結界を張られたり(その人の自宅に近づくことができないらしい)、数え切れない本数のエピソードがある。我が母ながら現実離れしすぎて面白い。結界張られるって漫画でしか見たことないぞ。なんだそれ。

気が触れているだけだ、と思ったことも何度もあったけれど考えば考えるほど嘘なわけがない。
「ほら、神様が来ているよ」と神棚を指差すと飾ってある御札が風に吹かれてなびいていたし、実際に私の部屋で塩をまくと重かった空気が嘘みたいに変わる。夜中でも雨の日でも、晴天の日に換気をしたくらいに軽快な空気になる。どんな能力だ。

そんな母は、超がつくほどの純情で、ラブホテルすらも未だによくわかっていない。今でも「ねえ見て見て!あのホテル一泊五千円だって!安いね」と車内の空気を凍りつかせてくれる。ゆえに恋愛にも超ピュアで、私と弟は小さい頃から『母には色恋沙汰の報告はしない』という確固たる意思が根強く芽生えていた。


今回のこともそうだった。

付き合って一週間が経つか経たないかのその日、恋人が初めて私の自宅に遊びに来た。
私の自宅は少し変わっていて、アパートの二階の三部屋すべてを、母・祖母・私がそれぞれ借りていた。夜中の帰宅になったので、母にはLINEだけ入れて自室に帰って来ていることを伝えた。もちろんまだ紹介はしない。付き合ってまだ一週間、時期尚早だ。

明け方、私は朝の支度をするために一度恋人を見送った。その足で同じアパートの母の部屋に向かうと、不機嫌な声で「LINE読んでくれた?」と聞かれた。寝ぼけ眼で携帯を開いた、一瞬で眠気が覚めた。

「部屋に誰か来ていますか?その方のおじいちゃんがお母さんのところにいらっしゃいました。紹介してください」

・・・・・渋滞している。

情報の渋滞が凄まじい。
とりあえず母は、恋人の祖父が語りかけてきてずっと心配をしているので四時頃から一睡もできずにいたらしい。状況はわかった。
もう、時期尚早とかどうでもいいか。さて、恋人には。恋人にはどうやって説明をすればいいのか。きっといずれは通る道だ。気持ち悪がられたらそれはそれで仕方ない。ええい、そのまま話しちゃえ。

「ごめん、おじいちゃんがお母さんのところに来たらしくて、えっと、で、挨拶をしたほうがいいって流れになってるんだけれど、いや、あの」
「おじいちゃん来たの?わかった、とりあえず戻るね」

え?これで?わかったの?
東大王くらいの『(ジャジャン)超難問』じゃなかった?すごすぎない?

20分後、恋人はコンビニの袋片手に挨拶に来てくれた。

「これ良かったらお供えしてください。あっ、こっちは皆さんで食べてください」
当たり前のように仏前に手を合わせて、当たり前のように母から話を聞いている。父の遺影をじっと見つめて「良い笑顔ですね」なんて言う余裕もあるし、なんなら前のめり気味に聞き出している。おじいちゃんはほんとうに来たのか、何て言ってたのか、父方母方どちらのおじいちゃんなのか。母も生き生きと話している。むしろ、恋人はおじいちゃんと再会したんじゃないかってくらい嬉しそうだ。


こんな挨拶見たことない。

恋人の亡き祖父が母に知らせにくるってなんじゃそりゃ。

家族に恋人を紹介したことは今まで一度もなかったし、地元の銘店の菓子折りを持って、小綺麗な服を身にまとってするのだと思っていた。思い描いていたものじゃない。でも、目の前で楽しそうに二人が話している。

ああ、こういう人が家族になるのかもしれないな。





一年後、彼と結婚した。
ごくごく自然に夫婦になった。

縁結びの神様は、夫の亡き祖父。

運命はあんまり信じないけれど、大切な人は神様になって近くにいてくれるのかもしれない。

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